メンタードレーダ議長のボディーガードの一人が、屋上まで案内をしてくれる。
ホテルの屋上は開放されていて、プールがあったりバーがあったりとリゾート感のある場になっていた。
客が数十人遠くのドラゴンを見て騒いでいるが、どうも漏れ聞こえてくる言葉からすると、なにかのアトラクションだと思っているようだ。そこにホテルの従業員がやってきて、「これはアトラクションではありません!」と声を張り上げながら避難指示を始めた。
俺はそれを横目に見ながら『機動』魔法を発動する。姿を隠したほうがいいかとも思ったが、どうやら議長たちは俺の力を見たがっているようだったので、あえてそのまま空に飛び上がった。
ドローンを全機撃墜したドラゴンたちはこちらに向かって飛行を始めていた。空を覆うほどの大型モンスターの群れはかなりの迫力があり、それにふさわしい脅威ともなる。ここに俺がいなかったら、この一帯は恐らく壊滅的な打撃を受けていただろう。
もっともこの事態は勇者がこの場にいたから起きている可能性もある……とはさすがに思いたくないな。
俺が空から近づいていくと、ドラゴンたちはすぐに獲物がいると気づいたようだ。ワイバーンが1匹、加速して食いついてこようとする。見た目で舐めているという感じだが、俺が素手で殴って頭をきれいさっぱり吹き飛ばしてやると、こっちの実力を理解したのか一斉に襲い掛かってきた。もちろんドラゴンは火球ブレスを連続で放ってくる。
俺は『空間魔法』から『魔剣ディアブラ』を取り出して、飛んでくる火球もワイバーンもすべて一太刀でばっさばっさと斬り払っていった。
ドラゴンの頭を切り落としたところで残り3匹のワイバーンが巨体を翻して逃げ出したので、後ろから『ライトアロー』の魔法で追撃をする。光の矢が数本ずつワイバーンの背中に突き刺って爆発を起こし、ワイバーンは落下しながら黒い霧になって消えていった。
「さて、海中は……まとまってる感じか?」
海面スレスレまで降下すると、いきなりデカい口が現れて噛みついてこようとした。巨大なウミヘビ、というよりウツボに近い見た目のモンスター『シーサーペント』の幼体だ。成体になると全長50メートルを軽く超えるが、コイツはまだ20メートルくらいだろう。
もちろん『ディアブラ』で真っ二つにしてやって、俺は少しだけ高度を上げる。
『ディアブラ』をしまって代わりに取り出したのは一本の槍。穂先が青黒く鈍く輝く、長さ3メートルを超える長槍『グングニル(俺命名)』だ。
『グングニル』を海面に向かって投げつける。しばらくすると、三匹のシーサーペントを串刺しにしたまま『グングニル』が海面から飛び出してきた。シーサーペントは途中で黒い霧に変わって消えていき、青黒い槍だけが俺の手に収まる。
まあ要するに神話の『グングニル』と同じく、自動で敵を狙ってくれる能力があり、手元に戻ってくる槍である。魔法を覚えてからはずっと死蔵していた武器だが、水中のモンスターはこれが一番効く。
『グングニル』を投げまくり、シーサーペントを20匹以上釣り上げると、最後に巨大イカが海中から無理やり槍に載せられて飛び出してきた。
触手を持ち上げて抗議してくるそいつの体に火属性魔法『フレイムジャベリン』をまとめて5本撃ち込んで、今回の討伐は完了である。
一応魔力探知機である水晶玉『龍の目』を取り出して、最大範囲で走査してみるが、このあたりにはもうモンスターはいないようだ。
『グングニル』をしまってから、俺は出た時と同じように、ホテルの屋上まで飛んで帰った。
議長のボディーガードが待っててくれていたのだが、俺に対する態度が妙に丁重になっていたのは仕方のないことだろうか。
さすがに銀河連邦にも生身で空を飛んで魔法を使って、さらには巨大モンスターを苦もなく倒すような人間はいないだろうしなあ。
会談の間に入ると、青奥寺たちが「お疲れ様でした」と迎えてくれた。
彼女らにとっては、さっきの戦いはいつものことだが、それでも少し呆れ顔だったりニヤけ顔だったり無表情だったり目を輝かせていたりするのは、俺が見せるように戦っていたからか。
「ほかになにか気になることは起きたか?」
「いえ特には。『ウロボロス』に発進の許可が出て港から出たようです」
「そりゃよかった」
『ウロボちゃん』を見ると、どうやら『ウロボロス』と交信をしながら色々とやっているようだ。そちらは結果が出るまで放っておこう。
俺が席に着くと、メンタードレーダ議長が靄を揺らしながら語りかけてきた。
『お疲れ様でしたミスターアイバ。ここで拝見させていただきましたが、とても信じられないような戦いでした。ムービーを見せられているのかと勘違いしてしまいそうでしたよ』
『ありがとうございます。あれが私が持っている力ということになります』
『あれでもごく一部なのですね?』
『そうですね。あの程度のモンスター相手ではそこまでの力は必要ありませんので』
『私が感じた限りでは、あのモンスターたちは相当な力を持っていたように感じました。少なくとも同等の大きさの動物などとは比べ物にならないでしょう。しかもパルスラムダガンが通用しないとなると、軍が出てもかなりの被害が出てしまいそうです』
『宇宙戦艦の兵器なら大丈夫のようですよ』
『航宙艦は大気圏内に降下させて運用するだけで大変なコストがかかりますからね。軍はやりたがらないでしょう。しかしあの『魔導ドライバ機器』の技術がいかに重要かはよく理解できました。今回の取引が合意に至ったことに感謝します』
議長は俺の力を見てもそこまで驚いてはいないようだ。ライドーバン局長から色々話は聞いているということだろうし、議長自身も超越的な部分がある人だからだろう。
ただそれ以外の補佐官たちの俺を見る視線は、明らかに先ほどまでとは違っていた。彼らとしては俺の力と同じくらい、あんなデカいモンスターが現れたことに驚いていそうではある。
と、『ウロボちゃん』が急に立ち上がって俺のところにやってきた。
『艦長、「ダンジョン」の位置を特定できました~』
「ご苦労さん。やっぱり海の上か?」
『そうでっす。ここから約25キロ先の無人島にあるようでっす。その無人島に無数のモンスターがいることも確認していまっす』
「島でラッキーだったな。じゃあそこに行って潰してくるか」
俺が議長に相談をしようと顔を向けると、頭の中に声が響いた。
『こちらで飛行艇を出しましょう。それからその「ダンジョン」ですが、せっかくですから私も一度直接見ておきたいのですが、同行を許していただけますか?』
『危険ですが、まあなんとかなるでしょう。私の方は構いませんよ』
『ではそうします。ベルボル、軍に飛行艇の要請を。それからライドーバン、君も一度見たいと言っていましたね。一緒に来るといいでしょう』
『わかりました。ミスターアイバ、いいかね?』
『ええ、ライドーバン局長にも戦ってもらいましょうか』
『お手柔らかに頼むよ』
牙をむき出して笑う局長に手を上げて応えていると、青奥寺たちがこちらをじっと見ていることに気付いた。
それなりに付き合ってきて、なにが言いたいのかはもちろんわかる。
「青奥寺たちも連れていくから用意しとけ」
「はい先生」
「あ~、先生の戦いを見てたらちょっと身体を動かしたくなったから嬉しいかも」
「わかりました」
「まさか宇宙で戦うことになるとは思いませんでぇしたね」
さて、突発的ではあるが、結局はただのダンジョン攻略。
さっさと終わらせてリゾートを満喫するとしようか。