―― クリムゾントワイライト 日本支部 支部長室
「どうだガイゼル、『深淵獣』をここまで操れるのは驚きではないか?」
「まったく信じられねえものを作り出したもんですなァ。まさか深淵獣が操れるなんざ、お国の研究者が聞いたらひっくり返るんじゃないですかね」
「間違いなく大騒ぎになるだろうな。どこぞの間抜けな王族がよだれを垂らして欲しがるかもしれん」
「クククッ、そりゃ確かに。しかしこの技術があれば他の支部の連中も出し抜けるんじゃねえですかぃ」
「エージェントと深淵獣、この二つの兵力がある程度揃えば我々が頂点に立つことも可能となろうな。だがまだどちらも十分な完成度ではない。エージェントは最低甲型の『雫』をベースにしたものを完成させたいところだ。深淵獣も同じく甲型までは制御したい」
「相変わらず旦那は慎重派ですなァ。まあそうじゃなきゃ頭は張れませんかねぇ。ところでそれがしを呼んだのはこれを見せるためだけじゃないんでしょうな」
「ふ、無論だ。先ほどの映像を見て気になる人間がいただろう?」
「ああ、あれですかィ。いい女をはべらせたいけ好かない男ですな。甲を手玉にとるなんざまあまあ腕は良さそうですがねェ」
「特Ⅰ型も倒せる男だそうだ。カーミラもどうやら執心のようだが、伝説の勇者などと夢見ているのは笑えるものだ」
「さすがにあの見た目で勇者はないでしょうねェ。で、それがしにあの男をやれってことですかィ?」
「俺の仕事を邪魔するようなのでな、退場を願おうというわけだ。お前ならうまくつり出して始末できるだろう?」
「ククッ、そういうのは得意ですからねェ。そうですな、さっき一緒にいた女の情報がもらえれば楽しく仕事ができそうですなァ」
「ふふ、それなら権之内に聞け。恐らく知っているはずだ」
「了解しやした。『釣り師』としての仕事は久しぶりですから腕が鳴りますぜ。ククク……ッ」
―― 明蘭学園 初等部教室
「なんか最近、リーララちゃんちょっと大人しくなった気がする。やっぱりあの人のおかげ?」
「はぁ? なに言ってんの清音、わたしはもともと静かでしょ」
「ええ、どこが……。そうじゃなくて、なんかあんまり悪い言葉使わなくなった気がするから」
「そうかなあ。自分じゃ自覚ないからよくわかんないけど、清音が言うならそうなのかも」
「自覚がないっていうのも困るよ。松波先生とかかなり困ってたみたいなんだからね」
「まあまっちゃんは面白かったからね~。でももうしなくなったから大丈夫でしょ?」
「まっちゃんって……。それよりいつもの人のところにまたお泊りに行ったんだよね。また山に行ったの?」
「う~ん、それがねえ、ちょっとトラブルがあって遊べなかったんだよね。多分あの後酷いことになってたんじゃないかなあ」
「酷いことって、リーララちゃんが何かしたわけじゃないよね」
「違うから。どっちかっていうと青奥……じゃなくて、いきなり部屋に入ってきた人がいてお泊まりしてるの見られちゃった感じ?」
「えっ!? それってかなりダメなんじゃないの? 大変なことになっちゃうよ」
「それはなんか大丈夫っぽい。昨日夜行ったらなんか平気な顔してたし」
「昨日も行ったの? リーララちゃんずるいよ、わたしも行きたいのに」
「え~、清音が来たらベッドが狭くなっちゃうし。大きいベッドに買い替えてもらわないとダメかも」
「ベッドが狭い……? リーララちゃん、もしかしてその人と一緒に寝てるの?」
「んっ? わたしそんなこと言ってないけど」
「今言った。わたしが行くとベッドが狭いって言った」
「それはわたし1人のところが2人になったら狭いって意味だから」
「あ~今のウソ。リーララちゃんウソついてると目がそっぽ向くからすぐ分かるんだよね」
「ちょっと清音、なんでそういうところは妙に鋭いわけ? いつもはボーっとしてるのに」
「ボーっとなんてしてないもん。ふ~ん、そうなんだ。やっぱりわたしも直接お願いしてみようかな」
「いやそれはダメでしょ。清音のお母さんに知られたらそれこそ大変なことになるからね」