「一学期お疲れさまでした~」
「お疲れ様でした~」
「かんぱ~い」
今日は夏休みを1週間前に控えた金曜。
その夜、いわゆる一学期のお疲れ様会兼暑気払いという名目で、学校全体での宴会が催されていた。
学校全体というのはもちろん初等部中等部高等部すべて合わせてということで、なんと参加者は300人を超える。その上これでも五分の一くらいの職員は欠席らしいので驚きの規模だ。
女優系美女の明智校長の挨拶が終わるとすぐに乾杯となり、しばらくはくじ引きで決まった席でそれまで関わりの薄かった先生などと話をしたあと、自然と仲のいい者同士の話がはじまる。このあたりは大学の学部の飲み会も似たような感じだった気がする。
そんな中俺はというと、適当な席で、同期の明朗快活美人の白根陽登利さん、そしてメガネイケメン松波真時君と久しぶりに積もる話をしていた。
「ええ!? 相羽先生今留学生の相手もしてるんですか?」
俺がレアの話をすると、白根さんがグラス片手に驚いた顔をした。
「ええ、なにしろもともと学年主任のクラスで、生徒もいい子が揃ってますからね。自分のクラスで対応せざるをえなかったんですよ」
「だからってただでさえイレギュラーな担任なのに……それでも平気な顔してるんだから相羽先生ってすごいんですね」
「いや実は全然平気じゃないんですけどね。他の先生や生徒に助けられてなんとかって感じですよ」
「そういえば朝金髪でポニーテールの女子が歩いているのを見かけたことがありますね。その子ですか?」
少し酔いが回ってきている目でそう聞いてくるのは松波君だ。リーララから開放された彼は、今かなりいい感じで授業ができているらしい。
「ああ、その子ですね。なんていうかコミュニケーション強者というか、見たままの感じなのでその辺は楽ですよ」
「ちょっと偏見はいりますけど、見た感じすごくアメリカっぽい感じがしましたね。出身はやっぱり……」
「そのまんまアメリカですね。なんか日本人が考えるアメリカの娘さんって感じでしょう?」
「ええ本当に。いろいろとその体つきとか……そうですね」
おっと今松波君危険なことを言おうとしたな。まったくその通りではあるのだが、さすがに白根さんの前でそれはマズいぞ。
「体つき……?」
「ああ、背が高いんですよ。それに手足も長いですし、骨格から違う感じがしますね」
俺が上手くフォローしておく。これで貸し一つだぞ松波君。それを理解したのか、松波君はメガネを直すふりをしながら「すまん」のポーズをした。
「ああ~、確かに海外の人って腰の位置が高かったりしますよね。あれは憧れますよね~」
「わかります。こればっかりはDNAの違いを痛感しますね。まあでも、これはセクハラじみちゃいますけど、白根さんもスタイルはいいと思いますよ」
「あ、相羽先生もついにそういうことを言うようになったんですね!」
そう言いつつ肩をバ~ンと叩いてくる白根さん。もう完全に酔ってるな。
「ふむ、さすが相羽先生ですね。ここで口説き文句をねじ込んでくるとは」
「いや松波先生なに言ってんですか。そんなんじゃありませんて」
そんなことを言っていると、不意に背中にすさまじく、それはもうすさまじく柔らかいものが当てられる感触があった。
「あらぁ、相羽先生は同期の先生を口説いてるのぉ?」
耳元でささやくのはなんと天然サキュバス……ではなく山城先生であった。結い上げた黒髪も色っぽい、一児の母とは思えない妖艶なウチの学年の副主任である。
しかも明らかに酔っていて頬を赤く染めているばかりか、あっという間に勇者の間合に入ってきて超絶柔らか地獄を仕掛けてくるとは。ここが宴会場でなければこのまま……いや、別になにもしませんけどね。
「山城先生、人聞きの悪いことを言わないでください。ちょっと女性を褒めただけですから。あ、それより松波先生、初等部に山城清音ちゃんって子がいますよね」
「ええ、神崎といつもいっしょにいる子ですね。神崎と違ってすごく素直ないい子ですよ」
「こちらの山城先生は、その清音ちゃんのお母さんです」
「あらぁ、松波先生のお話は清音から時々聞いているわよぉ。授業がすごくわかりやすいって喜んでいたわ。これからも娘をよろしくねぇ」
「あっ、恐縮です。そう言ってもらえるとても嬉しいですね。こちらこそよろしくお願いします」
松波君は急に姿勢を正して硬くなってしまった。相手が生徒の保護者ということでそんな態度になったのだろうが、たぶんサキュバスオーラにあてられたのもあるだろう。こればかりは健全な男なら仕方ない。
「うふっ、こちらこそ。あ、それと清音が夏休みは相羽先生と旅行に行くっていってるんだけど、あとで詳細を教えてねぇ。別にだめというわけではないから大丈夫よ」
ちょっ!? 山城先生なんという爆弾を放り投げてくるんですか! しかもそのまま「お邪魔しちゃったわねぇ」とか言って去らないでくださいよ!
「えぇ~、相羽先生初等部の女の子に手を出してるんですか~?」
「そう言えば神崎と一緒にどこかに行くなんて話をしていましたね。まさか相羽先生あの2人をまとめて……」
白い目を向けてくる同期2人、酔いもあるせいでなんかこのあとずっと絡まれるような……。
明日になったら忘れてくれることを願うしかないな、これ。