【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第60話 ありがとう
「…………」
「…………」
———バキャッ!!
「…………」
「…………」
———ズガァァァァン!!
「…………」
「…………」
———ドパアアアアアアン!!
「…………すーーーーっ———ぜんっっっっぜん終わりが見えないよぉぉぉぉぉおおおおおおおッッ!!」
とうとう我慢の限界に達し、俺は悲痛の雄叫びを上げた。
辺りに飛び散った俺の身体から出た血が既に鮮やかな赤から茶色っぽく変色しているのを見れば、如何に時間が経ったかが良く分かるだろう。
しかしその時間が無駄だったと言わんばかりに、依然として俺もスラングも無傷のまま何事も無かったかのように立っている。
なまじ俺が強くなったせいで、俺を完全に消滅させられるほどの魔法を発動しようとすれば一瞬に気付いて対処が出来てしまうのだ。
対して俺はスラングの弱点が分からないので八方塞がりである。
いや長くなるだろうなぁ……とは思ったよ?
思ったけどこんなに掛かるとは思いませんやん。
もう30分は余裕で経ってるんじゃない?
まぁお互い傷一つ無いツルツルボディーなんですけどね。
何て考えた途端に腹立たしさが湧き上がり、俺は剣に付いた血を振り払いながらキッとスラングを睨んだ。
「……こんな物騒なこと中々言わないけど、良い加減大人しく死ねよ……っ! もう良いよ、お前との戦いは十分だよっ!」
「ケケケッ、オレ相手にこんなに持つ相手は人間だと初めてだぜェ? オレとしてはずっと続いて欲しいねェ」
「嫌だ、金輪際お断りします! 流石に萎えるっつーの! セラ、コイツの弱点とか無いわけ!? てか本気で教えて下さいお願いします」
ケラケラ嗤うスラングの言葉に身体が本気で拒否反応を示したらしく、反射的に言葉が口を衝いて出ていた。
いきなり話を振られたセラはスラングを牽制していた手を止めて、苦虫を噛み潰したかのような表情で言う。
「……ごめんなさい、ゼロさん。私の目でもこの悪魔の魂が見えないのです。何かに阻害されているような……」
「そうか……いや、セラは俺の援護を頑張ってくれてたから謝らなくていいよ。完全に身体を消し飛ばすしか方法がないって分かっただけでも収穫あったって」
少し期待していたのだが……やはり一筋縄ではいかないらしい。
ホント、俺の人生はやり直しも先に進むことも出来ない難易度鬼の負けイベが多すぎる。
1年足らずでこんな苦難に何度も遭ってるのは俺だけだと思う。
てか、思った以上に俺って面倒な能力持ってるんだな。
どんだけ斬っても吹き飛ばしても死なない奴が相手とか怠すぎるんですけど。
今まで俺と戦ってきた人達には、是非とも面倒かけてごめんなさいって謝って周りたい気持ちで一杯なんですけど。
何て今更ながらに自分がどれだけ厄介で面倒な相手だったのかに気付き、ゲンナリとする俺。
気付くのが遅いとかほざく奴らは一旦黙っておこうか。
「……セラ、取り敢えずコイツを殺せるくらいに高威力な魔法の準備してて」
「え? で、ですが……」
「大丈夫。コイツは俺1人で食い止めるから」
多分、痛みも何もかも無視して凸れば……足止めくらいはできるはず。
一瞬ゼノンを人質にしようか迷ったけど、多分意味ないんだろうなぁ……。
「ま、セラは自分の魔法に集中してくれ。こっちはこっちで何とかするから」
「……分かりました。———絶対に死なないでくださいね」
セラの言葉に俺は剣を構えつつ『おうよ』と適当に手を振った。
この間に攻撃してこないどころかニヤニヤと楽しそうに嗤っている辺り、スラングが本気で戦っていないことが窺える。
全く……どこまでも舐めやがって。
俺はセラみたいに聖人じゃないから沸点低いんだぞ。
絶対その舐め腐った顔を引き攣らせてやるからな。
「ケケケッ、作戦会議は終わったかァ?」
「まぁね。てかわざわざ待ってくれるとか、悪魔のくせに優しいじゃん」
「その方がおもしれーからなァ」
俺が嫌味のつもりで言った言葉も、スラングは気にしたことなく返してくる。
それが逆にやりづらい。
「けっ、とことん狂った野郎め」
「おいおい……お前にだけは言われたくねーぜェ?」
「は? 俺はただ人より再生能力が高いだけの人間ですが何か??」
「……ケケケッ、無自覚ってのは怖いねェ」
一瞬こいつマジか的な視線を向けてきたスラングだったが———ま、オレは何でもいいけどよォ……と直ぐに口角をニヤッと吊り上げて肩を竦める。
何で一瞬でも悪魔にドン引きされたのか非常に気になるところだが……俺が追求するよりも先にスラングが動きを見せた。
フッと奴の身体がブレたかと思えば———一瞬の間に俺の真横に移動して漆黒の剣を薙いでいた。
剣閃が瞬き、確実に俺の胴体を両断せんと迫る。
「チッ!!」
俺は咄嗟に剣を滑り込ませることで何とか防ぐ。
しかし膂力の差というか碌に受け流せなかったせいで、身体がふわっと宙に浮き、超スピードで横に吹き飛ばされる———が。
「うおおおおおおお———【空歩】おおおおおおお!!」
身体を宙で捻り、やけくそ気味に叫んだと同時に片足に確かな衝撃を感じた。
足がグチャッとへしゃげる音が耳に残るも……グッと唇を噛んで我慢しながら思いっ切り蹴り上げる。
グンッッと身体にとんでもない重力が掛かると共に視界が一瞬で移り変わり、セラとスラングの間に割り込んで剣を振るった。
「はい、セラが幾ら美少女だからってお触りは禁止ですよっっ!!」
「カハハハハハハッ、足が潰れてやがるのに戻ってきやがった!! お前本当に人間かァ!?」
「純度100パーの人間じゃボケ! 名誉毀損で訴えてやろうか!?」
何て買い言葉に売り言葉とも言える口撃を繰り広げつつ、既に完全復活した右足でスラングの足元へと足払いを仕掛ける。
これには対応できなかったらしく、スラングの身体は一瞬宙に浮く。
その隙を逃すほど俺も甘くない。
「【一刀両断】」
———斬ッッ!!
俺の中で最も斬撃力の高い剣技を下からの斬り上げ中に発動させる。
同時に膨大な魔力が集い、燃えるような白銀のオーラで装飾された剣がスラングを縦一文字に斬り飛ばした。
しかし、俺はまだまだ止まらない。
「【牢剣】」
———スパパパパパパパパッッ!!
今度は全方位からの剣撃で再生中のスラングに襲い掛かった。
筋肉が軋み、『ブシュゥゥゥゥ!!』と全身の至る所の血管が切れて血が噴き出すのも厭わず剣を振るい続ける。
幾重にも剣閃が閃いて光の繭を作ると共にスラングの身体を何十、何百等分にも斬り刻み———。
「おまけだ———受け取れ!!」
剣を持っていない血だらけの左手に魔法とは到底呼べぬ、ただただ残りの全魔力を塊にした白銀の魔力塊を生み出して、バラバラに斬り刻まれたスラングだったものにぶち当てた。
———ドガアアアアアアン!!
思った以上の盛大な爆発音と共に爆炎が巻き上がり、砂埃が舞い上がる。
俺は咄嗟に腕で顔を隠し、砂埃から目を守る。
くッ……ヤバい、調子に乗りすぎたっ!
砂埃が肺に———
「ゴホーーッ! ゲホッゴホッゴハッ!!」
「ぜ、ゼロさん!? 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……ゴホッゲホッゲホッ!! ちょっ、ちょっと大丈夫じゃないかもしれなゴホッゴホッ!」
もう咽るとかいう次元を越えて、砂埃が俺を殺しに来ている。
咳しすぎて息が出来ないせいで、マジで酸欠で死にそう。
何て涙目で咳をする俺の耳に、不快極まりない声が届いた。
「カハハハハッ、カハハハハハハッッ!! 今回は効いたぜェ! 最高だよゼロォォォォ!! だがこの勝負……オレの勝ちみたいだなァ!?」
「ゲホッ、ゲボッ!! そ、そうかよ……でも、残念だったな———」
砂埃を吹き飛ばして身体の半分が再生したスクルドが勝利を確信したような笑みを浮かべて現れるが……俺は未だ咽ながらもニヤッと口角を上げた。
「———お前の負けだよ」
そう告げた瞬間、スラングの周りを虹色に輝く半透明の結界が包み込んだ。
スラングはその結界を破壊しようとして———大きく目を見開いた。
「こ、これは……!?」
「それは精霊使いの奥義———【魔封結界】です。その中では術者以外の者は魔力を使う如何なる行為が封じられます。幾ら貴方と言えど……逃げ出すことも破壊することも———再生することも出来ません」
「「!?」」
そんなぶっ壊れ魔法があるなんて先生聞いてませんよ!?
それ使われてたら俺って反撃の余地なく消し飛ばされてたってこと!?
てか、スラングの再生って魔力を使ってたんだね……戦ってたの俺なのに全然気付かなかったよ。
何て俺がセラにドン引きとも驚嘆とも取れる感情を向けていると。
「これで終わりです。星魔法———【疑似超新星爆発】」
全身から膨大な魔力を滾らせたセラがアメジストの瞳を輝かせて告げる。
その瞬間———結界内が眩い光に包まれると同時に膨張を始める。
しかし全く焦っていないセラが翳していた手をぎゅっと握り込むと共に、結界が一気に収縮して……小さな輝きを放ちながら消滅した。
「…………終わった、のか?」
俺はぼんやりと結界があった場所を眺めながらそう零せば……俺の横に座ったセラが同意するように頷く。
「ええ、終わりましたよ。かの悪魔は、跡形もなく、再生も出来ない状況で完全に消し飛ばしました。貴方のお陰で———勝つことが出来ました」
「……相変わらずセラは謙虚だなァ……」
「ふふっ、これも私の長所ですから」
そう言われたら返す言葉もない。
俺は小さく笑みを零して肩を竦める。
そして、思い出したかのようにあのクソ面倒な悪魔を召喚したゼノンに視線を向けると。
「……ハハッ、ぐるぐる巻きにされてやんの。仕事が早いね」
「流石に放って置くことは出来ませんし」
セラの魔法によって口を塞がれ全身を身動きが取れない程にぐるぐる巻きされたゼノンの姿があった。
コイツのせいで散々苦労をかけられたので、いい気味だ、と鼻で笑ってもバチは当たらないだろう。
「あー、疲れたぁぁぁぁ〜〜! もう当分は戦いたくないよ……」
俺はやっと終わったことを悟り、安堵の笑みを浮かべながら大の字に床へと身体を投げた。
そんな俺の姿を見てクスクスと口元を隠して笑っていたセラだったが。
「ゼロさん」
「んー? どうしたー」
名前を喚ばれた俺は何となしにセラの方に顔を向けて———大きく目を見開いた。
「———私を助けてくれて、手を握ってくれて……本当にありがとうっ!!」
そう言ったセラは、俺の手を握りながら、初めて会った時とは比べ物にならない———輝かんばかりの可憐で美しい笑みを浮かべるのだった。
————————————————————————
や、やっと第3章のエピローグが書ける……!!
な、長かったぁぁぁぁぁぁ……!!
ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)
応援する
アカウントをお持ちの方はログイン
カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る