モニター上の『応魔』の集落は次第に離れていく。
拡大映像の方に、6体の『公爵位』がこちらに向けて赤い刃のような飛び道具を連射しているのが映った。その刃は音速を軽く超えているようなスピードで飛来し、すでに1キロ以上離れている『ウロボロス』の艦尾付近に着弾した。
『シールドを突破され、艦尾第一隔壁付近までダメージを受けてまっす。非常に強力な攻撃ですね~』
「ああすまん、守るわ。甲板に転送してくれ」
さすがに俺の『隔絶の封陣』も、『ウロボロス』は巨大すぎて全部は包めない。
甲板に転送された俺は、そのまま『機動』魔法で飛び出して、『隔絶の封陣』を最大限に展開しつつ『ウロボロス』の後ろに出た。要するに俺自身が盾となったわけだが、人間が宇宙戦艦の盾になって守るというのもおかしな話ではある。
さすがに30キロ以上離れると、『公爵位』の飛び道具も届かなくなった。
さらに距離を取ると、艦隊は前進をやめ、その場で転回を始め、艦首を『応魔』の集落があった方に向ける。すでにこちらは高高度に達しており、『応魔』の集落があった浮遊大陸の全体が見えるくらいに離れている。
俺が『統合指揮所』に戻ると、なぜか双党とレアがワクワク顔で迎えてくれた。
「先生先生、ついに使うんですね、艦首のあの大きなランチャーを!」
「ワタシもとても楽しみでぇす。さきほど『ウロボちゃん』に説明をしてもらったのですが、とても強力な兵器と聞いていまぁす」
「そんな期待するようなものじゃないぞ」
「いえいえ、さすがにこれは好きな人間としては見逃せませんからっ」
「ワタシも一応は軍の所属なので、とても興味がありまぁすね」
人によっては不謹慎な、と言われるところだが、まあ暗くされるよりはマシか。
俺は『ウロボちゃん』に「始めてくれ」と指示をした。
『了解でっす。ソリッドラムダキャノン、弾頭装填は完了していまっす。目標捕捉継続中。射出シークエンスオールクリア。艦長、発射の掛け声をお願いしまっす』
「じゃあ発射」
『了解。ソリッドラムダキャノン発射!』
はっきりとした振動と共に、『ウロボロス』の艦首下部に突き出た巨大な砲門から、タンクローリーほどの大きさの、ロケットのような弾丸が発射された。
その弾頭はあっという間に浮遊大陸の地表付近へと到達する。
直後、まるで地上に第二の太陽が生まれたかのような凄まじい光が生まれた。事前にモニターの輝度が落とされていたので直視はできるが、それでも一瞬息が止まるような光景であった。
その緑がかった光は爆発的に広がると、浮遊大陸の半分くらいを飲み込む光球となる。飲み込まれなかった周囲の地表も地面がめくれあがって吹き飛んでいき、その光球が圧倒的な破壊の権化であることが嫌でも伝わってくる。
俺たちが言葉を失っている間に、光球はエネルギーを周囲にまき散らし続け、そして急速にしぼんで消えていった。
後に残されたのは、大陸の中央に穿たれた、超巨大なクレーターだけだった。『応魔』の集落も、残っていた6体の『公爵位』も、なにもかもがすべて消えさっていた。
「……いやこれは、予想通りといえば予想通りだったんだが、実際見ると引くな」
「ですね。これは実際に使っていい兵器じゃないかもしれませんね~」
「今までに見たことのない、驚異的な映像でぇしたね。これに匹敵する兵器は、ステーツにもないと思いまぁす」
さすがの双党もレアも笑顔が少し引きつっているようだ。大量破壊兵器なんて、常人が目にするのはやはり精神衛生上よくなかったな。
『「応魔」の反応、完全になくなりました~。艦長、これにて作戦は完了になりまっす』
「あ~、よくやった。ソリッドラムダキャノンは『魔王』相手でも効果があるかもしれないな」
『以前戦った「特Ⅲ型」までなら通用するかもしれませんね~』
「あのレベルに通用するなら大体大丈夫だ」
いやしかし、宇宙戦艦はやっぱりちょっと扱いに困るなこれ。
今日来ているメンバーは割と平気な顔をしているが、こんな力を一人の人間が持っているなんて国の権力者が知ったら、泡を吹いて倒れるまであるだろう。もしかしたら『導師』=『魔王』の件が終わったら、銀河連邦に渡してしまった方がいいのかもしれないな。
などと考えていたら、『ウロボちゃん』が首をかしげるあざとい動作をしながら、うるうるした瞳で俺のことを見つめてきた。
『艦長、私は艦長のお役に立ってますか~?』
「へ? ああそれはもちろんすごく役に立ってるぞ。ウロボロスがいないと『深淵獣』とかも対応できないしな」
『これからも艦長のお役に立つように頑張りますね~。今後ともよろしくお願いしまっす』
う~ん、まさか俺の思考を読んだのだろうか。
まあどちらにしても、やっぱり『ウロボロス』は手放せないようだ。やはり人間、一度楽を覚えるともう元には戻れないものである。
それに『ウロボちゃん』にも多少の情は移ってしまっているしなあ。さすがにAIだから所詮機械、なんて考えができるほど俺も割り切りはよくないのだ。