「ふう……遅くなってすまなかったな。あとほんの少しの距離だったから、魔導ゴーレムで返事をするよりも急いだほうが早いと判断した。本当にみんなよくやったな」
生徒たちの動向はゴーレムを通して見ていたが、シリルの指揮も的確であり、ゲイルたち3人とメリアは俺の想像以上の魔術を見せてくれた。おかげでメリアの両親のいるサーレン村まで移動し、周辺にいる凶暴化した魔物を排除しつつ、念のためこの魔導ゴーレムと同じ物を置いてきたからもう安心だ。
生徒たちも無事で何よりだ。多少の怪我は負ってしまったようだが、すでにポーションで回復している。
だが、まだかすり傷がある者もいるな。もしかすると高価なポーションだから遠慮しているのかもしれない。あとで無理やりにでも傷口にかけて治療するとしよう。
今回の件につき合わせてしまった生徒たちには怪我ひとつない状態で帰ってもらわないとな。
「「「………………」」」
「……んっ、どうした? 魔導ゴーレムで見ていた限りでは怪我のある者はいないと思ったが、何か問題のある者はいるか?」
なぜか生徒たち全員がポカンとしている。緊張の糸が切れてホッとしている様子でもなさそうだ。
こちらで見ていた限りでは問題ないように思えたが、何かあったのだろうか?
「……いえ、こちらは全員無事で大きな怪我のあるものはおりません。あの、ギーク先生。先ほどの魔術は――」
「おい先公、その雷の魔術はなんなんだ!」
ようやくシリルが口を開いたと思ったら、そこにゲイルが興奮した様子で割り込んできた。
そういえばこの紫雷狼の魔術を見せるのは初めてだったか。
「これは紫雷狼という雷魔術だ。普通の魔術とは異なり、魔術を構成して発動すればそれで終わりというわけではなく、術者が魔力を供給する限りはそこに顕現し続け、この紫雷狼という魔術自体を媒介にしていくつかの魔術を使うことができる」
「……この魔術自体に意思があるということですか? そんな魔術は聞いたことがありません」
「その推察は惜しいところだが、意思があるというわけではない。魔術を構成する際にこういった行動に対してはこういった行動をするというシンプルな命令を組み込んでいるというのが正しい。魔力を供給するのと同時にある程度の指示は出せるが、この魔導ゴーレムとは異なり完全に俺が操作しているというわけではないぞ」
紫雷狼に意思があるというわけでない。さすがに魔術で可能なことはかなりあるとはいえ、魔術自体に意思を持たせることは俺にはできなかった。
俺が敵と認識した者に対して攻撃を仕掛ける、自身に迫ってくる脅威を回避して排除する、誰かを守るなどといった細かな命令をいくつも重ねて構成したロボットに近い魔術というべきだろうか。
最初は敵味方の判断がつかなかったり、俺にまで攻撃してしまったりと、ここまで完成度を上げるにはいろいろと大変だった。元の世界のプログラミングに近い感覚かもしれない。
「そんな雷魔術が使えたとはな。おい先公、その魔術を教えろ!」
「ふむ、さすがにゲイルがこの魔術を使うにはまだ早い。この魔術を使うためには他の雷魔術を相当な力量で使いこなせるようになってからだ。だが焦らなくとも、いずれは教えよう」
「……ちっ、仕方がない」
相変わらずの口の利き方だが、魔術に興味を持つことは実に良いことだ。そういえばゲイルは雷魔術を好んで使用していた。同じ雷属性の魔術である紫雷狼を目の前で見て思うところがあったのかもしれない。
今回の件に関しては生徒たちに大きな借りができてしまった。指導をしてほしいというのなら、こちらも望むところだ。
「あ、あの。ギーク先生が戻ってきたということはお父さんとお母さんは……?」
「ああ、問題ない。メリアたちが時間を稼いでくれたおかげで、サーレン村付近の危険な魔物はすべて殲滅して、この魔導ゴーレムと同じ物を村の付近に配置してきたから安心するといい」
本来ならば先にメリアへ伝えるはずだったが、シリルとゲイルの質問へ先に答えてしまった。
「良かったあ……ギーク先生、本当にありがとうございました!」
「いや、メリアが礼を言う必要はない」
「ふえっ?」
「詳しい話は後でする。先に街の方へ向かうとしよう」
生徒たちに詳しい説明をしたいところだが、まずは街へ移動する方が先だ。
「ギーク先生、街へ向かう森の中にはそこにいたレッドオーガのようにまだ凶暴化した魔物が数多くいます。恐れ入りますが、先頭をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「無論そのつもりだ。とはいえ、この辺りへ危険な魔物が来ることはないと思うがな」
「えっ!?」
「サーレン村からこちらへ向かいながら、特に凶暴化の影響を受けた危険な魔物はすべて排除してきた。普段ならこの辺りには生息していないはずのレッドオーガの群れがここまで来てしまったのも俺から逃げてきたせいかもしれない。それも含めてすまなかったな」
「「「………………」」」
うむ、さっきまではレッドオーガの群れを一瞬で倒した俺を賞賛の目で見ていた生徒たちの目が変わった。
まあ俺が生徒たちの立場だったら、何してんだこいつとか、お前のせいでレッドオーガの群れに襲われたのかよと言いたくなる気持ちもわかる。
「ちゃんとした謝罪をあとでするが、今はここから離れる方が先決だ。これ以上危険な魔物が出ることはないと思うが、俺についてきてくれ」
説明や謝罪を後回しにしつつ、視線を街へと続く森の方へと向ける。
ザッ
「えっ!?」
「なっ!?」
「ギーク先生!!」
俺が視線を森の方へ向けた瞬間、俺や生徒たちがいる場所の後ろにある深い崖の下から影が飛び出した。
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