「ふむ、振動もだいぶ軽減されているし、十分実用に耐えうる出来となっている。あとは線路間の安全の確保と長期使用による損耗の推移を確認したいところだ」
魔道列車の仕組みと構造を開発したのは俺だが、そこから実際に運用するための改良をおこない、客車などを作ったのは別の技術者たちだ。こうして客として乗った際の改良点などは魔道列車の席を確保してくれた商会の者へあとで伝える予定である。
まだ座席の確保が困難な座席を無償で確保してくれた商会への対価といったところだ。
他にも線路の安全性を確保するためにそれほど遠い街まではいけないのも課題となる。異なる領地ごとを繋いだり、国同士を繋いだりするためには物理的に線路を敷く以外にもいろんな交渉や協定などが必須になるが、それについては国や商会に丸投げだ。そのあたりは研究者以外の仕事である。
あとは先日開発した重力魔術も応用できそうだ。車両の重さを重力によって増減することにより、加速や減速をすることが可能かもしれない。
「ふふ、ギーク先生は相変わらず魔道具への関心がすごいですね。まるで魔道列車を管理する側の人みたいですよ」
「……研究者としてこういったことは気になってしまう性分なんだ」
実際には管理する側ではなく作った側の者である。
魔道列車の座席は学園長のアノンが取ったことにしており、この中ではイリス先生だけ俺がギルであること知らないから、今回の合宿でバレないように気を付けないといけない。
「ここが合宿所か~。随分と大きな施設だね」
「妾たちだけでなく一般のお客もいるから、生徒たちにも節度ある行動をとってもらわねばならぬのう」
魔道列車で王都の隣にあるエルムハストの街へと移動し、そのあと馬車で街の郊外にある施設へとやってきた。
学園が所有している施設というわけではなく、有料でレンタルすることができる施設だ。学園の演習場と同様に怪我をしない大がかなりな魔道具が展開されている。そして魔術競技会でおこなわれるレース形式や的当て形式の訓練をおこなうことが可能だ。
俺も生徒たちのためにボードや的を作ったが、こちらの施設の方が様々な練習は可能で、なにより広いから本番さながらの練習ができる。もちろんそれだけでなく別の競技や魔術の研究室など幅広く鍛錬して学ぶことが可能な複合的な施設だ。そのため、俺たちだけの貸し切りというわけではなく、他のお客も大勢来ている。生徒たちが他のお客さんに迷惑をかけないよう、しっかりと指導するとしよう。
「それに海がすごく近いですね。リゾートで来ている人もいっぱいいます」
「わかりやすいほどの飴と鞭だな。まあ、合宿みたいな短期集中で詰め込む鍛錬には適度な息抜きもあった方がいいのは間違いない」
そしてその施設の隣には青々と輝く海が見えている。
前世での部活の合宿所にも海が隣接している場所は多くある。砂浜や海でのトレーニングができるという理由もあるが、科学的にも合宿中のリフレッシュやモチベーション向上に役立ち、ストレス軽減や集中力向上の効果などもあるようだ。
合宿中の鍛錬の時間以外は自由行動だから、生徒たちもそのあとは自由に海へ入ってもいい。まあ、わかりやすいご褒美があった方が人間やる気も上がるものである。
「普通に泊まったら結構なお金がかかりそうだね。引率者の立場で来られてラッキーだよ」
「第一学年の生徒には期待しておるからのう。来年の生徒数を確保するためにも頑張ってもらいたいのじゃ」
もちろんそんな施設が無料で使用できるわけもなく、教育機関として多少割り引かれるものの、高価な使用料を支払っている。合宿への参加は自由だが、参加費用は生徒たちの親から徴収するのも仕方のないことだ。
特待生であるベルンとメリアの費用は学園が出してくれるのは幸いである。アノンも期待してくれているようだし、ぜひとも好成績を残し、来年学園へ入学を希望する生徒が増えてくれることを祈るばかりだ。
そのあとは施設にチェックインをし、事前に予約をしていた生徒たちの部屋を確認して生徒たちの到着を待った。
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