『ふむ。１つの世界で渡してきたか』
「はい。とりあえず１つです。ただ、１つ１つやっていくのには今回みたいな方法だと時間がかかりすぎますし、やりたくないですね」
『そうか………であれば、少し待っておれ』
「はい？」
午後。帰宅後に海外サーバへとログインして骸さんに報告をしてみれば、すぐに待たされることになる。
伊奈野は早く集中して勉強したいんだけど？みたいなオーラを出しながらいつもとは違い周囲を無視せずに勉強をしていく。
少しの待ち時間すら無駄にすることはない。
それから約１分ほどが経過し、
『……待たせたな』
骸さんが伊奈野の前に現れる。その横には今まで見たことのないアンデットが控えていた。
何かで役立つから貸し出すとでも言ってくるのかと思ったが、
『これから力を取り出してだな……………『脱魂』』
骸さんがそのアンデットへと手をかざし唱えると、突然アンデットが崩れる。
そして代わりに、崩れた死骸の上には青白いものが浮かんでいた。
（多分『脱魂』って言ってし、たぶん魂を抜いたんだよね？配下のことを大切にするとか言ってたのに、魂抜いちゃうんだ）
少し思うところはあるものの、伊奈野は黙って骸さんの言葉を待つ。もちろん、ノートに文字を書き込む手は止めずに。
『其方には、この魂へ触れてもらう』
「魂に、ですか？危険性とかはないんですよね？」
『うむ。死体として動くアンデットの場合、精神は非常にもろいものが多い。これはまだ余の支配下に置いたばかりであるから、余計に弱いのだ』
「なるほど？」
それは逆に言えば、精神面が強いアンデットに触れる場合はまずいことが起きることがあるということではないか。
そんなことを考えつつ、伊奈野は一抹の不安を覚えながらも迷っている暇はないと立ち上がり腕を伸ばし、
「っ！？」
伊奈野が魂へと触れた瞬間。それははじけるように消え、一部が伊奈野の中に吸い込まれるようにして入っていく。
淡く光る自分の体を見ながら伊奈野は困惑しつつ、
「え、えぇと。これでよかったんでしょうか？」
『うむ。問題ない。うまくいったようだな』
骸さんへと尋ねるが、一切問題ないとでも言いたげな自信のあふれる声とともに頷かれてしまう。１番詳しく知っているのであろう骸さんがこの様子であるため伊奈野もこれ以上何か不安な気持ちを口にはせず、現象が落ち着くのを待つ。
「さすがにここまで体が発光していると勉強に集中しにくいですね」
『であろうな。さすがにそれは余も考えなかった。すまぬな』
「いえ。まあ、しにくいだけでできないわけではないので」
『ん？それはどういう………む、この威圧感。もう無視する状態になってしまったのか！？』
体が発光しているため集中しにくいが、伊奈野のスルースキルはこの程度易々と突破する。まだ骸さんは話しておきたいことなどがあったのだがすでにどうしようもない状態に伊奈野がなってしまい、次の休憩時間までおとなしく待つしかなくなる。
そこへ、
『……………』
『む？なぜ余の方へ近づいてくる？其方には邪神の力があるから近づきたくないのだが』
音を発することなく浮かび上がった黒い本が、骸さんへとゆっくり近づいて行く。
黒い本は邪神の生み出した寄生虫を封印した存在であるため骸さんは最初こそ警戒したのだが、
『む？待て。そこに書いてあるのは、まさかっ！？』
『……………』
『や、やはりそうか。これは城の図面ではないか！なぜこれを！？』
黒い本が開いて見せたページ。そこには、城内部の図面がびっしりと書き込んであったのである。
誰かさんは勉強をしていてあまりしっかりと覚えられないとか考えていたが、黒い本はしっかりと記録していたのである。
それも、日本サーバでの改造の様子も見ていたので詳しい内部の様子まで覚えている、
『しかも街の地図まで………予想以上に情報を得られたな』
ついでに黒い本は、以前伊奈野が店主さんから買った各地の地図まで貯め込んでいる。それを見せれば、街全体へ攻め入るときの手順も骸さんは思いつくことになる。
伊奈野の知らないところで、本来の目的の方も進んでいた。
ちなみにこちらも気づいていないが、
《称号『吸魂者』を獲得しました》
《称号『混ざり物の魂』を獲得しました》
《スキル『吸魂』を獲得しました》
《ユニークスキル『みんなで１つに』を獲得しました》
色々とログも流れていた。
ここで紹介したスキルはあくまでも伊奈野が体験して獲得したスキルや称号なのだが、
『さて。新しく獲得したスキルがあるだろう？』
「え？どうでしょう、分からないです」
『そうなのか？余の知る限り人であればそうだったはずだったが、変わったのだろうか……………まあ良い。では余の知っていたスキルを解説して進ぜよう』
「ありがとうございます？」
骸さんは解説を行なってくれる。
獲得した中でも、
『其方は先ほど触れた魂を取り込んだことにより、あの余の配下が持っていたスキルを身に付けたはずなのだ』
「あっ。そうなんですか」
『そうなのだ。他のスキルは自身で試してほしいのだが、とりあえずその中に連絡を取り合う上で便利なスキルがあってな』
伊奈野は魂に触れた時、アンデットからスキルを受け取っていた。
かなり力の強い存在だったようで獲得したスキルも様々だったのだが、伊奈野はそれをログで確認するということすらなく。とりあえず骸さんのお話を聞けばいいかという心境になっている。
そしてその骸さんが伊奈野へと渡したかったスキルというのが、
『『サイコキネシス』というのだがな』
「ん？……何か思っていたものとは違いそうですね」
