パチンッ、パチンッ
「っ!」
俺が指を鳴らして拘束の魔術を構成すると、黒ずくめの襲撃者の足元から複数の鎖が現れる。
しかし、襲撃者は素早い反応を見せて、瞬時にその場から離れた。
「しっ!」
キンッ
襲撃者が投擲したナイフのひとつを魔導ゴーレムが弾く。
別の角度から飛んできたナイフは先ほど俺が構成した3層の防御魔術の1枚目に突き刺さり、その場で止まる。
『ワオオオオン!』
「くっ……」
ナイフを投げた瞬間にこちらへ向かって高速で走り出していた襲撃者だが、紫電狼が放った紫色の雷の壁により阻まれる。
「なっ!?」
そしてその雷の壁の中を魔導ゴーレムが突っ切り、襲撃者の元へ迫る。
雷の壁の中からゴーレムが現れるとは思っていなかったようだが、高速で放たれたゴーレムの左腕の拳を襲撃者がギリギリでかわす。
あれを避けるとは相当な場数を踏んだ襲撃者であったようだが、俺はすでにその先を見据えていた。
パチンッ
『ワオオオオン!』
「がああああああ!」
ゴーレムの拳をかわしたところに俺の拘束魔術が今度こそ襲撃者を捉える。間髪を入れずにそこへ紫電狼の複数の雷が直撃した。
拘束魔術と紫電狼が放った雷により、襲撃者の動きが完全に停止した。
「ふむ。やはり相当な腕であったようだが、この状況になった時点ですでに勝負は着いていた」
決着は時間にするとほんの一瞬であった。
確かに魔術師は奇襲や近距離戦に少し弱い。それを補うために半自動の魔道ゴーレムや紫電狼を使っている。
俺が魔導ゴーレムを起動して完全詠唱によって構成した紫電狼を顕現させていた時点で、すでにこの結末は見えていた。
「うう……」
「目が覚めたようだな」
「……そうですか、どうやら私は敗れたようですね」
まだ意識が曖昧なようだ。あるいは紫電狼の雷を浴びたから、気を失う前の記憶が少しおぼろげな可能性もある。
襲撃者が動かなくなったあと、ゴーレムを動かして襲撃者を完全に拘束した。おそらく魔術は使えなさそうだったが、念のために以前作った魔術を使用できなくする手錠も付けてある。まったく、魔術を使わずにあのスピードなのだから呆れたものだ。
今は生徒たちから少し離れたところで、拘束した襲撃者から話を聞こうとしている。サーレン村へ行く前にアノンのやつには連絡をしているから、もうそろそろ来る頃だろう。
「なぜまだ私を殺さないのですか? ……いえ、思い返してみると、先ほどの戦闘の中でも私を殺すつもりのない攻撃ばかりでしたね」
ふむ、魔術の出力を落としていたことと、ゴーレムの右腕のブレードも使っていないからわかるか。
「さすがに生徒の前で人殺しは勘弁だ。それにあんたには聞きたいこともあった」
「……それほどまでに力の差があったわけですか。あれほどの魔術、そしてあの人形のような物は初めて見ましたよ。人形と雷魔術に阻まれ、あなたに近付くことすらできませんでしたね」
「真正面から1対1ならともかく、あの状況になった時点で俺には多少の余裕があったからな。あんたを拘束することを優先させてもらった」
魔術師が魔物や暗殺者と戦闘する時はとにかく距離を取ることが大切だ。今回の戦闘では後ろに生徒たちがいたから動けなかったが、魔導ゴーレムと紫電狼の魔術のおかげで常に距離を取って戦うことができた。
魔導ゴーレムは意識を割いて操作しなければならないが、魔力を電池のように貯めて動かしているため、俺が魔力を使う必要はない。紫電狼の魔術は俺が魔力を供給しないといけないが、俺が構成したプログラムに沿って行動をするので操作をする必要がない。
魔導ゴーレムと紫電狼に加えて俺も魔術を使うため、襲撃者は常に3方向を意識しなければならない状況だった。いくら熟練の腕を持っていたとしても、この状況を覆すことは難しいだろう。
それこそ最初の不意打ちがこの襲撃者にあった唯一の勝機であった。とはいえ、今回の騒動を引き起こした相手がわかった時点で、不意打ちの警戒はしていたからな。
「まさかセラフィーナ伯爵家がここまでのことをしでかすとはな」
すでに襲撃者の黒い仮面は外している。今俺の目の前にいる黒ずくめの襲撃者は以前に俺を二重尾行していたセラフィーナ伯爵家の老執事であった。
「いえ、セラフィーナ伯爵家は今回の件には関わっておりません。すべては私がおこなったことでございます」
「この状況で主人をかばう姿勢は実に見事だが、すでに手遅れだ。他にもアルベリオ男爵家などが関わっていることはすでに他の襲撃者から確認している」
「………………」
別の襲撃者やこの老執事が気を失っている間にその記憶は読み取っている。今回の事態はやはりセラフィーナ伯爵家の手の者の仕業だった。
仮にその言い分がセラフィーナ伯爵家の権力によって通ったとしても、生徒たちをここまで危険な目に遭わせたのだ。俺の持てるすべての力をもって、セラフィーナ伯爵家にはその報いを受けてもらう。