「「「「ぐおぉぉぉぉっ!!」」」」
町を離れ源流を目指していると、魔物の群れが襲ってきた。
「えーい!」
「ニャッ!!」
しかしニャットとミズダ子の敵ではなく、あっというまに蹴散らされる。
「コイツ等、正気を失ってるわね」
倒した魔物は口から泡を吹いていたり、顔つきが尋常でない程険しくなっていて瘴気でないのが見ただけで分かった。
「これじゃあ肉どころか皮や内臓もダメニャ」
そして汚染されているから素材や食材として利用する事も出来ないとニャットが断言する。
「酷い。それじゃあ倒され損じゃん」
「まったくニャ。食えない肉を捨てるニャンて肉への冒涜ニャ」
なんともやりきれない思いで移動を再会するとそう時間を置かずにまた魔物の群れが襲ってきた。
「完全に正気を失ってるのニャ。普段なら人間を警戒して隠れるような魔物まで襲ってきてるのニャ」
戦わなくても良い魔物まで襲ってくるなんて、ますます以て異常な状況だ。
「解毒ポーションを使おう。ミズダ子、ポーションを霧状にして襲ってきた魔物に吹き付けて。正気に戻せば無駄な戦いは減る筈だから」
「おっけー、弱い者いじめをしても楽しくないし、その方が私も楽だわ」
ミズダ子に解毒ポーションを纏めて渡すと、中身が一カ所に集まって大きな水の球になる。
そうして私達の進行方向に魔物が現れた時だけ水の球は霧状になって魔物達を正気に戻してゆく。
狙い通り正気に戻った魔物の大半は慌てて逃げ出し始め、それでも向かってくる魔物はニャットがぶっ飛ばしていた。
「肉ゲットニャ!」
そうして順調に進んでいると、進行方向から金属音が聞こえて来た。
ギンッ、ガキッ、バンッ! といった明らかに戦闘音。
「誰か戦ってるみたい」
案の定、進行方向で鎧を着た男達と魔物が戦っている光景が見えてくる。
「ミズダ子、解毒ポーションを!」
「おっけー!」
ミズダ子の霧が男達と魔物を包む。
「な、なんだこれは!?」
「霧? 魔物の攻撃か?」
突然現れた霧に困惑する男達。
彼等が動揺している間にも解毒ポーションは効果を発揮し、正気に戻った魔物達が慌てて逃げだす。
「魔物が!」
「さっきまで逃げるそぶりすら見せなかったというのに急にどうしたんだ?」
困惑していた彼等は私達の姿に気付く。
「だ、誰だ!? ネッコ族と子供に……透明の女!?」
誰が子供やねん! やんのかこらぁ!
おっといけない、心のお嬢様を起動して冷静にならないと。
「皆さん、怪我はありませんか? 負傷者が居るのならポーションを提供しますよ」
「な、なに……?」
警戒していた所に好意的な反応を見せられ、彼等は面食らう。
「あ、あー、もしかして今のは君達が助けてくれたのか?」
「はい。こちらの精霊の力です」
「「「「精霊!?」」」」
ミズダ子を精霊と言われ、男達が驚きの声を上げる。
なんか向こうに警戒されてるし、全部精霊様のお陰で何とかなったって事にしておこう。
「精霊……ホントにいたんだ」
「ホントに?」
「普通の人間は精霊を見る機会なんてまずニャいのニャ」
なるほど、そういえば砂漠の国でも皆ミズダ子にひれ伏してる人多かったもんなぁ。
大精霊ってだけじゃなく単純に精霊自体が珍しいみたいだ。
「な、なぁ、精霊ならもしかして町を救って貰えるんじゃないか?」
私達を見ていた男の一人がポツリとそんな事を呟くと、他の男達もハッとした顔になってこっちを見てくる。
おおっと、これは厄介ごとの予感。
「な、なぁアンタ達。助けてくれた礼をしたいから、ぜひ俺達の町に来てくれないか?」
「町に?」
さて、どうしたもんか。多分彼等の要件って汚染水関係だよね。
それを考えると私達が源流に向かうことが根本的な解決になるから、そっちを優先した方が良いんだよねぇ。
「ああ。実はしばらく前から町の空気がおかしくなったんだ。最初はなんだか鼻がツンとなる匂いがする程度だったんだが、どんどんそれが酷くなっていって今じゃまともに息も出来ねぇ。実際それが原因で体の弱い連中が体調を悪くして何人も倒れちまったんだ」
どうやらこの近くの町の人達は源流に近い分、前回立ち寄った町よりも被害の規模が大きいっぽい。
「それで症状を抑える薬の材料を集めに来たんだが、様子がおかしくなった魔物に襲われて危ういところをアンタらに助けられたんだ」
「様子がおかしいっていうのは?」
「普段ならこっちから探さない限り隠れて逃げ回るような臆病な魔物まで襲ってきたんだ」
ああ、そっちもニャットの言ってた通りだね。
ただその前にちょっと気になる内容があったね。
「ねぇ症状を抑える薬って、誰がそんなよく分かんない現象に効く薬なんて用意してくれるの?」
「領主様の使いが俺達に教えてくれたんだよ。この素材があれば具合の悪い連中を良くできるって」
領主が? 原因も分からない異常事態に効く薬の情報を都合よく持っていた?
「……怪しい」
これは怪しすぎるよ。
もしかしたらその領主は、今回の事件を引き起こした張本人の可能性があるかもだ。
「アンタ等命の恩人だ。ぜひお礼をさせてくれ」
「そうそう、それにもう日が落ちる。ぜひ俺達の町に止まっていってくれよ」
自分達の会話を聞かれていたとも知らず、男達はお礼をしたいから自分達の町に来てくれと誘ってくる。
ふむ、それなら彼等の町に行く丁度いい理由にもなりそうだね。
「分かりました。そこまでいうのなら、お邪魔させてもらいます」
「「「「っ!!」」」」
「あ、ああ! 精一杯お持て成しさせてもらうよ!」
さーて、鬼が出るか蛇が出るか。
それとも悪い貴族が出るか、確かめさせてもらおうじゃありませんか。