―― とある少女たちの会話
「結局本当に見てるだけだったね。もう少し『はざまの世界』探検してみたかったけどな~。先生また連れて行ってくれないかな」
「でもあの世界は人間が歩き回っていい場所じゃないと思う。あの空の色とかずっと見てるだけで気分が悪くなる気がしたし。かがりは平気なの?」
「平気じゃないけど、でも『深淵窟』だって似たようなものじゃない? 璃々緒はどうだった」
「『ラムダ封鎖空間』と似たような感じだったから、私は平気。ただ大気に有毒な成分が含まれているという話だったから、もう一度行ったとしても探検はできないと思う」
「まあそうなんだけどね。でもなんか、今回の一件で先生も意外と普通の人なんだってわかってよかったね」
「それは先生が一人で『応魔』討伐に行こうとしていたことを言ってるの?」
「そうそう、私たちがあのシーンを見てショックを受けるかもって考えてくれてたからね~。まあ確かにちょっとショックは受けたけど」
「私たちは『ウロボロス』で映像だけを見ているだけだったから、現実感はなかった気がするけど、それで感覚を麻痺させたらダメだっていうのはわかったかな。青奥寺家はずっと深淵獣と戦ってきている家だけど、相手がなんであれ命を奪うことに対して感覚を失ってはいけないとは思った」
「美園はマジメだねっ。まあでも先生も結局そういうことが言いたかったのかな?」
「先生の話からすると先生自身も多くの命を奪ってきたようだから、自分自身に言い聞かせているという面もあるかもしれない」
「あ~璃々緒の言うこともありそう。そう考えると、やっぱり先生も一人の人間だなってことが感じられていいかも。時々遠いところにいる人に感じる時もあったからね~」
「かがりでもそんな風に感じることがあったんだ」
「ちょっと美園、それはなくない? 私だって繊細な乙女なんだからねっ」
「繊細な乙女は強化フレーム装着して対物ライフルを振り回したりはしないと思う」
「あれはまた別だから。仕事だとスイッチ入るし、美園も璃々緒も同じでしょ」
「そうね。剣を握って深淵獣に対すると心の在りかたが変わる気はする」
「プライベートと仕事は別。そう訓練されているし。でもそう考えると先生も同じなのかも」
「あ~、先生としての先生と、勇者としての先生と別ってこと? でも先生の場合、どこで切り替わってるかはわかりづらいよね」
「確かに。それでも今回、かがりが言うように、先生が命を奪うことにストレスを感じていることがわかったのはよかった。私たちが先生のためにできることがあるということだし」
「璃々緒の言うとおりね。先生は一人にしてはいけない人だと思う。あれだけの力を一人で持っていて、なおかつその力を行使し続けていたら、先生が勇者でもどこかでおかしくなる気がする」
「さすが正妻、って言いたいところだけど、さすがに今回の一件はね~。まあみんなで先生を支えれば大丈夫でしょ」
「賛成。局長にも力になるように言われているし、私はそのつもりで行動する。先生が『ウロボロス』を所持している以上『独立判事』としても目は離せない」
「もしかしてそれってルカラスさんが言っていたようなことをするってこと?」
「結果としてそうなる可能性はある。銀河連邦には一夫多妻制の国も一妻多夫制の星も多くあるから特に問題はない」
「うわ~、璃々緒がついに認めちゃった。これは大変なことに……はならないか。先生がアレだと結局今まで通りだしね~。だから美園もそんな怖い顔しないっ」
「別にいつもの通りだけど」
「みんな一緒っていうのも楽しいと思うけどな~。美園もそう考えれば前向きになれるでしょ」
「だから別になにも思ってないから。それに先生と生徒なんだから、そういう話はするべきじゃないと思う」
「まあ今のところはね~。でも一応意識はさせとかないと、あの感じだと永遠にこのままってこともあるかもしれないでしょ。美園も頑張ろうよ」
「でも具体的になにをすればいいかわからないし……」
「そういえば美園も璃々緒もすでにお弁当攻撃はしてるからね~。もうレアみたいに抱きつきとかするしかなくない?」
「できるわけないでしょそんなの……」