『何かがある。それは間違いないな』
「おっ、本当ですか?それなら例の魔王も解放できたりとか?」
『うむ。可能性としては十分あり得る話だな」
《称号『逆転のカギを知る者』を獲得しました》
大穴の探索開始から数時間。
骸さんは確実にそこに何かがあるということは感じ取っていた。炎さんも骸さんが言うのなら何かがあるのは間違いないだろうと疑っていない。
だが何かがあることは分かっているのだが問題も当然のように存在していて、
『ダンジョンマスターよ。この定期的な魔力の乱れはどうにもならんのか?』
「魔力の乱れ、ですか?」
『うむ。配下たちも途中までは上手く降りることができるのだが、魔力を乱す何かが起こっていてな。魔法にとどまらず魔力が関係するスキルなどの類も軒並みすぐ使えなくなるようなのだ』
「へぇ?」
『魔力操作の腕があればとどめておけるのだろうが、大半の配下は発動時から数秒しか保てぬようでな』
どうやら探索は順調でないらしい。
魔力が乱れてなんていわれても伊奈野にはあまりよく分からないのだが、思い返してみれば伊奈野も被害を受けたような気もしてきた。
そうしてとっかかりがあればすぐに思い出すのが、
「あぁ。そういえば、私も『魔力障壁』がすぐに崩れた覚えがありますね。あれは魔力が乱れる影響だったったんですか」
『む?ダンジョンマスターもあれは受けたのか?どう解決したのだ?』
伊奈野が穴を降りていくとき、足場にしたのが『魔力障壁』だった。確かに思い返してみれば長い時間使っていると『魔力障壁』が消えてしまっていた記憶があり、当時は下から攻撃が飛んできていて破壊されているからだと思っていたのだがどうやら違うらしい。
原因を知らずに突破した伊奈野としては効果的な解決方法など提示できるわけもなく、唯一言えることがあるとすれば実体験により効果があると分かる、
「効果が消える前にもう1回スキルを使うとかしか思いつかないですね。私はそれで無理やり行ったので」
『む、むぅ。そうか。あまり華麗な解決方法ではないが、行けたのだから余もそうするべきなのかもしれぬな。問題は、それだけ連続で発動してMPが足りるかどうかだが』
使い続けることができないなら、ダメになる前に新しく使う。そんな方法。
ごり押しのようなことであり骸さんはあまりやりたくはないといった様子だが、1番大きな問題はそこではない。
伊奈野は簡単にやって見せたが、骸さんの配下が伊奈野と同じように『魔力障壁』で降りているというわけでもなく、それぞれの能力でのMP消費量はバラバラ。伊奈野より大きくMPを消費しながら降下している配下が多いのだ。当然ながら数回ならともかく横穴を見つけるまでの連続使用なんてできるものではない。
しかも、消費量だけでなく伊奈野とは回復量も違うのだ。
伊奈野の驚異的な回復力とは到底比べ物にならない微々たる程度の回復しか配下たちにはできないため、伊奈野と同じ方法を使って横穴を発見するということは非常に困難であった。
「もし必要でしたら、上の方の階層に偵察に使えそうなモンスターを集めておきますが」
『む?確かに手は必要かもしれんからな。ここのモンスターを配下にした場合はたとえ殺されたところで心も痛まぬし……………頼むとしよう。場所の調整をさせてもらっても良いか?』
「もちろんです。現状冒険者が入ってきていないエリアがこの辺になっているので、一時的にこの辺りから新しく飛行型のこれとか配置して」
『うむ。後は飛行能力ではないが落下速度を大幅に低下させられそうなこれも頼む。ただ、ここまで配置できるのか?浅い階層は確か制限がきつかったはずだろう?』
「あぁ。それは大丈夫ですよ。こういう事態に備えてある程度余裕は持たせてあるので」
『む?そうだったのか。今回はそれに助けられたわけ、か』
伊奈野の方法を無理やりに試そうとすれば、骸さんの配下に一定以上の被害が出ることは間違いない。
ということで被害が出ても痛手にならない上に心も痛まないダンジョンのモンスターを活用した配下を追加で専用に作って送り出すこととした。
早速骸さんと炎さんの2人で専用のモンスターたちを生み出すエリアと生み出すモンスターの種類や数を決めていき、
「……………私は必要なさそうかな」
特に活躍できそうにもなく会話にも参加できなくなった伊奈野はひっそりと呟いて1人で作業を始めた。幸いなことに(?)、時間があるうちにさらなる魔女さん達の強化のために魔法陣などいろいろと作っておきたかったので自由な時間が手に入ることは悪い事ではない。
そう。悪い事ではないのだ。
そう思うことでなぜか分からないが痛む心を抱えているもののそれを鈍化させる伊奈野に、久しぶりに会った気がする黒い本がそっと寄り添う。
いつの間にか転移してきており、非常に自然な様子で伊奈野へと触れてきた。
「もしかしてなぐさめようとしてる感じ?その本の状態で私の肩の上で飛び跳ねるのってもしかして肩を叩いてなぐさめてるってことなの?」
伊奈野はそれの意図を理解しつつも構図があまりなごむようなものでもなかったため微妙な顔をすることとなったが。
本が肩の上で飛び跳ねても、オレンジ色の進化をしないと採用されないモンスターが「はねる」を使うのと同じようなものにしか見えない。
「それはバトルじゃなくてコンテスト用に鍛えてきたって感じかな?特定の条件の時にハートを多く稼ぎやすいみたいな」
「……………?」
伊奈野の言っている言葉がどういう意味なのか理解できないようで、黒い本は何も言わないままフワフワとしている。
とはいっても、理解できたところで現在は本の状態であるため結局喋ることはないのだが。
「あれ以降犬っころとは会ってるの?なんか、この間初めて会った時はあんまり仲良くなさそうだったけど」
「……………」
「ふぅん。この間会った時は黒い本に司書さんがかまってたせいで犬っころが騒いで怒られてた、と。ざまぁみろって感じなんだ……………仲は悪いままっぽいね」
「……………」
「別に仲が悪いんじゃなくて、向こうがつっかかってくるだけ?仲の良し悪しは同レベルでしか発生しない?喧嘩と同じ理論?……………なるほど?自分は同レベルだとは認めたくないってことね」
「……………」
「え?そう言えばなんで言ってることが分かるんだ、って?……………え?あれ?本当だ。何で分かるんだろう?私も全然分かんない。え?怖っ」
伊奈野は何故か黒い本の言いたいことを理解していた。しかも、自分でもその理由が分かっておらず困惑するとともに恐怖まで若干感じている。
チュートリアルの際にもモンスターとの会話がなんとなく成立していたことから片鱗はあったのだが、完全に伊奈野が超能力を獲得した瞬間となった。
《スキル『異種族交流1』を獲得しました》
《称号『今あなたは脳に直接語り掛けています』を獲得しました》
「……………今度通学路で猫とか見かけたら話しかけてみようかな」
主人公「キッショ、なんでわかるんだよ」
なぜでしょう
物凄く解釈不一致なセリフなのに一回黒い本の方に言ってみてほしいw