「……そうか」
「本当に、本当にごめん……!」
「気にする必要は無い。ただの……知り合いだ」
ユウゴを安心させるために言葉を紡いでいるが、俺自身イゴールの死についてどう思えば良いのか良く分からない。ほっとしたような、良く分からないが悔しいような……理解できない感情が胸の内で渦巻く。
今はこの気持ちと向き合いたくない。
振り向かない様にしてくれているが俺の様子を伺いながら歩いているアルセや、ユウゴを心配させないために無理やり会話を続ける。
「……イゴールが死んだせいで仲間を斡旋されなくなったと言っていたが、どういう事だ?」
「えっと、魔王討伐の旅に出ても俺一人だとこの世界の事が何も分からないから……イゴールさんは俺の保護者兼仲間として旅に同行してくれてたんだ」
「辺境貴族の嫡男にしては大抜擢だな」
「そうかな? 武闘派の家の出身で、ガナディア王国の期待の星って言われてたけど――」
父はイゴールの事をずっと俺に自慢していたので貴族学園で主席だったのは知っているが、いくら輝かしい成績で卒業したとしてもまだ若造だろう。戦闘経験を積んだ人間ではなく、敢えてイゴールを勇者の仲間に任命したのは……何か理由がありそうだな。
「――ミコトとリサが旅に付いて来てくれないし、この世界の事なんて何も分からないからイゴールさんのサポートは本当に助かってたんだけど……魔族の侵攻を食い止めるために魔物の大群と戦った時……」
「魔族は魔物を操れるのか……」
幽氷の悪鬼を魔族の基準とした場合、魔族は人を凌駕する膂力、魔力、そして呪力だけでなく魔物まで操れる事になる。ガナディア王国が攻め滅ぼされればヴィーダ王国所ではなく、人類を絶滅されかねない。
「俺が魔物を率いてた魔族のボスと戦ってる間、街に向かった魔物の相手を引き受けてくれたんだけど……街の兵士達と一緒に戦って魔物を食い止めるのには成功したけど、俺が着いた時にはもう……」
……どこの街を防衛していて戦力がどれ程だったのかも分からないが、ユウゴが魔物の大軍と言った位だ。本来勇者であるユウゴが全力で戦えるように補助する役割を担う、聖女や賢者のような規格外の加護を授かった人間がいなければ太刀打ちできない程敵が多かったのだろう。
「なるほどな……」
先程俺を叱ったアルセも、今の俺と同じ気持ちだったのかもしれない。
イゴールは俺と何もかもが違う、自分とは対極の存在だと思っていたが……己の能力を過信して強敵に挑む蛮勇という、嫌な共通点があったかも知れないと自覚してしまいとにかく居心地が悪い。
「兵士達と一緒に街の人を守るために、最後まで頑張ってたってみんな感謝してた」
ユウゴが俺の事を気遣って教えてくれているのは分かってはいるが正直反応に困る。
国や民の為に命を捧げるような性格ではないと勝手に思っていたが、イゴールはちゃんと貴族の責務を全うする心構えを持っていたらしい。
それだけで奴の評価を覆すような事はないが……俺への態度や人間性はともかく、イゴールのガナディア王国に対する忠誠心は本物だったと認めるしかない。
「それ以降は必要に応じて案内役を付けられることはあっても仲間は増やしてくれないんだ。多分、イゴールさんが戦死したから慎重になってるんだと思う」
「それでヴィーダ王国に魔王討伐の旅に同行する人間を派遣しろと主張しているのか」
「みたいだよ? 『ごうはらだがかの国の人間が授かる異能であれば魔族に対抗し得る』って代表が口癖みたいに言ってたから」
仮想敵国である以上当然かもしれないが、ガナディア王国は異能の脅威について把握していたか……。
「……自国の人間が魔王討伐の旅に同行して戦死した事をガナディア王国の使節団は説明しているのか?」
「そこは敢えて触れたくなさそうにしてたから、俺の方からヴィーダ王国の人達に教えたよ。仲間は欲しいけど、魔族と戦える実力が無かったらまた守れないかもしれない……元の世界に帰りたいけど、俺に付いて来たせいで死なれるのは嫌だから」
ユウゴは自分の超人じみた力が加護に由来しているもので、一般人では足手纏いになると事を客観視できているようだが……。
「その言い分だと仲間に誘った俺は死んでも良いと考えているように聞こえるが――」
「違う違う!! デミトリさんは魔族を追い詰めてたじゃん!? 俺が今まで見てきた人達と比べてレベルが段違いだったから、誘っても大丈夫だと思っ――」
「買い被られては困るな。俺は過去イゴールと戦った事があるが手も足も出なかった……奴でユウゴの仲間が務まらないなら俺にも無理だ」
「……本当かなぁ?」
なぜそこで納得してくれないんだ。つい先程、俺が幽氷の悪鬼を倒し切れなかった場面に遭遇しているだろう。