「声もそうですが、もっと堂々と授業をすればいいと思っていましたね」
「イリス先生は少し自分に自信がないように見受けられました」
「ふむ」
ソフィアとエリーザの話によると、そのイリス先生とやらは授業内容というより、教師としての話し方や立ち振る舞いに少し問題がありそうだ。
「わ、私もよくイリス先生みたいになっちゃうから気持ちは分かります……」
メリアもだいぶ人見知りするタイプだからな。
確かに前世でもコミュニケーション能力が不足している教師はいた。教師という仕事は他の仕事以上にコミュニケーション能力は必須なのだ。俺もこの異世界に転生してからは魔術の研究に没頭して引きこもっていたが、前世ではその辺りは問題なかったぞ。……たぶん。
ただまあ他の問題のある教師とは異なり、その程度ならどうとでもなりそうだ。元々大きな声が出せないのなら拡声器のような魔道具があればいいし、性格云々ならいろいろと方法はあるだろう。
「報告はこんな感じかな」
「よくまあこの短期間でこれほどの情報を集められたものだよ」
「妾よりもよっぽど詳しいのじゃ……」
放課後、生徒たちと勉強会を行ったあと学園長室に集まり、ノクスの報告を聞いている。
ノクスがこの学園に来てからまだ二週間なのに、一学年に至ってはほぼすべての教師のことを調べ上げていた。初めての教師として魔術薬学の授業を受け持ちながら、これほどの情報を集めてくれたのはありがたい。
「教師のことだけでなく、普段の授業内容とかはどうやって情報を集めたんだ?」
「僕は新しくこの学園に入った新任教師だからね。普通にギークの授業と同じように教師の勉強として後ろで見学させてくださいってお願いしたよ。学園長からもお願いしてもらったけれど」
「……なるほど」
確かに新任教師かつ人当たりのいいノクスから後学のために授業を見学させてくれと言われれば、断る教師はあまりいないだろう。アノンからの後押しもあればなおさらか。
俺の場合は侯爵家長男を退学処分にしたりといろいろ派手にやらかしていたし、臨時教師という立場もあったから難しかったな。
ノクスが後ろにいても普段通りの授業とはならないだろうが、生徒たちも真面目に授業を受けるようになったことだし、それで十分かもしれない。
「直近の問題は算術のグリフォードかな。こっちはまだ証拠がないけれど、女生徒へセクハラをしている可能性が高いね」
「ああ。もしそれが本当だったら、第一優先で排除しなければならない」
「うむ。そうじゃな」
以前からノクスに調べてもらっていた素行が悪かったグリフォード先生についてだが、より詳しく調べてもらうとさらに大きな問題を起こしていることが判明した。
この異世界では身分制度があることもあって、前世よりも女性に対する性的被害が多い。ただ、ここは普通の会社ではなく学園だ。生徒を導くはずの教師が身分や権力を盾にして教え子にセクハラをするなんて絶対に許されない。
前世でも教師がそういったことをして処分されるニュースなどが流れていたが、本気で腹が立つ。
「ただ関係を迫ったりまではしていないみたいだから、証拠を集めるのは難しいんだよ。どうしても触られたりするだけだと、生徒の証言頼りになっちゃうからね」
「なるほど」
痴漢なども現行犯逮捕が基本だし、証拠を出せと言われても難しいのかもしれない。
そしてグリフォードは伯爵家の四男ということもあり、家柄も十分だ。まったく、貴族制度なんて面倒でしかないぞ。
「それについては俺も協力する。まずはグリフォードが本当にそういった行為をしたのかを確認するとしよう。バレると面倒になるかもしれないが、バレなければ問題ない」
冤罪だったらさすがに大きな問題となる。
こういう時こそ記憶を読み取る魔術の出番だ。証拠集めをするよりも記憶を読み取った方が早い。
ただし、この魔術は高度なこともあるが、国で禁止されている魔術なので、いくら大賢者の称号を受けた俺といえども使用したことがバレるとまずい。
「……あまり無茶はしないでほしいがのう」
「教師によるセクハラは被害者が誰にも言えずに泣き寝入りすることが多い。早急に解決をすべき問題だ」
信頼をして相談すべきはずの教師がそんなことをするなんて信じられないと思う生徒もいる。親にも話せず、不登校になる生徒がいてもおかしくない。
俺も基本的に記憶を読み取る魔術は悪人にしか使わないのだが、時間が経つほど被害者が増える可能性もあるし、早急に対処する。……もしもこちらが間違っていた場合にはちゃんと謝罪をして慰謝料を払うとしよう。
「ノクスの力も貸してもらうぞ」
「うん、任せておいて!」