「想像はしていたが、やはり開戦派の貴族はそれなりに多かったのか……」
任務があると言ったニルを引き留めてしまった事を申し訳なく思いながら、どうしても聞かずにはいられなかった。
「心配しなくても大丈夫だ。アルケイド公爵家の没落は流石に影響が大きかったが……それ以外は何とかなっている」
「なんとか、か」
「陛下達に任せておけばどうとでもなる範疇だ。ガナディアの使節団の件がなかったらもっと円滑に事後処理を進められたんだが……まぁ、過ぎてしまった事を気にしても仕方がない」
そんな状況の中ニル達を呼び出してしまったのか……。
「気にするなと言われても難しそうだが……」
「それで言うと、今回アムールに旅立った人間で一番頭を悩ませる必要があるのはデミトリじゃなくてヴィラロボス辺境伯令嬢じゃないか?」
「ナタリア様が……?」
冬が明けるまで王都にあるセヴィラ辺境伯家の館で待機しているナタリアとレズリーの事を久しぶりに思い出す。
「お、随分と仲良くなったんだな? 今回アムール王国がヴィーダ王国に賠償として行った領土の譲渡と、セヴィラ辺境伯家とルーシェ公爵家の離反で一番影響を受けるのはヴィラロボス辺境伯家だろう? なにせ、国境沿いの辺境ではなくなるからな」
「あっ」
ニルに指摘されるまで考えてもなかったが確かにそうなってしまう。
「何も悪い事をしたわけでもないのに貶爵する訳にもいかない。かと言って辺境伯の位を維持させるのもおかしな話になってしまう」
「そうするとどうなるんだ……?」
「表向きはアムール王国で起こった騒動中セヴィラ辺境伯家とエリック殿下を繋ぎ、王家の影が秘密裏に行ったアムール王家との交渉をヴィラロボス辺境伯令嬢が主導していた事になるのがほぼほぼ決定している」
突拍子もない事を言い出したニルに驚いている内に、どんどん話が進んで行く。
「今回の件収束させた立役者がヴィラロボス辺境伯令嬢なら、ヴィラロボス辺境伯家を侯爵家に陞爵する形で全て丸く収まる。ヴィラロボス辺境伯令嬢は宰相様の息子のペラルタ侯爵令息と婚約しているし、ヴィーダ王国の次代を担う令息令嬢達の活躍を広めて混乱している国民達を安心させる狙いもある」
「それは……」
意図は分からなくも無いが、ナタリアと彼女の家にとって途轍もない負担になるのでは……?
「なんとなく何を考えているのか想像できるが……まぁ、色々と大変な思いはするだろう。単純に陞爵で家の負う責任も増える」
「責任か……」
「今回の件と急な陞爵が無ければ、ペラルタ侯爵令息の奮闘もあってヴィーダに戻った頃には過ごしやすい環境になっていたはずなんだがな」
リカルドの奮闘??
「ナタリアはヴィーダで過ごしにくい思いをしてたのか……?」
「ここ最近の話だ。ヴィラロボス辺境伯令嬢はペラルタ侯爵令息との電撃婚約で色々とやっかみを受けていた」
確か、アルケイド公爵家で行われた茶会の後リカルドが婚約を申し込んだと言っていたな……?
「今だから言うが、今回彼女をデミトリ達に同行させたのはセヴィラ辺境伯家との繋がりやアムールへの渡航経験は後付けでペラルタ侯爵令息から強く要望されたからだ」
「ペラルタ侯爵令息に?」
「ああ、ペラルタ侯爵令息は相当彼女にお熱みたいだぞ? 彼女をアムールに逃がして、その間に二人の婚約に反対する貴族家や令嬢達を黙らせて回っていた……それこそアルフォンソ殿下が他の政務を手伝えとお怒りになるほど熱心に……」
ナタリアを守れと旅立つ前に念押ししてきたが、それほどまでに想っていたのか。
「と言う訳でヴィラロボス辺境伯令嬢はこれからかなり忙しくなる」
「巻き込まれただけなのに不憫過ぎないだろうか……」
「悪い事ばかりじゃない、陞爵には違いないからな! ただ大変なだけだ!」
ただ大変が一番大変だとは思うが、これ以上俺が心配してもどうしようもなさそうだ。
「他に聞きたい事は無いか?」
「大丈夫だ、引き留めてしまってすまない。色々と教えてくれて助かった」
「後で合流するから、他に何か気になったらその時聞いてくれ」
そう言い残して、ニルが鷹の間を出て行ったのとほぼ同時にまた実体のない声が控室に鳴り響く。
「間もなく表彰式が執り行われます。大会優勝者のデミトリ選手は速やかに闘技場へと向かってください」
口調だけじゃない。話してる人間が変わっていないか……?