「薄赤い結界が消えた後、強烈な浄化の光が学園の至る所で発生したのを学園の外から確認している。
その後、何か魔法が発動したが、初めて目にする魔法で何が起こったのかわからない。
ただ、時計を模したような魔法陣が上空に出現した事と、今聞いたそなた達の状況。
予測でしかないが、時間に干渉して巻き戻す類のものかもしれない。
そなた達2人が、死に直結するような大怪我を負った。
にもかかわらず体が無傷だったのは、そのせいかもしれない」
「一体誰が……いや、レジルスも見た事がない魔法を発動させられる者は、国王しかいないか」
レジルスの説明で、国王しかいないと確信をもって発言する。
「…………そうだな。
俺は学園の外へ避難してきた学生達の中に公女の姿が見えなかったから、探しに中へ入った」
レジルスは随分と間を空けて同意したぞ?
違う可能性を考えていたのか?
ラルフもレジルスの様子に、少し首を傾げた。
「国王は1人で学園の中へ入ったのか?
具合が悪そうだった王妃はどうなった?」
「国王は…………まあ、黒蛇と?」
また間が空いた?
何か誤魔化して……いや、ちょっと違うな?
説明するのが面倒になった感じか?
犬の顔では、人の顔より更に表情が読めない。
だが自分が猫になっても、瞳の力は健在だ。
何となく、わかるんだぞ。
「王妃、エメアロル、ジェシティナも無事だ。
ロブール前当主夫妻も含め、学園にいた者達は皆、無傷で出てきた。
学園から出てきていない者達は、恐らくそなた達と同じだ。
目を覚ませば無傷だろう」
俺とラルフと同じ……つまり死んだはずの者達だ。
時計を模した魔法陣が現れて発動した、時間を巻き戻す魔法?
国王はとんでもない魔法の才覚を持っているんだな。
妹も、もしかしたら俺のように死んでいたのか?
しかし何故、妹だけがあんな目に遭っていたのか説明がつかない。
「そうか、祖父母も無事だったか。
他の者達も無傷……バルリーガ嬢も?
フォルメイト嬢とダツィア嬢は俺と共に無傷で起きたが」
妹の事が気にかかりつつも、状況の整理を優先する。
「バルリーガ嬢も無傷だ。
倒れている者達以外で、逃げ遅れた者達全員を引き連れて出てきている」
「バルリーガ嬢は、公爵令嬢としての責任を全うしていたのか。
国王が連れていた、あの黒蛇は何だったんだ?
瞳の色が朱色のようにも、藍色のようにも見えたが。
まさか……聖獣か?」
「…………国王が何かしたんだろう」
また間があったな?
レジルスは何かを隠していないか?
しかも面倒臭くなって、国王に全て押しつけている感がするんだが……。
「黒蛇の瞳……初めは魔獣特有の赤色だった。
聖獣ではないと思うが、まあ、国王が何かしたんだろう。
普通の魔獣とは違う気配はしたが、かと言って魔獣でないと断言もできない。
まあ、国王が何かしたんだろう」
レジルスよ、国王が何かしたと何回ぶっこむんだ。
むしろ国王以外の何者かが仮定ではあるが、時間を巻き戻すような魔法を発動させたり、黒蛇に何かしたのかと思ってしまうだろう。
とは言え国王が黒蛇を巻きつけていたのは、この目で見た。
国王が黒蛇に何かしたのは確かかもしれない。
だが時間を巻き戻す魔法は、違う誰かが発動させたのかと疑ってしまいそうだ。
ラルフも兎っぽく鼻のあたりをモゾモゾさせながら、レジルスの顔を窺い始めたじゃないか。
「……そうか。
第2王子とシエナはどうなった?
それにジャビはクリスタ側妃の遺体を、外から学園に運びこんでいた。
その後、どうなった?
今回の首謀者はクリスタ側妃、第2王子、そしてシエナだ。
3人の会話を聞いたから間違いない。
クリスタ側妃も俺達同様、生き返ったのか?
シエナは確かに死んだはずなのに、何故生き返った?」
「クリスタ側妃とジョシュアは、無傷の状態で学園の外へ転移してきた。
王妃の命で捕らえて、城の牢に幽閉している。
だが2人共、精神に異常を来して錯乱していた。
それに第2王子の中にジャビが封印されているらしい。
まあ、国王が何かしたんだろう。
国王が戻れば何らかの沙汰が下されるはずだから、今はそちらは気にしなくて良い」
レジルスよ、しれっと国王に全振りしたな。
面倒な事は、もう全部国王に押しつけるつもりじゃないのか?
「シエナの姿は、俺が王妃と共に転移する直前にしか見ていない。
魔法呪になりかけた者の気配は知っている。
感覚的なものだが、シエナは魔法呪の気配に近かった。
第2王子が喚いていた内容から、恐らくシエナは魔法呪になった後、ジャビに食われた。
ジャビを封印したのは……まあ、国王が何かしたんだろう」
多分、国王以外の誰かがやったんだな。
国王への全振りをこれだけ何度もやられたら、疑いも確信に変わる。
もちろん今は状況の整理を優先するつもりだ。
追求はしない。
ラルフもジャビが何者なのかからして、レジルスの話は合点がいかないものとなっているだろう。
いつもの人間の顔なら、ポーカーフェイスを装えていると思う。
ラルフは下位貴族。
それ故に処世術として、追求もしないはずだ。
だが今は兎だ。
ずっと鼻のあたりがモゾモゾしている。