《スキル『反射1』を獲得しました》
「おっ。なんか普通のスキルを獲得してますね」
スクロールを使用した後、伊奈野はログを確認して新しくスキルを獲得していることを確認した。
見た限り2文字という短いスキル名であるし、それでいてあまり厨二臭はしない。ということで、伊奈野の中では普通のスキルという判断が下された。
「反射っていう名前なんですけど、何かご存知ですか?」
「私は知らないですね」
「僕も知らな~い。司書はどう?」
伊奈野が尋ねてみると、魔女さんや屈辱さんは首を振る。その隣ではうるさい人も黙って首を横に振っていた。
となると知ってる可能性がある人物に視線は集まるわけで、
「珍しいスキルではありますが、その中では知られているスキルだと思いますよ。効果も癖がないですし」
司書さんが答えた。
どうやら知識として持っていたスキルなようである。
「癖がない、ですか?」
「はい。効果は自身が受けた攻撃や魔法や状態異常などをわずかに反射する、というものですから」
「ほぅ?」
「ダメージの反射?」
「それはなかなか………」
伊奈野ではなく、魔女さん達の方が目を輝かせて興味深そうにしている。
(名前そのままの効果だねぇ。ゲームとかでたまにある、棘みたいなやつかな?でも、状態異常まで反射するのは珍しい気がするし………)
なんとなく有りがちなような、しかしそうでもないようなスキルであり伊奈野は使えるものかと首をかしげる。
とりあえず、
「勉強にあんまり関係なさそうですねぇ。残念です」
「あっ。師匠はそういうと思ってました」
「そうだよね。ご主人様はこういうの興味ないよねぇ。戦闘系なうえに、自分が攻撃を受けないといけないタイプだから余計に……………」
「いやいや。何か活用できるかもしれないですよ?諦めた時が試験終了です」
伊奈野の興味があまりなそうな言葉にそれぞれ反応を見せてくる。
魔女さんや屈辱さんは仕方ないと苦笑しているが、うるさい人はどうやら諦めるつもりはないようだ。
「うるさい人、良い感じのこと言うじゃないですか」
「そうですね……………ただ、雰囲気はなんか良さそうですけど、おそらく深いことは考えてないとは思いますよ」
「ひどいですね。ちゃんと考えてますよ」
「例えば?」
「例えば……………あっ。そういえば反射の詳しい説明がまだでしたね。司書。お願いできますか?」
露骨な話題そらしにうるさい人へ伊奈野達からのジト目が突き刺さる。だがうるさい人はいつも通りの貼り付けた笑顔でそれを受け流した。
こうなるとうるさい人に指名された司書さんも、
「………はぁ。なんだか話題をそらすために解説を求められるのは釈然としませんが、続きをお話ししますね。とは言いましても効果は先ほど言った通りのものしかありませんから、追加で言うとすれば反射の倍率がスキルのレベルを上げていくごとに増えていくといったことくらいでしょうか?」
「なるほど」
司書さんの言葉に納得する魔女さん達。効果も難しい物ではないし、今の説明で十分だったのだ。
ただそんな中、伊奈野だけは、
「ん?倍率?」
「師匠?何か気になる点などありましたか?」
「いや、倍率でダメージを返せるのはかなり強いのでは?」
そう。倍率でダメージを与えられるというのがおかしいのだ。伊奈野の知っているこういう系統の反射ダメージというのは、固定ダメージであることが多い。
どの程度の倍率なのかは分からないが、スキルのレベルをあげれば倍率も高まるということだったので多くのプレイヤーが持つべき必須スキルになる可能性も十分に考えられる。
「ああ。まあ確かに倍率で返せるのは強いと言えば強いのですが、スキルレベル1につき0.01%程度だったはずですのでそこまでは………」
「ああ。そうなんですね。それならまあ納得です」
納得する伊奈野。
だが、そんな伊奈野の脳裏に1つよくあると言えばよくあるような悪い考えが思い浮かんでくる。それは、よく環境構成が出てくるとありがちなことで、
「このスキルを防具とかに設置したら、それぞれ反射してくれるんでしょうか?」
「「「「……………ん?」」」」
伊奈野の言葉に、とても嫌な予感はするが何となく理解した魔女さん達が首をかしげる。
脳がその悪い事の理解を拒んでいる気がするが、それでもだんだんと嫌でも理解させられていき、
「今単純に私の反射が0.01%だったとして、上のTシャツとズボンと後細々した装備品に『設置』して合計でだいたい0.07%くらいでしょうか?そこからスキルレベルが10くらいにまで上がれば、0.7%。もうちょっと上がれば1%ですし、十分通用するくらいなのでは?」
「た、確かに……………」
「装備品がどういうくくりなのかはよくわからないんですけど、もっと装備品を増やして1つ1つに付けていけば相当な反射になりますよね?」
「な、なるかもしれないですねぇ」
1%の反射を大きいとみるか小さいとみるかは人次第だとは思うが、相手のスタイルによっては非常に刺さる場合がある。
伊奈野は使うつもりがないが、司書さんの認識よりはかなり使えるスキルなのではないかと思われた。
さて、そういった認識が生まれると利用したいものもあらわれるわけで、
「お嬢ちゃん!面白いことができるようになったって聞いたよ!!」
「え?あっ。は、はい?」
数日後、伊奈野の前に現れるのは店主さん。
両目が$のマークになっている。
「とりあえずこの盾に付与してくれるかい!ああ。報酬は追加する利益と販売数から計算するよ!」
「は、はぁ。わ、分かりました」
いつもよりかなり圧強めな店主さんに気圧されつつ、伊奈野に新しい作業が追加された、
この変化が何をもたらすのかはまだ分からないが、彼女の名をとどろかせる機会になることは間違いないだろう。