「神官さん! お帰りなさーい!」
教会に設置された折りたたみ式のテーブルの上に、様々な料理が並べられる。
炎喰い鳥のロースト、暴れ鬼牛のグリル、オークのソテー……なにが様々な料理だ! 焼いた肉ばっかりじゃねぇか!
いや、美味しいけどね。でも脂っぽいものはあんまり食べてなかったから胃もたれが心配だな。
おっ、ブドウあんじゃん! でも皮を剥くのが面倒だ。俺は隣にいたオリヴィエにブドウをブチ込む。
「イテッ! えっ、なんですか急に」
「あっ……すみません癖で」
「癖?」
潰れたブドウを頭にひっつけながら怪訝な顔をするオリヴィエに、カタリナが割と大きめの声で耳打ちをする。
「まぁまぁ。魔物に攫われてたんだよ? そりゃあ不安定にもなるでしょ」
なんかこの教会血生臭くない?
前は鼻が慣れててそこまで気にならなかったけど、教会でして良い匂いじゃねぇよ。そりゃ子供にお化け屋敷なんて言われるわけだ。
シアンのとこは植物モンスターが多かったから常にフローラルな香りがしてたのに。
「ああっ、ほら神官さんがまた泣いてる」
「よほど酷い目にあったんだ……可哀想に。でも本当に良かったです。この教会が閉鎖されたせいで、蘇生するのに隣町まで行かなくてはならなくて」
俺の涙を啜ろうとするリエールをいなしながら、俺はオリヴィエに尋ねる。
「本部から神官の派遣はなかったのですか?」
「そうなんです。まぁ魔物の襲撃を受けた教会ですからね。なかなか志望者がいないみたいで……ゼロではなかったみたいですが、急に病気になったり土砂崩れで身動きが取れなくなったりして結局この教会は神官不在のままでした」
そんな都合のいいことがあるか?
俺は夢の中に出てきたロリ女神を思い出す。
……いいや、関係ない。偶然だ。そうに決まっている。だって神が俺をこの教会に縛り付けているとしたら、俺に逃げる術など無いじゃないか。
「そんな暗い顔をしないでください。シダー掃討作戦も上手くいきました。ヤツら、俺たちに恐れおののいて全然襲ってこなかったんですよ。それに、大司教様が魔物避けの結界を強化してくださいました。力の強い魔物であればあるほど教会に近付くことはできないそうです」
つまりシアンの救出は期待できないと。
っていうか魔物ならもう庭にいるんだけどな……ここにきたっていう大司教はマーガレットちゃんを見て何を思ったのか。見てみぬふりしたのかな。俺ならそうする。
「ねぇねぇユリウス。これ」
だから名前でよぶなっつってんだろうが。
リエールが取り出したのは、俺が勇者に宛てた手紙だ。俺の捜索をさせないためにしたためた手紙だったが、どうやら効果はなかったらしい。
「私にくれた手紙のおかげで、あなたの場所を見つけることができたの。この手紙の匂いと、あとこれを持ってた魔物をちょっと搾り上げて。ね? 私頑張ったよ。褒めて褒めて」
あっ、手紙に血の染みがついてるぞ。
そうか……テイマーのリエールなら追跡を得意とする精霊も持っているのかもしれない。
迂闊だった。手紙は効果がないどころか逆効果だったわけだ。
クソがッ! パステルイカれ女め、余計な事しやがって!!
「あっ、ダメだよユリウス。みんな見てる……待って、止めないで」
リエールに掴みかかったが全く歯が立たないので、俺は何もかもを諦めてテーブルに突っ伏した。
そうだ、今更嘆いたところで俺TUEEEスキルチートニート生活は戻ってこないのだ。
またここで際限なく送られてくる勇者の破片を繋げては治し繋げては治し……
「うっ、ううっ……」
「どうしたのユリウス。どこか痛むの?」