【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第70話 ゼロの過去①
———6年前の俺は、正真正銘堕ちに堕ちたゴミクズ人間だった。
どのくらいかって?
それはもう救いようがないくらいのろくでなしでクソ野郎だったよ。
それこそ前世でのヤンキーとかが物凄く可愛く思えるほどにね。
今思い出しただけでも、反射的に助走からのドロップキックを食らわせたくなるくらい。
もちろん今更正当化する気もないし、自分がゴミクズの最低野郎だったのは、誰よりも俺自身が1番分かっている。
ただ、当時の俺も俺で一杯一杯だったのだ。
堕ちる原因となったのは———やはり母さんの死だろう。
ハッキリ言ってこの頃の頃の俺は、母さんを失った虚しさや寂しさ、自らの不甲斐なさに苛まれて……精神的に摩耗していた。
俗に言う『病んでいた』というヤツだ。
今だからこそ言えるが……中々にヤバかった。
間違いなく普通の人間の正常な思考はまずしていなかった。
ん、それは今も変わらない?
やかましいわ。
まぁそれでも、孤児院に行っては思い出のある家が売られてしまうので……始めは真面目に働こうとした。
母さんに顔向けできるように真っ当に生きようと藻掻いた。
だが……そもそも俺のようなまだ小さな子供で、尚且つ親が居ないとなると、まずまともな所では雇ってもらえない。
いざ雇ってもらえるところに出会っても、必ずと言っていいほどブラックを超越した場所ばかり。
両親のいない俺は当たり前のように嘗められ、給料がちょろまかされることは当たり前で、ヤバい所では給料日前日に何のミスもしてないのに突然クビにされる……何てこともあった。
そんなある日、3ヶ月連続で給料を理不尽な理由で10分の1以下にされるという仕打ちにあうということが起きた。
もちろん俺も抗議をしたが……返ってきたのは『貴様のような孤児に払う金はない』などの罵倒のみ。
ただ、それだけならまだ良かった。
それだけだったなら、我慢して大人しく引き下がっていただろう。
しかしその店主は———俺の地雷を軽々と踏んでしまった。
店主は俺を嘲笑うように醜い笑みを浮かべると。
『貴様のような無能で無価値な奴の親は、息子と同じで無能で無価値な親だったんだろうな?』
その言葉を聞いた後のことは……よく覚えていない。
気付けば朝になっていて……眼の前には血の海に沈み、痛みに完全に壊れた店主を用心棒諸共の姿があった。
そして、全身を真っ赤に染めながらも全くの無傷で佇む俺。
———瀕死まで追い込んでいたのだ。本来子供では勝てない者を相手を。
朧げな記憶では、今と同じように勝てるまで永遠に食らいついていた気がする。
なまじ転生特典の【無限再生】があったせいで何されても直ぐに治るし、普段から身体を酷使していたこともあって……俺の身体は子供にしてはあり得ない程の膂力を持っていた。
そのため子供のくせに喧嘩が異常に強く、相手が大人だろうと戦闘経験のある冒険者崩れであろうと規格外の身体能力と最高の再生能力で俺は負けることがない。
そんな経験をしてから俺は半年と経たず文字通り堕ちていった。
気に入らない奴、喧嘩を吹っかけてくる奴、調子に乗っている奴などなど……兎に角ムカつく奴は完全にプライドがズタズタになるまでぶっ飛ばした。
そしてぶっ飛ばした奴から親の残してくれた家の家賃や食費に賭博で遊ぶ金などを奪って生活するという、小学生と同じ年齢にしてヤンキーもビックリの荒れ具合。
挙げ句の果てには、素行が悪くて強いくせに全く沸点が分からないと、ゴロツキやガラの悪い冒険者にすら敬遠される始末だ。
ただ、別にそれで良かった。
周りの評価など死ぬほど興味がなかった。
この頃が文字通り人生で1番のどん底だった。
死にたくないという思いがある一方で、こんなクソみたいな人生を続けるくらいならもう死んでしまっても良いかとも思っていた。
こちとら1度死を体験した身。
本来ならば、もう2度と人生を送ることは出来なかったはずの身。
もはやこの世に未練など殆ど無い。
死ねばもしかしたら両親に会えるかもしれないと考えれば……不思議と死への恐怖心も薄れていった。
俺は———段々と死を望むようになっていった。
何をしても心にぽっかりと開いた穴は埋まらなくて。
こんな俺に寄り添ってくれる人は当然いなくて。
ずっと心を占領していた負の感情すらも消えかかっていて。
自分が自分じゃないような、ズレるような感覚が恐ろしくて。
何度も死にたい———死のうと思った。
高いところから落ちたり
自らの首を包丁で掻き切ったり。
全身を滅多刺しにしたり。
でも……転生特典が俺の死を邪魔する。
死にたくないからと貰った転生特典が、死にたい俺を何よりも苦しめていた。
いつしか視界は色を失っていた。
鏡に映る自分は吐き気がするほど醜くて気持ち悪くて……真っ黒な瞳はくすんで濁りきって何も映していない。
笑おうと思っても表情がピクリとも動かず、笑い方を忘れていた。
それでも本能からか、飢餓感だけには耐えられず……再び金を奪う毎日。
ただただ無為に生きていた。
そんな時———
『ゼロ———君は暴走する私の監視役兼たった1人の仲間だ。ふふっ、頼りにしてるよ』
俺は彼女と出会った。
その出会いは、今でも鮮明に憶えている。
彼女との最初の出会いは———街から少し外れた森の中。
その森は強いモンスターがいるという報告こそない。
しかし鬱蒼と生い茂った木々が一切の光を遮り、昼でも真夜中のように真っ暗だと有名で……有名なせいか毎年巫山戯て入って何人もの行方不明者を出す———近隣に住む者達にとっては一種の禁足の地のような場所だった。
『…………暗いな』
俺はそんな危険な森を、死人よりも死人っぽい形相でフラフラと歩いていた。
征く宛もなく、ただひたすらに前に歩いて行く。
どうしてそんな危険な場所に行ったのか……自分でもハッキリと分からないが、このままこの世界から消えてしまいたかったのかもしれない。
そして幸か不幸か———俺はゴースト系の魔物に出くわした。
俺の2、3倍はありそうな体躯にミイラのように身体はカラカラに乾燥して骨と皮しかない様な見た目。
しかしゴーストだからか全身が透けており、後ろの景色が魔物越しに見える。
後に聞いた話だが……どうやら俺が遭遇した魔物は、この森で行方不明者が出る原因の大部分を占める凶悪な魔物だったらしい。
戦略級に届くか届かないかのレベルで、本来なら精鋭騎士が直ぐ様やって来るような魔物……それが俺の眼の前で憎悪の雄叫びを上げた。
『ォォォォォォォォ……ニンゲン……コロス……!!』
『……さっさと殺れよ。お望み通り、死んでやる』
俺は無機質な瞳を向けて、ぼんやりと魔物を眺める。
不思議なことに、恐怖は全く感じなかった。
寧ろ、この魔物が物理的損傷をほぼ全て一瞬で治す俺をどうやって殺すのか気になる気持ちすらあった。
しかし———永遠に魔物の攻撃が訪れることはなかった。
俺は1秒たりとも目を離していなかったのに、気付けば魔物が何千何万にも斬り刻まれて霧散したからだ。
一切音もなく、風すらも感じず刹那にも満たぬ間に魔物が死んだからだ。
『…………』
俺はその光景を久方振りに感じた驚愕の感情によって見開かれた瞳で見ていた。
そして、魔物が居た所から一歩離れた所で俺を見下ろす黒髪の美少女へと視線を移す。
短く切り揃えられた黒髪。
まだ完全に成長しきっていないあどけなさの残る中性的で端正な顔立ち。
鎧越しにも分かるそれなりに隆起した胸部。
急所だけを守るように取り付けられた鈍い光を放つ軽めの鎧。
そして———何処までも綺麗で神秘的な蒼銀のオーラを纏っていた。
『ふぅ、何とか間に合ったか。大丈夫か、少年?』
俺がじーっと見ていると、美少女がコテンと首を傾げて俺へと視線を落として尋ねてきた。
対する俺は助けてもらったにも関わらず、お礼など一言も言わずについ反射的に告げていた。
『……どうして、俺を助けたんだよ……。折角……折角———死ねると思ったのに』
そんなクソ生意気で恩知らずな言葉を吐く俺に、美少女は一瞬驚いたように瞠目したかと思えば。
『———よし、私が受けた依頼に付き合って貰おうか、少年』
そう言ったと同時に問答無用で俺を担ぎ上げて森の更に奥へと、とんでもない速度で走り出す。
これが俺と恩人である騎士———カーラさんとの出会いだった。
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【補足】
カーラは、カエラムのカとラをとっただけのカエラムが即興で考えたあだ名。
あまりに自然でゼロはこれを本名だと思っていた。
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