【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第59話 ゾンビ戦法VSゾンビ戦法
ちょいと遅れた。
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「———およ?」
悪魔を一刀両断した俺は、言い表せぬ手応えのなさに首を傾げる。
しかし、そんな俺の考えを否定するように、確かに眼の前では悪魔が身体を縦に真っ二つにされて地面に転がっていた。
更に言えばピクリとも動いていないし、生きている者特有の気配も感じない。
…………え、終わり?
どんなアニメとかでも大抵強いキャラとして君臨している悪魔相手に、こんな呆気なく終わることとかある??
「ゼロさん、やりましたねっ! 皆んなに掛かっていた魔法も消えましたし、身体から魔力の気配も感じません」
「ば、馬鹿な……あのスラングがやられた、だと……!?」
「え……えぇ? いや、一瞬で吹き飛ばされて二人がかりで戦った俺が言うのも何だけど…………弱くね?」
ホッと安堵の表情を浮かべるセラと愕然とした表情で言葉を零す中、俺は何とも言えぬ複雑な表情で目を白黒とさせていた。
いやだってさ、流石に弱すぎんか?
こんなことならバルバトスの方が絶対強かったぞ?
てか俺の攻撃を避けようとしてなかったみたいだし。
何てあまりにもこれで一件落着とは思えなかった俺は、訝しげな視線をスラングに向けつつ———奴のピクリとも動かない腕に剣を突き刺した。
そんな俺の奇行に、セラが驚愕に目を見開くと。
「ぜ、ゼロさん!? ど、どうなさったのですか……? この悪魔にそこまでの恨みを……? それとも頭を打ちましたか……?」
「いや違うから! 別にこいつ自体に何の恨みもないし、頭がおかしくなったわけでもないから、そんなドン引きした様な顔しないでくれない!? いやさ、何かこれで終わった気がしなくてな。何となくだけど……こいつ、俺みたいに復活しそうな気配がするんだよ」
別に根拠なんて無い。
そう考える理由はなんですか、と聞かれれば、何となくの勘ですとしか応えられないくらいの違和感。
ただそれだけなのだが……どうしても無視してはいけない気がしてならなかった。
「……まぁ、死体を完全に消し飛ばせば大丈夫———」
「———ケケケッ、良い一撃じゃねーかァ」
突然聞こえたその声に、俺達はバッと弾かれたように顔をスラングの方へと向ける。
すると、顔が愉快げに歪み……先程までピクリとも動いていなかったスラングの身体が動き始めて逆再生を見るかの如く身体が再生し出したかと思えば、漆黒の魔力が溢れ出した。
その姿を見た俺は———。
「———せぇぇぇぇぇぇい!!」
裂帛の雄叫びと共に、再生中は待たないといけないというお約束をフル無視して、問答無用で袈裟斬りを繰り出す。
そこに躊躇いなど一切存在しない。
あるとすれば、そう———。
「———キャラが丸被りするんじゃボケナスがぁああああああああ!!」
唯一のアイデンティティ消失の危機に対する焦燥感である。
「ケ、ケケッ……驚かないどころか速攻で斬り掛かってくるとか初めてだぜ……」
そんな言葉を零しながら、今度は上半身と下半身が真っ二つになった状態で地面に崩れ落ちるスラング。
ただ、その顔には……先程まで狂ったように嗤っていた奴とは思えぬ、明らかに動揺やドン引きと言った感情が篭っていた。
何か悪魔にドン引きされている件。
しかも悪魔の中でも特に狂っているような輩に。
いやいやいやいや……。
「おい巫山戯んなよ! お前にだけは引かれたくないわ!」
「ケケケッ、良いね良いねェ……無慈悲で鬼畜なとこも気に入ったぜ」
「だからお前はお断りだっつーの! てか何でお前も再生できるんだよ、魔法の才能がない俺にはこのトンデモ回復能力しか取り柄がないんですけど!!」
「な、何をそんなに焦ってるんだァ? それに悪魔は基本再生能力を持ち合わせているぜェ?」
「くそったれ、俺の専売特許が消えちまったよッ!」
腕を斬り飛ばされ、身体の至る所に風穴を開けられ、足を破壊されようとも構わず……ワナワナと震えながら剣を振り回す俺に、スラングが戸惑った様子で更に俺を絶望に叩き付ける言葉を吐いた。
それにより、俺は剣を振り回すのをやめ、ショックに顔を歪めながら胸を押さえて片膝を付く。
くそう……この世界では俺以上の再生能力持ちはいないと思ってたのに……!!
それが蓋を開けたら何だよ……悪魔にとっては俺のアイデンティティが基本スペックだと??
そんなの発覚したら、アイデンティティの欠片も無いじゃん!
巫山戯るのも大概にしろよ!
俺はそんな怒りの視線をスラングに向けつつ、さっきの俺みたく展開についていけずにオロオロとしているセラに呼び掛ける。
「セラ、援護を頼む! 俺はこいつをボコボコにして、悪魔が再生能力持ちだってことの証拠隠滅するから!」
「え、は、はいっ、分かりましたっ!」
「カハハハハハッ、カハハハハハハッッ!! おもしれェ! オレも遊び甲斐がなくて飽き飽きしてたんだよなァ! 精々楽しもうじゃねーか、ゼロォォォォ!!」
ハッとした様子で魔力を練り始めるセラと、そんな俺達の姿を見て喜びのあまり思わず漏れたと言わんばかりに狂ったように嗤いつつ、一瞬で自身の周りに無数の魔法陣を展開するスラング。
そんなスラングの言葉に俺はというと。
「だから俺の名前を呼ぶな。楽しむ隙も与えずぶっ殺してやんよ」
冷徹な瞳を送ってビシッと中指を立てつつ、隙なく腰を落として剣を構える。
合図などは無かったが……全く同タイミングで動き出した。
「【縮地・連式】」
「【破壊の雨】」
フッと俺の身体の輪郭がブレて見えると共に、天井付近に展開されたスラングの魔法陣から漆黒の雨が降ってくる。
俺は落ちてくる漆黒の雨を避けるか迷い……数瞬の思案ののち、避けることなく本山を叩くことにするも———雨が俺の身体に触れると同時に、雨が触れた部分に数ミリの小さな穴が開いて雨粒が何事も無かったかのように地面に落ちる。
「ぐっ———何だよこれ!?」
「ケケケッ、生物だけを破壊する魔法だぜェ? 悪いけどよォ、精霊使いには手出しはさせねーよ」
「ご丁寧に説明どうも! セラ、お前は援護よりも防御を最優先にしろ! 少しでも怪我してたら許さないからな!?」
自分の身体を顧みない彼女のことだ。
俺がこうして言っておかないと、おそらく自分の身体より俺の援護を優先してしまうだろう。
それに今受けた俺から言わせてもらえば……物凄く痛いので、こんな痛みをセラに味わって欲しくなかった。
痛みを感じるのは———俺だけでいい。
「おおおおおおお———ッッ!!」
俺は意地だけで激痛に回避を取ってしまいそうになる身体を抑え込んで、無理矢理スラングの下に突き進む。
当たり前だが、その間にも俺の身体には穴が空いては塞ぐという工程が何百何千と繰り返されているので、痛みが消えることはない。
「カハハハハハハッ、オレの魔法を突っ切って来やがった! コイツは本当におもしれェなァ!!」
「お前に褒められても全然嬉しくないけどありがとう! そんな俺のご褒美に死んでくれや!」
身体が回避を諦めて痛みを感じなくさせようとしているのかドバドバとアドレナリンが出て……俺は理由も分からないくらいテンションがブチ上がっていた。
多分今の俺は薬物でキマってる奴らよりよっぽどキマっているだろう。
実際に薬物をキメてる奴を見たことないから本当かは分からないけど。
ただ、そのお陰で俺はスラングの眼前に迫り———憎たらしい笑みを浮かべる悪魔野郎に向かって新たに習得していた剣技を発動。
「【牢剣】」
俺の身体が更に加速すると共に、刹那の間にスラングを囲むように全方位から怒涛の連撃が押し寄せる。
対してスラングはというと。
「ケケケッ、とんでもない胆力だなァ……やっぱり嫌いじゃねーぜ」
薄気味悪い笑みを浮かべながら、魔法で創り出したらしい二振りの剣を両手に持って俺の剣技に対応していた。
それだけでなく、剣撃と剣撃の間を縫って俺の胸元を貫いた。
「ゴフッ……」
「ただ、オレを倒せるレベルじゃねーなァ」
そう言って悲しげな色を瞳に宿したスラングが、もう一方の剣で剣を持っていた俺の右腕を斬り飛ばした。
逆流した血が俺の口から吐き出され、切断面からは大量の鮮血が噴き出される。
しかし———斬り飛ばされてない左手で手刀を作りながら俺は笑うと。
「———馬鹿野郎、テメェが死ぬまで俺は死なねーよ……ッッ!!」
手刀を強化魔法で剣と同程度の硬度に変えて———スラングの胸に突き刺した。
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