イベント後。
伊奈野はいつも通りと言うべきか、ヘッドギアを装着したのだが、
「ん?ログイン……………できる?」
ログインを完了させた。そしてそのままゲームをいつものようにプレイ(勉強をゲームプレイと呼んでいいのかは謎)できる。
そのまま普段通り勉強を続け休憩を入れて受験生らしく勉強漬けの時間を過ごしていき、
「………………ねぇ、瑠季ちゃん」
「ん?どうされましたのお嬢様。見たことがないくらい混乱してそうな顔をされてますわよ。状態異常にかかるのはゲームの中だけでにしてくださいまし」
「別に状態異常になったとかじゃないから……………ただ、そろそろアップデートとかメンテナンスとか来ると思ってたのに全然来ないからどうしたのかなって思って」
「へ?アップデートとメンテナンスですの?」
伊奈野の言葉に首をかしげる瑠季。ゲームの開発会社の株主であると同時にトッププレイヤーでもある瑠季なのだからある程度そういったゲームの情報を持っていると思われたのだが、
「私、特にそういうのがあるとは聞いてないですわよ?お嬢様はどこでそんな情報聞きましたの?」
逆に瑠季には首を傾げられてしまう始末。
非常に不思議そうな顔をして、情報源を聞いてきた。
そんな顔をされると伊奈野は何かが根本的に間違っているのではないかとは思いつつも、
「え?イベントの後だからそういうのが入るものじゃないの?今までのイベントの後は大概アップデートとかあってゲームできなかったから」
「あぁ~。なるほど?それは確かにそうかもしれませんけど……………それって、イベントとは言っても公式の、しかもメインシナリオ後の話ではなくって?」
「ん~?そうだったっけ?」
そう言われるとそんなような気もする。伊奈野の心は今そのような感じだ。
いままでイベントがあるというのは認識してもメインシナリオかどうかなんて把握はしていなかったため、そんなことを言われたところで判断ができないわけだ。メインシナリオというものは知っていても、メインシナリオがどんなものかまでは理解できていないのだから。
せいぜい、よく勉強できるように作られているという程度の認識しかない。寄生虫が発見できる貴重なイベントがあったことも忘れてはいないが。
「そっか。その辺は気にしてなったから分かんないや…………じゃあ、この間のはメインシナリオとかいうののイベントじゃなかったってこと?」
「そうですわね。少し重要なイベントではあったようですけど、メインシナリオにはかかわっていなさそうでしたわ。メインの次くらいに運営が力を入れていたといった感じではないですの?……………私としては二度と経験したくないですけど」
「ふ~ん?」
突然遠い目をした瑠季を不思議には思いつつも、伊奈野は納得する。メインシナリオと言うのはゲーム的に重要なのだということは認識していたが、そういったシステム的な面にもかかわってくるものだったということになる。
もうすこし興味を持つべきだろうかと悩む部分だ。
ただ、そう考えたのは一瞬で、
「そういう意味だと、もうすぐ来ててもおかしくなないですわね」
「ん?そうなの?またイベントが控えてる感じ?」
「そうですわね。私たちは受験が日月とありますけど、それに被る形で土曜と日曜に2日間イベントをやるみたいなんですわよね。運営がそれで叩かれてましたわ」
「ハハッ。海外も一緒にやるからその辺りは仕方ないよね」
瑠季が日程は教えてくる。と言うわけで、伊奈野がわざわざ興味関心を持って調べる必要がないわけである。
定期的に何かあれば瑠季が教えてくれるはずだし、しばらくそういう話が出なかったら伊奈野から聞けばいいわけだから。
受験日にイベントが被るというのは少し意外だが、海外が開発元となっているゲームであるためそういった部分が考慮されないのは仕方がない。
全ての文化に気を使っていればそれこそ全くイベントなんてできなくなるだろうし、海外サーバとのつながりなんて作らない方がマシということになってしまうのだ。
逆にこうして今までイベントをしてくる中で必ずどこかしらに影響が出ている関係上、一国に対して配慮をするなんて言うことをした方が問題になるくらいだろう。
「でも、その時期にイベントかぁ……………じゃあその日はそんなに混雑することはなさそうかな?」
「え?混雑するとは思いますわよ?イベントの時期に混雑しない方がおかしいと思いますけど?……………あっ、でも、お嬢様が心配している混雑で負荷がかかって時間の延長に影響が出るというのは確かにないですわね」
イベントの際はイベントに参加するプレイヤーが多く一時的にサーバへの負荷が減少するため、伊奈野が心置きなく勉強することができるのだ。
1番いいのはイベントに参加して勉強することでありそれができれば絶対に時間の延長は保証されるわけだが、
「いや~、今回はそういうのは厳しいですわね。単純に邪神が攻めてくるタイプのイベントですし、個室とか用意されませんわよ。それに、そこまでしているようなスペースもないと思いますし」
「そっか~。まあそうだよねぇ」
今回のイベントではそういったことが難しいように思われた。
通常のイベントで勉強ができるように設計されているわけがないのだし、こうなるのが普通というものだろう。
「でも、次のイベントがくるともう受験かぁ。近づいてきてるねぇ」
「そうですわねぇ……………しかし、ゲームのイベントの時期で受験の時期を感じるってずいぶんと特殊ですわね。明らかに受験生が感じるべきところではないですわよ」
「それは確かに」
自分たちが一般的な受験生ではないと笑いつつ、伊奈野達は朝の支度を行なう。
朝のゲームでしっかりと勉強をしてきた伊奈野は、今日もエンジン全開だった。
「ん~、今日も勉強日和だねぇ」
「……………急にどうされましたの?」