「はぁい、戻りましたわぁ~! もう、出店の話まで進んでいますの?」
「そうそう! 建国祭でアルダ・ミローネを再現したら楽しそうって話で盛り上がってたんだよ!」
メルアがざっと今までの話を整理して伝えると、マリーも好意的な笑みを見せる。
「それはいいですわね。でも、食べ物ばっかりでは芸がありませんわぁ。出店者を広く募れるんですから、もっとバリエーション豊富に行きたいですけど。大学部なんかを見習った方がいいのではなくて?」
ああ、マリーの発言も一理あるな。大学部の方も参考にした方が良いのかもしれない。
「大学部は二日目だったよね。どんな感じなんだい?」
「カナルフォードの大学といえば、カナルフォード軍事大学とカナルフォード魔法科大学と、ヘパイストス工科大学があるんですわ。ヘパイストスは私立大学なんですけど、機兵製造企業が出資してる学園ですから、建国祭では学生たちが作った試作品や試作機などがお披露目されますの。そのパフォーマンスの協力員として軍事大学の生徒が参加するという交流の要素もあるんですわ」
進学の選択肢に入れていなかったこともあり、大学部のことはあまり知ろうとしていなかったのだが、かなり大規模なイベントが行われるようだ。
「武侠宴舞とはまた違ったイベントになるんだぜ!武侠宴舞だと大体の機兵が軍の支給品なんだけど、建国祭のパフォーマンスだと、開発中のオリジナル機兵の展示や、操縦技能を競う大会も催されるんだとさ!」
「従機や機兵で曲芸を披露したりするんだって~」
「二人とも、どうして知っているんだい?」
ヴァナベルとヌメリンが妙に詳しく説明してくれたので、思わず聞いてしまった。
「いやさ、この前のマリー先輩のパーティーでアイザックとロメオが大声で盛り上がってたからさ、嫌でも聞こえるんだよ」
「うふふっ。大学部の催しは軍の高官たちも視察に来るほど、注目されているんですわ」
なるほど、では高等部の方でもそれに倣うか準じたイベントがあると盛り上がりそうではあるな。武侠宴舞・カナルフォード杯の注目度を考えると、動かすのはともかくとして、僕たちの機兵を展示するのもいいかもしれない。
「今年は武侠宴舞のプロ操手と大学部の生徒がエキシビジョンマッチをやるっちゅー噂もあるよね」
「アイザックくんとロメオくんが喜びそうだね」
アルフェに同意を求められたので、僕は今考えている話を口に出しておくことにする。
「そうだね。大学部の真似ってわけじゃないけど、僕たちも機兵を展示するぐらいは出来るといいね。修理が間に合ってないのをどうにかしないといけないけれど」
「大っっっ賛成ですわぁ~!」
思いの外、大きな反応を示したのはマリーだった。
「武侠宴舞・カナルフォード杯の機兵、そもそも機体性能が桁違いでしたもの~! リーフのあの化石みたいなアーケシウスがあんな戦い方をするなんて、私夢にも思いませんでしたし、大注目間違いなしですわぁ~!」
我ながら良い案ではあるし、みんなの反応も上々なのだが、機体整備の問題がやはり気に掛かるな。アイディアのひとつとして発言するにしても、少し早まったかもしれない。
「……ですが、全員が生徒会の仕事で忙しいのではないでしょうか?」
僕の困惑を感じ取ったのか、ホムが助け船を出してくれる。だが、それはヴァナベルによって笑い飛ばされてしまった。
「そんなのF組でどうにか出来るだろ。アイザックとロメオなんて、喜んで飛びつくだろうしさ! そもそもあいつらが作るのにも協力してんだし!」
言われて見れば確かにそうだ。アイザックとロメオがやってくれるなら、僕としても安心だしこれほど心強いものはない。
「にゃはははっ! な~んか想像できるな、それ」
「だろ?」
「本人の意向も確認しないとだけど、いいアイディアかもしれないね」
得意気に笑うヴァナベルにつられて、僕も思わず笑ってしまった。
「絶対いいアイディアだって! 去年色々とやる機会を奪われた分、二年と三年の平民の子たちもなにかやりたいはずなんだよね。そこらへん、工学科で色々相談してもいいかも。機兵の管理って一人二人でやるもんじゃないし」
「メルアの言う通りだね」
大学部にばかり気を取られていたけれど、高等部の工学科のことをすっかり失念していたな。この一年で学年を越えて活動しているグループもいるぐらいなので、協力を取り付けるのはそれほど難しいことではないのかもしれない。
「予算はたぁあああっぷり用意してありますし、貴族も平民も分け隔てなく申し込めるように根回し済みですわ~!」
マリーが後押しすることで、修理費の心配も恐らくないことが窺える。だとすれば、やりたいことをまずはやりたいように企画して申請するまでだ。これらのことが、なにかしたいと考えていても踏み出せなかった、あるいは踏み出すことを許されなかった生徒たちの背中を押してくれることになるだろう。
「多数の人が学園を訪れるなかで生徒一人ひとりが、自分たちが何を表現し、社会の中で何を成すことが出来るのか……。それを体験できる貴重な日になるわけだから、意欲ある生徒には全員参加してもらいたいわ。去年の分まで」
「うん。僕もそう思う」
エステアと同じことを考えていたのだと実感しながら、相槌を打つ。
「自主性も大事だけど、こういうアイディアがあるよって、前年の例だけじゃなくて提案してみるのもいいよね。クラスのみんなの得意なこと、好きなことを活かしてあげたら素敵だと思うんだ」
「アルフェらしい言い考えだと思うよ。きっと多様性が出てもっと楽しくなる」
リリルルだったら占い小屋も楽しいだろうな。僕のお菓子も日持ちするわけだから、前もって焼いておけば販売出来るだろうし、興味のある生徒を集めてなにか企画するのも楽しそうだ。
「……ほら、やっぱりですわ」
ふと会話が途切れたかと思うと、マリーがエステアに囁いているのが聞こえて来た。
「なにがやっぱりなのですか?」
耳ざとく聞きつけたホムが不思議そうに問いかけている。
「副会長はリーフしかいないって話してたんですわ。短時間でこれだけ話が進むなんて、私、楽しくてたまりませんわぁ! もう、やりたいことぜーんぶ詰め込んで最高の建国祭を実現しますわよぉ~!」
「第二次エステア生徒会の実力を、投票してくれたみんなに見せなきゃね!」
マリーの言葉にメルアが大きく飛び跳ねながら同意を示し、エステアに訴えかける。
「私だけの生徒会じゃないわよ、メルア」
エステアはあくまで落ち着いて諭すような反応を示したが、その表情は安堵と信頼に満ちて本当に楽しげに見える。
「でも、リーダーはエステアです。その覚悟で生徒会総選挙に挑まれたのですから」
「ええそうよ、ホム。でも、この生徒会は私のための生徒会じゃない。この学園のみんなのための生徒会でありたいの。今はまだ理想だけれど」
ああ、その理想を助けるために僕たちはここにいるんだな。そのことを今、強く感じたのは、多分僕だけじゃない。
「現実にしよう。そのために僕たちがいるんだから」
「うん! やろう! 楽しい建国祭をみんなで作ろうね!」
僕の言葉にアルフェが頷き、大きく手を掲げる。
「今度こそドカンとおっきな花火を打ち上げますわよぉ~!」
みんなの気合いの入った声を聞きながら、一際大きな声で叫んだマリーは、今度ばかりは本気なようだった。