ビクサス伯爵の屋敷から無事に学園へ戻って来て、ノクスと共にアノンに報告をした。
伯爵本人に関しては様々な証拠があるため、無事に懲戒処分となり、しっかりと財産を没収のうえ処罰されるようだ。代わりの第三学年の魔術史の教師も無事に手配することができた。
「ふ~む、そうなると裏金を払った親に制裁を与えるかは難しいところじゃな」
「難しいところだが、今回は教師の方から話を持ち掛けたこともあるし、親が裏でお金を支払って生徒自身が知らないこともある。成績を戻せるところは調整して、それ以外は不問にするのが妥当といったところか」
裏金や賄賂などはお金を受け取る方だけでなく、払う方も悪いとは思うのだが、今回はビクサス伯爵の方から誘いを持ちかけていた。しかも試験の点数が微妙な生徒の親かつ、裕福な家にのみ話を持ちかけているのだから質が悪い。
そりゃ我が子の入学や将来のためにあと少し点数や成績の足りないと言われれば、教師の誘いに乗ってしまっても仕方がない。一番悪いのは話を持ち掛けた教師であることは間違いないだろう。
アノンやノクスと話し合い、学園の方から退学処分にするということはしないことに決まった。第二学年と第三学年にはまだ問題のある教師がいることだし、この長期休みで可能な限り環境を整えるとしよう。……それにしても、前世よりもこの学園の長期休みのほうがいろいろとやることが多いな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おっと、みんな早いな」
俺が待ち合わせの場所へ行くと、すでにみんなが揃っている。基本的に俺は待ち合わせ時間のきっちり5分前に到着するよう動いているのだが、それよりもみんなの方が早かったようだ。
「おはようございます、ギーク先生」
「おはようございます、イリス先生」
チェック柄のロングのワンピースを着たイリス先生が丁寧に頭を下げて挨拶をしてきたので、俺も軽く会釈をして返す。
いつも学園で着ているコート姿とは違うので、なんとなく雰囲気が異なるように感じる。まあ、教師が学園の外で会うこと自体が珍しい気もする。
「ギーク教諭、お久しぶりです」
「ギーク先生、ご無沙汰しております」
「エリーザとソフィアは半月ぶりか。家の用事のほうはもう大丈夫なのか?」
「はい、ようやく晩餐会や舞踏会などの行事をすべて終わらせることができました。これで私も長期休み中の勉強会に参加することができます」
「調整が少し大変でしたが、なんとかすべての予定を終わらせることができました」
「……ふたりとも、あまり無理はするなよ」
若干ソフィアが疲れたような顔をしている。王族であるエリーザはこの長期休み中にいろいろとやるべきことがあるらしく、その調整をしたソフィアもいろいろと忙しかったのだろう。
魔術を学ぶことに熱心なのはいいが、身体を壊しては元も子もないからな。
ちなみにソフィアは学園と同じいつも通りのメイド服で、エリーザは銀色のロングヘアに合う白色の服を着ている。
「ギーク先生は学園の外でも相変わらずいつもの白衣姿なんですね……」
「当然だ」
たとえ学園の外であろうとも俺の白衣愛は変わらない。違うといえば学園の外だからネクタイはしていないくらいだな。
そういうシリルはひらひらとしたフリルが多めの可愛らしい服を着ている。意外と学園の外ではそういった服が好みなのかもしれない。
前世の知識によって魔道具をいろいろと開発してきた俺だが、ファッションのことはあまり興味がなかったため、服については前世の知識を広げていなかった。しかし生活が豊かになっていくにつれて自然と前世の服のようにお洒落な服が流行っていった。
もちろん素材はまったく違い、この白衣もこちらの世界の素材でできている。
「メリアさんとベルンさんが来られなかったのは残念ですね」
「さすがに村に帰っているから仕方がないな。まあ、魔術の鍛錬も大事だが、この機会にゆっくりと休むことも大事だ」
2人は長期休み中にそれぞれ自分の生まれ育った村へ帰省している。普段は遠くから学園都市へ来ている生徒たちのための寮で生活をしている2人だが、こういったリフレッシュの機会は大事である。
まあ、勉強熱心な2人だから、学園の外での自主鍛錬の方法なんかを聞かれたりしたがな。
今日は長期休み中だが、イリス先生があがり症をある程度克服できたお礼を生徒たちへするため出掛けることになった。