俺も性犯罪者相手にはそれくらいやってもいいと思うぞ。前世でもこういった魔術薬があれば良かったと思う。
しかしノクスのやつも傍から見たら完全なマッドサイエンティストだな。やはりマッドサイエンティストには試験管がよく似合うのである。
「少なくとも外傷は残さないようにするんだぞ。さて、それじゃあ場所を移すとしよう」
グリフォードにはこれから生まれてきたことを後悔させてやらないとな。女生徒を目の前にしたらむしろこいつの方が逃げ出すくらい心にトラウマを刻み込んでおくとしよう。
さすがにアノンのやつには刺激が強そうだから、学園の方での処罰の準備と伯爵家のこと、女生徒のフォローなど、そちらの方へ回ってもらうとするか。
「ぐ~すぴ~」
気持ちよさそうに眠っているグリフォード。こんなに気持ちよく寝ていられるのも今回で最期かもしれない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「さて、それでは算術の授業を始める」
「「「………………」」」
そして次の週のCクラスの算術の授業。
さすがに二度目となると、生徒たちの動揺もそれほど大きくはなさそうだ。
「えっとギーク先生、今は算術の授業なのですが?」
ベルンから質問が入った。なんだかデジャヴのような気がする……。
「算術の授業を担当しているグリフォード先生は一身上の都合で退職した。新しい算術の教師が見つかるまで、この授業も俺が担当することになった。何度も教師が変更になって非常に申し訳ない」
もう何度目かわからないが、生徒たちに向かって頭を下げる。これでこの短期間に防衛魔術の授業を含めて4人も教師が変更になった。
すでに掲示板に張り出しているが、グリフォードは一身上の都合により教師を退職したこととなっている。懲戒処分となったアスラフとは異なり、一身上の都合というのはセクハラを受けていた女生徒たちへの配慮だ。
被害者の名前を伏せて公表したとしても、好奇心旺盛な生徒は誰が被害にあったかを調べて吹聴することもあるからな。
グリフォードにはノクスと一緒に相応の対処をしておいた。外傷はないが、もう二度と同じ過ちを繰り返さないくらいには精神的なダメージを受けただろう。当然俺たちに繋がるような証拠は残していない。女装したノクスのことくらいは酒場にバレるかもしれないが、そこからノクスには結びつかないはずだ。
そしてグリフォードの家については汚職の事を家から回収した証拠と共に公表する予定だ。四男であるグリフォードのことなど気にしている暇はなくなるだろう。
「まあ、ギーク先生は教えるのが上手だしいいんじゃないか?」
「そうね、基本魔術の授業もマナティ先生よりもわかりやすかったわ」
「うん。昔に比べたらすごく魔術の勉強をしやすくなった気がするよ」
「……みんなにそう言ってもらえると嬉しい限りだ」
今までこの学園をアノンと一緒に頑張って改革してきたつもりだったが、生徒たちもそれを感じてくれたみたいで俺も嬉しくなってくる。
俺がこの学園に来たころはだいぶ荒れていたが、今では真面目な生徒たちがまともに授業を受けられるようになってきた。このまま引き続き生徒たちがよりよい環境で魔術を学べるよう尽力するとしよう。
「ギーク教諭、本当に3教科も受け持って大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、問題ない。かぶっている授業の時間割を変更してもらったおかげでなんとか3教科までは受け持つことができそうだ。それに基本魔術の授業は試験が終わるまでは俺が受け持つ予定だが、算術の授業はすぐに別の教師が見つかりそうだからな」
そして放課後の勉強会。
いつも通りの面子が集まっている中、エリーザが俺を心配してそう切り出した。
防衛魔術、基本魔術、算術の3教科を4クラス分と、ほぼ毎時間授業はあるが、時間割を変更したおかげでなんとかなりそうだ。とはいえ、物理的に3教科が限界のようだな。
俺も次の日の授業の準備をする時間がかなり増えたこともあって、日々の研究の時間はしばらく削られるだろう。とはいえ、アノンの話によると算術の授業の教師の目途はすでに立ったらしいので、あと1~2週間の辛抱だ。
「……というか毎日3教科も同時に教えられるだなんて、いったいどういう頭の構造をしているんですか?」
シリルから辛辣なツッコミが入る。いや、これは本当に単なる疑問のようだ。
「ちゃんと頭の中で整理しておけば混ざることはない。しっかりと前日に教えることまとめてメモを用意しておけば、授業直前にそれを見るだけで思い出せるぞ」
「す、すごいです!」
「それにしてもグリフォード先生が退職ですか。あまり良い噂は聞かない先生でしたね」
「ええ。姫様を不躾な目で見ていたあの教師ですね」
エリーザにまでそういった視線を向けていたのか。まったく、教師が生徒に対して欲情してどうするんだよ……。
そして腕を組み、無言で考え込んでいるエリーザ。マナティ、アスラフ、グリフォード、これまで問題のある教師ばかりが懲戒処分になったり、辞職してきたわけだから、もしかするとエリーザは俺たちが裏で問題のある教師に手を下したことを察しているのかもしれない。
マナティの件はエリーザとソフィアしか知らないわけだし、エリーザは賢いからな。とはいえ、これでようやく一学年で問題のある教師はいなくなったはずだ。とりあえず定期試験までにそういった教師をすべて排除することができてなによりだ。
……さすがにこれ以上おかしな教師が出ないことを祈るとしよう。