【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第61話 よろしくお願いしますね?
「———あのぉ……何で俺は正座をさせられているのでしょうか?」
スラングを倒して簀巻きにされたゼノンを小突きながらこれでもかと煽り散らかしてから1日が経ち、太陽が隠れて月が空を支配する夜。
俺はセラより一足先にアズベルト王国に帰還を果たしたわけだが……昨日送った手紙の内容について国王陛下の下に呼ばれるわけでも、脱走兵として牢獄にぶち込まれるわけでもなく———1番にアシュエリ様の部屋に連行された。
そして今は、こうして床で正座を余儀なくされている。
だがそれも何の説明も無しにさせられているので、勇気を振り絞ってエレスディアへ尋ねてみたのだが……。
「何か言ったかしら? 悪いわね、全く聞こえなかったわ」
「いえ、何も言ってません!」
冷酷なんて言葉も生温いほどの絶対零度の瞳で睨まれ、俺は先程の言葉を無かったことにしてスッと目を逸らした。
こ、怖いって……。
何で俺の周りの女性はこうも怖い人ばっかりなんだよ……。
あぁ、あの心優しいセラが恋しい……。
何て俺がしみじみと思っていると……エレスディアが不服そうにジト目で俺を見つめていた。
「アンタ、今他の女のこと考えたでしょ?」
「しれっと俺の脳内覗かないで? 君はエスパーか何かなのかな? あと、思春期男子を舐めんなよ? 基本的に女性について考えてない時間がないくらい女性について考えてるからな」
「ここ最近で1番要らない情報ね」
「なら俺の頭の中を覗かないでくださいます!?」
こいつ理不尽すぎるだろ。
てかマジでこれくらいの男子はエロガキばっかりだからな?
どんなにクールな顔してる奴でも内心ではエロいこと考えてるから!
「はぁ……アンタが普段通り過ぎて、何を言おうとしてたのか忘れたわ」
「お、もしかして心配してくれてたん?」
呆れた様子でため息を吐くエレスディアに、俺が冗談半分でニヤニヤと笑みを浮かべて言えば。
「ええ、心配したわよ。アンタが副団長でも敵わなかった『殲滅の魔女』と戦うって知ったときも、アンタが『殲滅の魔女』と戦線離脱したって聞いたときもね。逆に心配していないとでも思っていたの?」
その場でしゃがんで俺と目線の高さを合わせたエレスディアが、ジーッと俺を見つめる真紅の瞳に僅かな怒りと焦燥感を宿しつつ、どこか不貞腐れた様な表情を浮かべて口を尖らせた。
前者に関してはともかく、後者に関しては完全に俺が悪いので、うっと言葉を詰まらせて目を逸らしながら謝る。
「あー……心配かけてごめん。ちょっと勝手が過ぎた」
「もう良いわ。別に怒っているわけじゃ……いやもちろん怒ってはいるけれど、こうして戻ってきてくれたことだし許してあげる。でも……やっぱりアンタには私がいないと駄目ね」
「それはそう。これからも俺の相棒頼むわ」
「……っ、ま、任せなさい。いい具合に手綱を握っておいてあげるわ」
そう言って少し嬉しそうに頬を綻ばせるエレスディアだったが、どこか満足げに立ち上がって後ろでジーッと俺を見つめていたアシュエリ様の方を向く。
「アシュエリ様、次は貴方の番ですよ。色々と言いたいことがあるんですよね?」
「……ん」
どこか居心地悪げにソファーに座っていたアシュエリ様が、エレスディアの言葉を受けてビクッと身体を震わせると。
「……ごめん、ゼロ」
「え?」
もぞもぞと座り直して俺の方を向き、何か悪いことをした子供が親に謝る時のような表情を浮かべて謝ってくるではないか。
まさか謝られるとは思っていなかった俺は、完全にポカンと呆けた表情を浮かべてしまう。
「ふんっ、情けない顔ね」
「おい、俺のイケメンフェイスを情けない顔呼ばわりするな。イケメンは呆けた顔も格好いいだろ」
「……妄想? アンタ、鏡みたことある?」
「あれ?? 俺ってそんなに顔良くないの? ———じゃなくて、どうしてアシュエリ様が謝るんですか? 謝るのって寧ろ俺の方では?」
俺が本気で意味が分からないとばかりに首を傾げれば、アシュエリ様が表情こそ殆ど変わらないものの、どこかしょんぼりとした様子で首を横に振る。
「……違う。前線に送ったの、私。未来視でこうするしか方法が無かったけど……私のせいで、ゼロは大変な目に遭った。だから、ごめん」
「あぁ……別に良いですよそんなの」
身構えた割に対したことではなかったので、若干肩透かしをくらいながらも肩を竦める。
「確かに前線は大変でしたけど……お陰で俺は戦略級魔法使い如きじゃ殺されないって分かったので大収穫ですね!」
「……でも」
「それに———俺は貴女の騎士ですから。貴女の命令とあればどんなこともやり遂げますよ。あ、もちろん団長を倒せとか無理難題を言われたら逃げ出しますけど」
俺が自身が思う1番茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべてそう言えば……アシュエリ様が僅かに口角を上げた。
「……ふふ、変な顔」
「おっと、俺の渾身の魅惑の笑みを変な顔とは何ですか、変な顔とは! 幾らアシュエリ様であろうと許しませんからね!?」
「……でも、嫌いじゃない」
「…………アシュエリ様、人の気持を下げて上げるのがお上手ですね」
「ふふん」
「嫌味を言ったんですよ、嫌味を」
相変わらず皮肉を欠片も理解していないアシュエリ様の姿に小さなため息を吐きつつ、2日くらいしか離れていなかったのに……確かに自分の居場所に戻ってきたという実感と共に笑みを浮かべていると。
「———と、ところで……殲滅の魔女とは、何も無かったのよね? 例えば……悩みを聞いて寄り添ってあげたり、とか……彼女の願いを聞き届けた、とか」
和やかな雰囲気の中に、チラチラと何かを言いたげに俺に視線を送っていたエレスディアが遂に爆弾を投下した。
あまりにも的確な指摘に俺の顔に浮かんだ笑みがビシッと固まり、アシュエリ様の此方を見る碧と金のオッドアイが嘘は許さないとばかりに俺を射抜く。
エレスディアも俺の顔を見て、スーッと瞳の熱と色を消していく。
何も悪いことはしていないのに冷や汗が止まらないのは何故だろう。
寧ろ世間一般的には物凄く良いことをしたというのに……2人の視線が徐々に冷たくなっていくのは何故だろう。
そんな緊迫の雰囲気が漂う中で1番始めに口を開いたのは———この空気を作り出した張本人であるエレスディアであった。
彼女は瞳の熱や色を消すだけには飽き足らず、腕を組んで眉を吊り上げる。
「……もしかして、また首を突っ込んだのかしら? どっち? 私が言ったことのどっちをしたの?」
こ、怖いって。
てか何で俺がやったことをバッチリ分かってんの?
そんなの誘導尋問じゃないですか。
「…………えーっと……どっちもしてな———」
「———嘘は、許さない」
「はい、どちらもやりました」
始めこそ嘘を付こうとしたものの、俺の言葉に割り込むように告げられたアシュエリ様の底冷えするほどに冷たい声色の言葉に反射的にゲロった。
そんな俺の言葉に、エレスディアが頭が痛いとばかりに眉間を押さえてため息を吐き、アシュエリ様がむすーっと子どものように露骨に頬を膨らませてむくれると。
「詳しく教えなさい」
「ん、直ぐに教えろ」
言い逃れやはぐらかすことは許さないとばかりに冷たい言葉が降ってきた。
超絶美少女の2人に詰められるだけで怖いというのに、更に怒りすら感じる絶対零度の言葉を貰えば……話さないという選択肢は俺には無かった。
「えっと、殲滅の魔女……セラと最初に出会ったのは戦争前夜———」
そう俺は1から説明をしようとしたその時。
「———ゼロさん、ここは私からお話しましょうか?」
どこか神秘的な響きを孕む声と共に、アシュエリ様の部屋にあるベランダの扉が開け放たれる。
同時に全員の視線がそちらに向き———あの日と同じ様に月の光を反射してアメジストの髪をキラキラと輝かせつつ、されど儚さは消え、穏やかな笑みをたたえたセラがゆっくりと降りてきた。
彼女は今は戦闘服であるドレスではなく、俺と共に買った服を着用している。
そんなセラの様子にエレスディアが剣の柄に手を置いて警戒する中、アシュエリ様がぼーっとした視線を向けて首を傾げた。
「……誰?」
「初めまして、アシュエリ・フォン・デュヴァル・アズベルト様、エレスディア・フォン・ドンナート様。私はセラ・ヘレティック・フィーラインと申します。以後、お見知りおきを」
そう言って気品あふれる優雅な礼をするセラだったが、エレスディアは依然として警戒を解くことなく問い掛ける。
「……元敵国の貴女がどうしてここに? ぶちのめされたいの?」
「ふふっ、貴女に私が倒せますかね?」
「いやストップストーーーップ!!」
何か物凄く殺伐とした空気になってきたので、俺は痺れる足で立ち上がり、2人の間に陣取った。
「エレスディアもセラも何でそんなに喧嘩腰なん!? 一旦落ち着こうよ! ———ですよねアシュエリ様!?」
この中で唯一参加していないアシュエリ様に俺が話を振れば……彼女は2人に視線を送ったのち、フッと口角を上げて呆れたようにため息を吐いた。
「……ん、ゼロの言う通り。良い女は、余裕が大事」
「「んなっ!?」」
「そこでどうして良い女の下りが出るのか知らないですけど、アシュエリ様がこう言ってるんだし落ち着こうよ! 戦いは何も生まないって!」
そう、俺が2人の前で行ったり来たりしながら説得すると……エレスディアが小さくため息を吐いて剣を納めるたことで、セラも魔力を抑えた。
しかしエレスディアは未だ不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「……それで、彼女がどうしてここにいるのよ?」
「ああ、それなんだけど———」
俺が気を取り直して説明しようとしたその瞬間———俺の手が柔らかい感触と温もりに包まれたかと思えば、少し遅れて腕全体に柔らかさと温もりが伝わる。
———セラが俺の手を繋ぐだけでなく、腕を抱き締めたのだ。
「セラさぁぁぁん!? どうしたの君!?」
「ちょっ、何してるのよ!? は、離れなさいよ!?」
「……ズルい。そこは、私の場所なのに」
これには俺もエレスディアもアシュエリ様も呆気に取られて、各々それぞれの反応を示すと共に一斉に視線がセラに向く。
驚きやら怒りやら、色々な感情が籠もった3人の視線を受けたセラだったが、一切動じること無く堂々と言い放つ。
「実は、これから私もここで暮らすことになりました。彼に……ゼロさんにお誘いいただきましたので。もちろん国王陛下に許可も貰っていますよ。だから———」
セラは驚く俺をアメジストの瞳で見上げると。
「———よろしくお願いしますね、ゼロさん?」
悪戯が成功したと言わんばかりに蠱惑的な笑みを浮かべると共に、更にギュッと俺の手を握ったのだった。
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どうも、第3章が長くてあとがきの書き方を忘れかけてたあおぞらです。
これにて第3章『戦争』は完結です。
この3章だけで30話だから……1章と2章合わせたのと同じ話数なんだって。
いや長すぎだろ!
当初の目標———『1章辺り15話くらいで終わらそ〜〜』とか一体何処行ったんだよ俺!?
ま、まぁそんな話は置いておいて。
今章はゼロが他国で活躍する&『不滅者』の二つ名を貰うお話でした。
まぁ活躍……なのか良く分かりませんが、そのお陰かせいかで『不滅者』の名は世界に轟きました。
どんどん自らの願いとかけ離れてくね、ゼロ。
そして次章から———第4章『世界四大災厄』です。
そう、実は2章の最初から出てたのに一切触れられてなかった奴らです。
今章は例の女神の言った通りゼロの苦難と成長の章になるでしょう。
是非ともよろしくお願いします!
それと『続きが気になる!』『面白い!』や『ゼロがかっこいい!』『ヒロイン達が可愛い!』などと思ってくだされば、☆☆☆やフォローよろしくお願いします。
また、一応全てのコメントは見てますので、是非とも応援コメントもよろしくお願いします!
ではまた次章で!!
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