アパートに帰ると、こっちはこっちで夕食時にはいつものメンバーが全員集合していた。
全員というのはひねくれ褐色魔法少女リーララと、歩くR18カーミラと、古代竜ルカラスと幻獣クウコだ。
クウコはすっかりこのアパートに入り浸っていて、普段は狐の姿に戻ってカーミラの部屋で寝ているらしい。まあ『応魔』関係でなにかあったら連携しないとならないし、いるのは別に構わないんだが。
しかし俺の狭い部屋で5人というのは本当にキツくなってきた。マジで引っ越しを考えないとダメだなこれ。
「ふ~ん、また女の人が増えたんだ? おじさん先生はセッソウっていうのを異世界に置いてきちゃったワケ?」
一連の話をしたら、早速リーララが半目を向けてきた。まあコイツは俺がなにをやっても文句しか言わないからな。
「目的を達するためには手段は選んでられないの。それに今回は結果として人助けもしたんだからいいだろ」
「そういう問題じゃないと思うけどね~。まあでも、これでこっちの世界の『クリムゾントワイライト』ってのは大人しくなるのかな」
「実は他の国にも支部はあるらしいんだけどな。ただそっちはクゼーロみたいな強い奴はいないし、完全に別組織になってて、もはや現地の犯罪組織みたいになってるらしい」
「迷惑な奴ら。まあわたしには関係ないからいいけど。おじさん先生もそっちは無視するんでしょ?」
「俺が出るほどのものじゃないみたいだしな。現地でなんとかするだろ」
「そのあたり意外とドライだよね~」
とリーララが肩をすくめると、カーミラがフォローを入れてくれる。
「全部を先生が相手してたらキリがないしねぇ。どこかで線引きをしないと勇者だって壊れてしまうわよぉ」
「うむ、カーミラの言う通りだな。勇者時代のハシルはそれで相当に苦労してたからな。もっとも苦労してたのはハシル本人ではなく、我を含めた周りの人間だったがな」
ルカラスが訳知り顔でうんうんとうなずくと、カミーラも「やっぱりねぇ」と相づちをうつ。
「別にお前にはそこまで苦労はかけてないだろ。ちょっとあっちこっち飛んでもらっただけだ」
「あれほど飛び回ったのは我の長い生の中でもあれが初めてであったわ。ハシルの心意気自体を悪いとは言わぬが、それがもっとも身近な者に負担を与えることは自覚せよ」
「あ~、まあそれはな……。だから今は抑え気味にしてるだろ」
「うむ。そこは褒めてやろう。ただしハーレムはほどほどにせよ」
「なんでやってもいないことを注意されなきゃならないんだ」
と文句を言ったのだが、それは完全に無視された。人化したクウコだけは単に話がわかっていないだけみたいで、首をかしげているだけだったが。
「ところでルカラス様、ルカラス様が見てきた人間の中で、一番大きなハーレムを作った人間って誰なのでしょうかぁ?」
「ふむ……。我が知っているのは、ハシルがいなくなった直後に興った帝国の皇帝だな。3代目か4代目かは忘れたが、後宮に1000人ほど囲っておったわ」
「1000人? それはスケールが違いますねぇ」
カーミラが感心したようにうっとりした顔をする。普通女性から見たら許せない話な気がするんだが。
「それに比べればハシルなどまだまだよ」
「そんな古代の皇帝に勝てる奴いるわけないだろ。そもそもそのレベルだと、一度も相手してもらってない妃とかもいるんじゃないのか?」
「恐らくそうであろうな。大半は植民地の豪族に押し付けられたようなものだと思うぞ」
「なんていうか、気が遠くなるお話よね~。それならまだおじさん先生はマシな方か」
「もしハーレム作ったとしてもお前だけは入れないけどな」
減らず口をきくリーララにちょっと反撃してみる。どうせ「最初から入るつもりないから」とか返すだろう、と思っていたら、リーララはムッとした顔をして黙ってしまった。
「なんだ? 文句あるのか?」
「あらあら、先生それはちょっと傷つくと思うわよぉ。リーララだって恋する女の子なんだからぁ」
カーミラの言い回しはわかりづらいが、「多感な年頃」とでも言いたいのだろうか。いつも憎まれ口きいてるわりには妙なところで繊細だな。
「まあどうしてもというなら入れてやらんでもない。見た目だけは可愛くなくもないからな」
「うわキモ。べつに入れてもらわなくてもいいけど。おじさん先生がどうしてもっていうなら入ってあげても……」
なんか横向きながらそんなことをぼそぼそ言うリーララ。いや、いったいなんなのこの反応、いきなり意味不明なんだが。
見るとカーミラとルカラスがニヤニヤしてて、クウコだけはまた首をかしげている。
まあリーララは生意気とはいってもまだ子どもだし、ここは大人が折れるところなんだろうなあ。
「まあもうちょっと可愛げがでたら考えるわ。何度も言うが、可愛くないわけじゃないからな」
「あっそう。別にいいんだけどね。おじさん先生にそこまで言われたら仕方ないから、わたしも考えとく」
横を向いたまま、またぼそぼそとしゃべるリーララ。なんか調子狂うな。
微妙な空気が流れ出したところで、カーミラが話題を戻してくれた。
「それで先生、そのイグナっていう女の子は『はざまの世界』に入っていける技術を生み出せそうなのかしら?」
「一応理論はあって、後は装置を作って検証するだけだって言ってたな。しばらく『ウロボロス』にこもって作業をしてもらうことになってる」
「じゃあ『はざまの世界』については、そちらの成果待ちになるのねぇ。それだといつになるか、時期はちょっと読めないかしら」
「設計さえできれば装置自体は『ウロボロス』がすぐ作るから、結構早くできるみたいだぞ」
「ならいいけれど。新しい冒険が始まるのは少し楽しみねぇ」
「冒険ね……」
『はざまの世界』に行けたとして、たぶんやることはひたすら戦うだけだと思うんだよな。もしあの『応魔』が『はざまの世界』で社会を築いていたとしても、あれと交渉したりするのは不可能としか思えないし。
とりあえずそんな事を話しながら夕飯を食い、そろそろ解散という時だった。
白い和服美人状態のクウコが、いきなりビクッと身体を震わせたのは。
「どうしたクウコ?」
「……今感じました。……『応魔』が、南東の方に現れる……予兆です……。しかもこれは……複数……ですね」
う~ん、これは前回からのインターバルが短すぎる気がするな。
なにが起きようとしているのか、来た連中からなにか情報が得られるといいんだが。