「そうですね。あの女が教えているというベルトルト国立魔術学園には絶対に負けたくないです!」
「私もエリーザさんとソフィアさんと同じ気持ちです。正直に言うと私はそこまで魔術競技会には前向きではなかったのですが、俄然やる気になってきました!」
生徒たちが燃えている。
直接相手方になにかできるわけではないが、魔術競技会であの教師の生徒たちに勝てば多少は溜飲が下がるという理屈だろう。
「気持ちはわかるが、そういった動機で無茶をするのはあまり関心しないぞ。安全性は年々上がっているようだが、それでも怪我をする可能性はゼロではないのだからな」
「そ、そうですよ。皆さん、無茶だけはやめてくださいね!」
「「「………………」」」
怒ってくれる気持ちは嬉しいがそれはそれである。
「理想を言えば、無茶をしないくらい圧倒的にベルトルト国立魔術学園に完勝してくれれば言うことなしだ」
「ギ、ギーク先生!?」
そしてこれはこれである。
俺のことはどうでもいいが、イリス先生の過去のことについては許したくないというのが素直な気持ちだ。あのラルシュという女が何をしたのかはあとで詳しく調べてみるとして、少なくとも過去のことを謝罪するわけでもなく、それを気にした様子もない。
いじめの加害者の大半に言えることだが、過去のいじめのことを覚えていない者ばかりだ。被害者の方は一生トラウマになるほど覚えているにもかかわらず、加害者の方は学校や学園を卒業したらすぐに忘れるのだから理不尽極まりない。
前世で過去シカトによるいじめに参加してしまい、そのことを悔いて生徒たちに自分の犯した過ちを犯させないためにと教師となった同僚がいた。その人のように過去の過ちを後悔し反省する者もいるが、あのラルシュという女は過去のことなど微塵も悔いていなかった。個人的にはそういった輩が同じ教職についていると思うと反吐が出る。
信じられないと思うが、前世では生徒たちのいじめを咎めることなく、率先していじめに参加するような教師もいるらしい。教師という生徒を導く立場にありながら、いじめを助長するようなやつは犯罪者として裁かれていいと思う。
「はい、必ずやギーク教諭の期待に応えてみせます!」
「ええ、私も全力で頑張ります!」
「私も全力を尽くす!」
「やる気がありすぎてもから回ってしまうからな。これまでのやる気にひとつモチベーションが増えたくらいに思っておくといい」
「え、ええ~と、ええ~と……」
イリス先生は少し困っている様子だが、生徒たちがやる気になってくれたのなら、俺はそれを支えるだけだ。
もうすぐ魔術競技会に向けた合宿も始まる。俺もできる限りのことをするとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おおっ、馬車の何倍も速いのじゃ! これは本当にすごい発明じゃのう」
ガラス越しに見える窓の景色が流れるように過ぎていく。その速さは前世での電車や車ほどの速さまではいかないまでも、馬車が走るよりも遥かに速い。
隣の席では見慣れた紫色のローブに身を包んだ小柄なアノンが窓の外のを見てはしゃいでいる。俺よりもだいぶ年上なのだが、その様子を見ると年相応の少女のようにしか見えない。
「まさかギル大賢者様が開発した魔道列車に乗れるなんてすごいです! 乗れるとしてもまだまだ先の話だと思っていました!」
「さすが魔術学園だねえ。僕も初めて乗ることができて嬉しいよ」
アノンの前に座っているイリス先生も窓の外を見て目を輝かせている。そして俺の正面に座っているノクスもいつもより楽しそうだ。現在学園は長期休暇中だが、魔術競技会に向けて合宿を行うため、王都から少し離れたエルムハストという街へ向かっている。
魔道列車――前世では18世紀初めに発明された蒸気機関によって作られた蒸気機関車。その仕組みを利用して俺が開発した魔道列車に乗って移動をしている最中だ。この世界では魔術を利用した魔道具があるので、動力は蒸気ではなく魔力となる。
魔道列車自体は数年前に完成させたのだが、実際に多くの人が乗れるように改良し、魔術式を刻んだ線路を別の街へつなげるまでにかなりの時間がかかってしまった。実際に今のように人が乗っての運用自体が始まったのはつい最近だ。
そのため、たとえ貴族であってもそう簡単に乗ることができないのが現状である。早く多くの街や国に普及してくれればよいのだが。生徒たちの分も座席を確保したかったのだが、さすがに参加する生徒たちの分は確保できなかったため、俺たち教師4人分だけである。
新任のルシアン先生も誘ってみたのだが、予定があるようで今回は同行していない。魔道列車で移動することを話したら、ものすごく羨ましがっていたな。