その後百貨店にあった高級レストランで異世界料理を堪能した俺たちは、そのまま買い物を続けたりアーケード街を歩いたりした。さすがに行政府そばは規制されていて近づけなかったが。
ひととおり異世界都市観光を終え、夕食を別のレストランでとった俺たちは、ホテル『ウロボロス』へと戻って一息ついた。
『ウロボロス』内は明日まで各自自由行動とした。といっても娯楽施設があるわけでもない。
一応銀河連邦文化圏のムービーなどはあるようだが、『ウロボちゃん』に聞いたら、『ウロボロス』のライブラリに残ってるのはそのほとんどがR18な奴だった。
「まあ元はむさい男ばっかり乗ってた船だしなあ」
『銀河連邦のネットにつながれば別の作品も手に入るんですが、さすがに地球にまではデータが届かないのでダメでした~』
ちなみに興味本位でそのR18モノを見てみたが、出てくるのが宇宙人なのでかなり人を選ぶショッキングな映像ばかりであった。ナチュラルで触手持ちとかいるからな。あやうく新たな扉を開くところだった。うむ、宇宙の広さに比べれば異世界なんて大したことないな。
まあ女子は女子会なるものを開いているだけでも大丈夫だろう。
そう思い直して、『統合指揮所』で『ウロボちゃん』に現地の情報を聞いていると、金髪縦ロールお嬢様の九神世海とメガネ美女メイドの宇佐さんが入ってきた。
「お疲れさまですわね先生。私たちがお買い物をしている間に一仕事をなさっていたなんて気づきませんでしたわ」
「それについては俺もビックリだ。まさかこっちに来て早々トラブルがあるとは思ってなかったからな」
「うふふ。先生は色々なことに巻き込まれやすい体質なのかもしれませんわね。巻き込んでいる側の私が言うのも申し訳ありませんけど」
「勇者ってのはそういうものだから半分諦めてるけどな。それに九神に関しては今回は俺がお願いした側だから、それでおあいこってことで」
「今回の件で先生に受けた恩をお返しできるといいのですけれど。ところで九神の技を伝えるのはいつになるのでしょうか?」
九神はそう言いながら、俺が座っている艦長席の隣に立った。なぜか反対側には宇佐さんが立って挟んでくる。その様子を、正面の『ウロボちゃん』が不思議そうに眺めている。
「ああ、さっき女王陛下にアポをとって、明日の朝一に会いに行くことになってる。その時九神も一緒に行ってくれ。まずは女王陛下が信じられるかどうかを見てもらわないとな」
「わかりましたわ。ですが先生、私はこちらの世界の言葉が分からないのですけれど」
「それは大丈夫だ。『ウロボロス』が言語を解析して翻訳機にデータを入れてくれたから、翻訳機が使えるようになった」
実は前回と今回で『ウロボロス』には言語データを収集してもらっていたのだが、そのおかげで翻訳機のデータがほぼ揃ったらしい。何度も感じるが、恐るべきは『銀河連邦』の技術力である。
「それはすばらしいですわね。このような宇宙船を先生が手に入れて使用しているというのも驚きを通り越して呆れるくらいですけれど、先生がこのような地球にはない技術まで当たり前のようにお使いになっているというのが、私などには信じられません」
「ただの開き直りさ。便利なものは使うってだけだ」
「しかしこれが国などに知られたらそれこそ大変ですわね。この技術をめぐって争いが起きそうですわ」
「まあなあ。こいつの技術だけは地球には流出させられないな、本当に」
『ウロボちゃん』を見ると、銀髪少女はあざとい動きで首をかしげてくる。彼女一体だけでも流出したら大変なことになるのは間違いない。
「ところで先生、宇佐が少し先生にお話があるようなので聞いていただけますか?」
「そりゃもちろん。なんでしょうか宇佐さん」
俺が視線を向けると、宇佐さんは一礼をして居ずまいを正した。
「実はご主人様に二つお願いがございます」
「なんでしょう」
「一つは、女王陛下に仕えているメイドの仕事を見学する許可を取っていただきたいのです。カーミラに聞いたところ、どうやらこちらの世界にはまだ貴族に仕えるメイドというものが伝統的職業として残っているとうかがいましたので」
「あ~なるほど。さすが宇佐さん、勉強熱心ですね。もちろんいいですよ。明日陛下にお願いしてみましょう」
プロフェッショナルメイドが勉強したいというのは教員的にも応援したいところだ。教育とはなにも学校だけの特権ではない、と研修で言っていたしな。
しかし宇佐さんはカーミラは呼び捨てなのか。水と油っぽく見えたけど意外と仲がよくなってるんだな。
「それともう一つは、私にも魔法を教えていただきたいのです。清音さんが楽しそうにお話をしているのを聞いて、私も是非ともご主人様から教わりたく思いました」
「あ~……。そうですね……」
そういえば青奥寺たちにも魔法を使えるための儀式はやらせようかと思っていたんだった。まあ彼女たちのことだからやらないとは言わないだろうし、宇佐さんも含めて儀式だけはやらせてしまってもいいだろう。
「……わかりました。魔法を使うには下準備としてまずこちらの世界で儀式を受けてもらわないとならないんですが、もしそれが許可されたら宇佐さんも受けてください。魔法を教えるのはその後になります」
俺の答えに宇佐さんはにこっと微笑んで、深く一礼をした。
「ありがとうございます。ご主人様に手取り足取り教えていただけるのを楽しみにしております」
「ふふ、よかったわね宇佐」
九神も微笑んでいるが、九神家としても魔法なんて夢の技術、自分の手の内にいれておきたいという狙いもあるだろう。
もっとも魔法を使えるようになる儀式はこっちの世界でしか行えないから、一代限りの技にはなってしまうが。
将来的にもし両方の世界を自由に行き来できるようになればまた話は違うのだろうが……そうなったときに世界がどう変容するのかは、勇者にも測りようがないものである。