神力の解放を感じ取りその発信源に急ぐと、とてもではないけど愛の女神には似つかわしくない形相をしたフィーネが中庭だった瓦礫の中心に佇んでいた。
「トリス……?」
「フィーネがこんなに怒るなんて珍しいわね」
元は中庭の中心に備えられたベンチだったものの残骸に腰を掛けながらこちらに気付いたフィーネの反応を待っていると、しばらくして彼女も私の隣に座った。
「もう滅ぼそうかな」
「神罰を下すつもり? デミトリ達が巻き込まれちゃうからやめて欲しいわ」
「……分かってるよ」
相当参ってるのか、フィーネはそのまま私の肩に頭を預けて弱音を吐きだす。
「いい加減この国の王族を許せないよ。せっかくデミトリ達と関わって、少しずつセレーナの心が穏やかになって来てたのに……!」
「フィーネ……」
何をしたのか分からないけど、この国の王族は一度ならず二度までも神の愛し子に要らぬちょっかいを掛けたの?
「急に神力を開放したから気になって来たけど何があったの?」
「私の愛し子を、この国の馬鹿王子が無実の罪で捕まえた」
「……無事なのよね?」
「指一本触れさせないように護ってる、けど……」
さっきの神力の解放は加護を強めたから? それだけじゃなくてもしかすると……。
「解呪はもうするつもりはないのね?」
「……セレーナが国を出るまでは一応続けるよ」
『一応』ね。仕方のない子ね……。
フィーネの頭を膝の上に収めながら彼女にも見えるように闇を呼び出す。
「あまり気は進まないけど……緊急事態だから許してくれるわよね」
盗み見られることに忌避感がありそうなデミトリを思って、今まで繋がりを利用して様子を伺う事はなかったけど……今回ばかりは理由を説明したら許してくれるはず。
セレーナに起こった異変を受けてデミトリがどうするつもりなのか、動向を確認するために彼の姿を映し出すと先日足を運んだ留学生寮の応接室で丁度セレーナの件について憲兵隊と口論していた。
憲兵隊に続きセレーナを嵌めたであろう王子まで登場しフィーネの怒りが爆発しそうなのを頭を撫でながら宥めていると、デミトリと末裔君の弟がセレーナを助けるために動くつもりなのが判明し少しずつフィーネも落ち着いていく。
「デミトリ、私と一回話しただけなのにずっとセレーナを気に掛けてくれて……いい子。頼って良かった。ヴィーダの王子もいい子」
「前から気になってたんだけど、人を頼る事自体フィーネらしくないじゃない? なんでデミトリに声を掛けたの?」
「……トリスの愛し子だったから。信頼できると思ったの」
くぅ……昔から甘え上手なのは変わらないわね。
「もう! フィーネは解呪を止めない限りここから動けないんでしょ? セレーナに助けが来るって私が伝えてあげるから」
「ありがとう……!」
「デミトリにも事情を説明して、勝手に覗いた事を後で謝らないと……」