【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第81話 ゼロ、連行される(途中からカーラside)
———日常が戻ったと思ったら……大罪人指定されて聖光国に連行されそうになっているゼロです。
正直な話、心当たりがないわけじゃない。
寧ろ心当たりがあり過ぎて、どれのことで大罪人指定されているのか分からないといった方が正しいかもしれない。
「えーっと……因みにどの件で俺は大罪人になったんですかね……?」
親の仇を睨み付けるかの要領で向けられる殺気混じり視線に戦々恐々としつつ、俺は唯一頭が出ている男に話し掛けると、頭以外を白銀一色に包みこんだ男は俺へと侮蔑の目を送りながら吐き捨てた。
「———貴様が悪魔と契約をした件だ。惨めな言い逃れはやめろ」
…………で、ですよね〜。
や、別に言い逃れをしようとしてたわけではないんですよ?
本当に色々とやらかし過ぎててどれがどれか分かんなかっただけで。
『……てかおい、お前のせいでクソ面倒なことに巻き込まれたじゃねーか』
『カハハハハっ、オレは過去にこの世界で暴れちまったからなァ……コイツらがこんな反応をするのも無理はねェか。ケケケッ』
『笑ってる場合じゃないんですけど!? マジで俺が処刑されそうなんだが!?』
『あぁーん……多分、そうはならねェ気がするぜ?神の力を宿す奴は例に漏れず何処かおかしいからなァ』
何処か含みのある言葉を零したのち、黙り込むスラング。
こういった1番気になるところで話を区切る辺り性格の悪さが滲み出ている。
使えねぇ野郎が……何て俺が内心棘を吐いていると。
「———おい……ここが何処か分かっているのか?」
カーラさんが恐ろしく冷たい瞳を乱入者である聖光国の者達に向け、威圧する。
彼女の身体からは薄っすらと蒼銀のオーラが漏れ出ており……たったそれだけで辺りの重力が増した気がした。
「おい、私が質問しているだろう? なぜ答えん?」
「ぐッ……き、貴様が我が教皇猊下ですら危険視される『龍を喰らう者』か……!?」
「……貴様は無能か? 私はさっきから『ここが何処か分かっているのか』と訊いてるんだが?」
俺の前に躍り出て剣すら抜かないまま更に威圧を強めるカーラさんの様子に気圧されたらしい男は、表情に焦りを浮かべながら絞り出すように声を発した。
「わ、分かっている……!! だが、此方はアインズベルグ国王陛下からの書状も預かっているのだぞ……ッ!!」
「……何だと? おい、その書状とやらを貸せ、今直ぐに。跡形もなく消し飛ばされたくなければな」
「ぐぅぅ……ッ!! お、おい、渡してやれ……!」
顔にびっしりと脂汗を浮かべた男が、カーラさん威圧に耐えるようにギリッと歯を食い縛ると共に固まる部下へと指示を出し、男の直ぐ後ろで控えていた全身白銀の鎧に身を包んだ聖光国の騎士が不格好な仕草でカーラさんに何かが書かれた書状を渡した。
そんな様子を直ぐ近くで見ていた俺はというと。
……す、すげぇ……他国の奴ら相手に一歩も引かないカーラさんパネェ……。
目の前で繰り広げられたカーラさんの独擅場にただただ感嘆の息を漏らしていた。
当初は完全に向こうが空気を支配していた。
それが今では、完全にカーラさんが主導権を握っている。
これこそが王国最強にして誰もが恐れるチート騎士の本領。
この国の騎士が不満を垂れながらもそれを遥かに上回る尊敬と憧れを向ける最強の名を冠する者。
文字通り———次元が違う。
ついこの前は追いついたと思っていたが……どうやら幻想だったらしい。
まだまだ目の前の恩人との力の差は大きいようだ。
しかし、巻き返しもここまでだった。
国王陛下が書いたらしい書状に目を通したカーラさんが読み進めるほどに眉を潜めたのち、色々な感情が綯い交ぜになったような歪んだ表情を浮かべると共に舌打ちをしたのである。
「チッ……そう言うことか」
「えっと……カーラさん?」
意味不明な言葉を呟くカーラさんに俺がキョトンとして首を傾げると。
「———ゼロ、コイツらに付いて行ってくれるか……? 恐らく……処刑はされないはずだ。それに……もしもの時の保険もあるみたいだし、何かあれば私が乗り込んでやる」
そう顔に色濃く葛藤を宿したカーラさんが、俺と自分自身に言い聞かせるかのように俺にだけ聞こえるほどの声量で囁いたのだった。
「…………」
私———カエラム・ソード・セレゲバンズは、私やエレスディア、騎士団の者達を心配させまいと、まるで遠足にでも行くかのように———
『んじゃま、ちょっくら聖光国旅行に行ってきますわ』
そう言いながらへらりと笑みを浮かべつつ、聖光国の騎士職にあたる『神官騎士』のクソ野郎共に連行されていったゼロが最後に見えなくなった扉を見つめて……ギリッと唇を噛んだ。
「……団長、どうして行かせたのですか……?」
自分でも不機嫌を隠しきれていないと分かるくらいに苛立つ私に、騎士団でも特にゼロと親交の深かった———バードンが恐る恐るといった感じで問い掛けてきた。
強面な見た目によらず小心者で人の機敏に聡いの彼にしては珍しい。
「アイツは……ゼロは馬鹿で何も考えてないような奴で生粋の女たらしですけど、俺を含めて騎士団の全員があの馬鹿で頼りになる新入りに恩があります。貴女の命さえあれば反乱でも———」
「———それ以上は許さないぞ、バードン」
「で、ですが———」
瞳に危うい覚悟の色を浮かべたバードンとその後ろで同じ色を灯す馬鹿野郎共に冷水をぶっかけるかのように威圧を放つ。
「バードン、私が同じことを言うのが嫌いなのは知っているよな?」
「…………申し訳、ありません……」
苦々しい表情で下がるバードン。
普段から空気を読む力と危機感知能力がずば抜けて高く……尚且つ自分の力と立場を理解した立ち回りをするコイツにしては、本当に珍しい大胆で危うい行動だ。
しかも他の団員も、戦争や仕事の時以上のやる気と覚悟を漲らせていた。
それほどまでに———ゼロはこの馬鹿共の中で大きな存在なのだろう。
昔、誰からも見放され、罵倒されていた少年。
昔、自分自身を責めるがあまり自ら命を絶とうとしていた少年。
それがどうだ。
たった数年で、国でも英雄揃いのこの騎士団の者達の心を掴んでいる。
彼のために自らの祖国を裏切ってまで助け出そうとする者達がいる。
彼の過去を知る者として———これほど嬉しいことはない。
私だって、本当はゼロをあんな国に連れて行かせたくはない。
聞いた瞬間は、この国を見限ってでも助け出そうとすら思った。
だが———それもあの方にはお見通しだったらしい。
書状には、私だけに分かる特殊な魔力で言葉が綴られていた。
ゼロを大切にする私だから、ゼロをある程度理解しているつもりの私だからこそ従わざるを得ないことが。
もし書状に書いてあったことを彼が知れば……きっと彼は自らの足で聖光国に行っていた。
不可能だと理解していながら、私の時と同じように……1人で向かうことだろう。
だから、私は陛下の決定に従った。
それに普通に書かれている条件を見ても、陛下だって相当尽力したことが分かる。
だからこそあの騎士達はゼロに殺気すら向けていた様だが……。
「…………ゼロ、私はどんなことがあろうと君の味方だからな。だから———思いっ切り自分を貫いてこい」
私はどうか彼に届けと思いながらそう呟くと。
「…………ぁ……」
一瞬———を一瞥したのち、今私に出来ることを思案し、早速取り掛かることにした。
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