—–ホム視点—–
「参ります!」
わたくしが噴射推進装置の力を借りて疾走を始めると同時に、視界の端でレムレスが動いた。
「アルフェ様!!」
「アルフェ!!」
マスターの声とわたくしの声が重なる。アルフェ様は魔導杖を振るい、わたくしを送り出してくれた。
「磁力加速!」
力強い詠唱の声がわたくしへの期待に満ちている。わたくしが勝つと信じてくれている。
アルフェ様が空に向けて高く伸ばしてくれた加速魔法陣は約二〇枚、それらをくぐるたびに、機体が上空へと引っ張り上げられていく。
――どこまでも跳べる!
気圧の低下と重力の影響でアルタードの機体もわたくしの身体も軋みながら悲鳴を上げている。
歯を食いしばってそれに耐え、幾つもの雲を突き抜けた。
エステア様は追ってはこない。わたくしがどんな技を繰り出そうとも、真っ向から受けて立つつもりのはずだ。
眩く美しい空に飛び出したわたくしは、遙か遠くの地上を見下ろした。
加速魔法陣を離れ、機体の上昇速度が緩みはじめる。最高到達点はおそらくここだ。
「マスター、アルフェ様、ありがとうございます」
感謝の言葉を呟き、わたくしは再び歯を食いしばった。
アルタードの失血死は最早時間の問題だ。だから、きっとこれが最後の技になる。
わたくしはアルタードの噴射推進装置を噴かし、機体を宙で回転させた。
――この数ヵ月の研鑚、積み重ねて来た想い、その全てをこの一撃に賭ける。
帯電布がわたくしの意を汲み、放電している。マスターが修復してくださったプラズマ・バーニアが、再び唸りを上げる。
「行きます――。雷鳴天駆!!」
全力稼働したプラズマ・バーニアが、背部で激しく放電し、アルタードは急降下から更に加速していく。
「く……、ぁ、あああああああああっ!!」
叫びとも呻きともつかない声が食いしばった歯の隙間から漏れてくる。加速に伴い、アルタードもわたくしも先ほどの上昇とは比べものにならない程の衝撃に晒され続けている。
それでも急降下は止まらない。大闘技場に向けて――エステア様のセレーム・サリフに向けて加速し続ける。
「見えた!」
カナルフォード学園が、大闘技場が見えてくる。まだ豆粒ほどの大きさだが、確かに捉えている。気配でわかる。エステア様がこちらを見据えて待ち構えている。
物凄い速さで地上が迫り、緑色の影が揺らいだ。エステア様が跳躍したのだ。
『伍ノ太刀・空破烈風』
届くはずのない声が頭の中に響いた。奇しくもあの時と同じ状況なのだ。
――もう、わたくしは負けません。
「勝負です!!」
わたくしはアルタードの脚を打ち下ろすように振り抜いた。風を纏った刀とわたくしの雷撃を纏った一撃が激しく衝突する。
「「はぁぁぁああああ!!」」
わたくしとエステア様の声が重なる。
プラズマ・バーニアが最大出力を発揮し、アルタードに力を与えてくれる。
「わたくしは――負けない!!」
機兵の装甲と刀がぶつかり合い、火花を散らしている。わたくしの渾身の攻撃は、遂にエステア様の一撃に競り勝つ。
だが、加速したアルタードは止まらない。アルタードに押される形でセレーム・サリフはバランスを崩し、わたくしは勢いのままもつれ合うように大闘技場に墜落した。