コミカライズを担当していただいてるタナカトモ先生(@TT_TANAKA)とのコラボSS第二弾です!
ぜひ挿絵機能をオンにしてお読みください。
勇者カタリナの朝は早い。
東の空がようやく白み始め、寝起きの朝日が路地で寝入っている酔っぱらいを照らすのを横目にカタリナはたった一人で街を発とうとしている。
今日はカタリナの冒険に我々取材班も同行させてもらった。
――どういった目的でこんな朝早くに冒険を?
「食料の調達です。日頃お世話になっているパーティのみんなにご飯を作ってあげようと思って。サプライズですね」
そう話してくれたカタリナの顔は明るく、足取りは軽やかだ。
向かったのはヴェルダの森である。木々の葉についた朝露が輝く鬱蒼とした森で、カタリナは手際よくキノコや野草を採っていく。
――慣れているんですね
「そうですね。冒険中の食事を私が作ることも多いので。この森の素材のことなら結構詳しいですよ」
そう言ってカタリナは採取した素材を我々取材班に見せてくれた。
「こっちの草とこっちの草。よく似てるんですけど葉の先が丸い方が薬草、トゲトゲしてる方には毒があります」
そう言ってカタリナはトゲトゲしている方を籠に入れた。
――そちらは毒草なのでは?
「こっちが美味しいんです」
良薬は口に苦しという言葉がある。逆もまたしかり、ということか。
勇者とはタフでなくては生きていけない。カタリナは我々取材班にそう伝えようとしたのだろう。
「あっ!」
その時、カタリナが動いた。何か見つけたらしい。
大きな切り株の根元を覗き込むようにしたカタリナが、我々取材班に手招きをした。
「これはレアですよ。マンドラゴラです」
マンドラゴラ。その根は人型をしており、成熟すると土から這い出て歩き回ることもあるという。引き抜く際に上げる悲鳴をまともに聞くと最悪の場合死に至るというのは有名な話だ。魔術や錬金術の材料にもされる貴重な素材であるため、古くから人類は死を回避する工夫を凝らしマンドラゴラの収穫を行ってきた。勇者カタリナはどのような収穫法を見せてくれるのだろうか。
我々取材班が注視する中、カタリナはおもむろに手を伸ばし、マンドラゴラの葉を鷲掴みにした。
「よいしょー!」
掛け声とともにマンドラゴラを引き抜く。カタリナの収穫方法はなんとも豪快なものだった。
しかしこの方法でどうやってマンドラゴラの悲鳴を防ぐのか。
『ギエエエエェェェ!』
防がなかった。
マンドラゴラの死の悲鳴が森中に響き渡る。(※取材班は特殊な訓練を受けています)
我々取材班は驚愕した。なんの防御策もない、シンプルな収穫法。
勇者カタリナは無事なのか。
我々取材班はマンドラゴラを握り込んだままひっくり返ったカタリナを覗き込む。カタリナはゆっくりと目を開けた。
「う、うーん……あれ、死んでないですね? まだ育ち切ってないマンドラゴラだったのかもしれません。死んでいればこのまま街まで帰れたんですが」
――大丈夫ですか
「え? ごめんなさい、なんですか?」
――大丈夫ですか
「あぁ、はい。私もマンドラゴラはすりおろし派です」
我々取材班はカタリナとの意思疎通を断念した。
先ほどの悲鳴は命を奪うには至らなかったが、彼女の耳には確実にダメージを与えたようだ。
木に掴まり、覚束ない足取りながら立ち上がる。この状態でもカタリナの採取欲は留まるところを知らない。
「マンドラゴラの悲鳴で鳥が落ちてきましたね。ラッキーです。スープの具が増えます。神官さんにもおすそ分けしようかな」
マンドラゴラの悲鳴により聴覚と平衡感覚がおかしくなっているのだろう。落ちてきた鳥を捕まえるべく、半ば這うようにして森を進んでいく。
しかしそのような状態で森を歩くのは極めて危険だ。この場所において、生態系のトップに君臨しているのは我々人間ではないのだから。
それは水鳥が魚を狩るのに似ていた。鬱蒼とした木々に隠れた空から降り立つ巨大な猛禽類型の魔物がその凶悪な鉤爪でカタリナを鷲掴みにし、再び空へと舞い戻っていく。
「ああぁ~」
カタリナの悲鳴があっという間に遠のき、やがて聞こえなくなった。
この世界は弱肉強食。ご馳走にありつけるのは強い者だけなのだ。そんな当然のことを改めて突きつけられた取材であった。
今回の取材はここまで。
『食物連鎖下層ドキュメンタリー』、次回の主役はミジンコ。
お楽しみに。
「教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです」コミカライズ1巻7月7日(火)発売! 感無量です。
タナカ先生描き下ろしイラストや四コマ、私が書かせていただいたSSなども収録。
マンガUP!での連載を追いかけていただいている方もそうでない方も楽しめる内容になっています。
何卒!よろしくお願いします!