【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第83話 神ノ子
「———そう言えば3人がここに来た理由って何なんですか?」
ヘルとバルを両腕の上腕二頭筋に掴まらせて持ち上げつつ、ぐるぐるとその場で回って遊んでいる間に相変わらず俺達の様子を微笑ましげに眺めるアウレリアさんに尋ねてみる。
すると、彼女は言うの忘れてたと言わんばかりにパチリと瞬きをしたのち、口を開くが……。
「あぁ、それはですね———」
「うわぁーーーすごーいっ! ぐるぐるまわるーっ!」
「ゼロ兄力強いんだな! 俺も出来るようになりたいっ!」
決して大きくないアウレリアさんの声は、子供特有のバカデカ声量のガキンチョ共の声によってかき消されてしまう。
これには俺もお怒りモード直行である。
「おいこらガキンチョ共、ちょっと大人の会話をしてるから黙っててもらおうかっ! じゃないと2度とこれしないぞ」
「やー! ヘル、しずかにしてるー」
「俺も静かにする! だから大人のお話聞かせて!」
この数時間で随分と懐いてくれたもんだ。
言っちゃ何だが悪い大人にあっさり騙されそう……って騙されても大丈夫か。
こんな子供でも代行者とかいうぶっ壊れ性能の強さを持ってるわけだし。
扱いが難しい、と俺は首を捻りながらもアウレリアさんに顔を向けると。
「んじゃもう1回聞きますけど、俺の場所に来た理由は?」
「…………」
「あの……何で目を背けるんです? 何か不都合でもあったんですか?」
スーッと綺麗に瞳を横にスライドさせて、僧侶服越しでも分かる豊満な胸の前でちょんちょんと人差し指同士をくっつけては離すという幼い行動に移行するアウレリアさん。ギャップ萌えと言うやつですね。
しかし、それよりダラダラと冷や汗を流す彼女の姿に嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
俺が必死に目を逸らそうとするアウレリアさんの顔をジーッとジト目で見つめていると、声を上げたのは俺の右斜め下からだった。
「———そう言えば、俺達は教皇様の所にゼロ兄を連れて行かないといけない……とか言われた気が……」
バルのヤバいと言わんばかりの声色に俺がアウレリアさんに向ける圧が増し、圧を向けられる彼女が瞳をぐるぐると回しながら更に冷や汗をダラダラ流して口を噤む。
そんな大人達の無言の争いが勃発する中、今度は左斜め下から声が上がる。
「ゼロ兄、きょーこーさまは13時45分にゼロ兄をつれてこいっていってたよー」
「アウレリアさん、今は15時半ですけど」
「……私の方から猊下へ謝罪させていただきます」
こうして、俺達は初っ端から大遅刻をかますのだった。
「———アウレリア、バル、ヘル……お前達は一体何をしに行ったのか、尋ねてもよいか?」
「申し訳ございません、猊下。全ては私の不徳の致すところでございます」
「ごめんなさい、きょーこーさま」
「ごめんなさい、教皇様」
大急ぎで教皇と呼ばれたこの国の元締めがいる『神室』とかいう玉座の間より神々しさを強調したような場所に向かった俺達だったが……案の定、2時間ほど待たされた教皇様はそれはもうお怒りだった。
現にアウレリアさんが90度に届きそうなほどに頭を下げ、バルとヘルはシュンと親に怒られた子供のように縮こまっている。
アウレリアさんは謝罪の才能があるね。
対する教皇様は———
一言で言えば———神が直接作ったかのような恐ろしい美貌を誇る女性。
銀というよりは純白と例えた方が良い足元まである長い髪と眉毛とまつ毛。
遠目から見ればほぼほぼ白目と大差ない真っ白な瞳には苛立ちが宿り、人間とは思えない一種の完成された完璧な顔には憮然とした表情を浮かべている。
そんな教皇と呼ばれた女性は巫女服を豪華にしたような服を身に纏っており、アズベルト王国の座り心地をガン無視したような豪華絢爛な玉座とは違い、素朴ながら座り心地の良さそうな椅子に腰を下ろしていた。
「……はぁ……バルとヘルはもうよい。まだ幼子ゆえ許そう。しかし———アウレリア、お主は何度言えば分かるのだ? 毎回謝れば許される……などと思っているのであれば、私はお主の評価を改めることになるが……」
「滅相もございません。毎度バル様とヘル様のお可愛い御姿に見惚れてしまう私が悪いのでございます」
「…………もうお主もよい」
…………な、何か気苦労の多そうな人だなぁ……てかアウレリアさんってあんなお姉さんっぽい見た目と年齢なのにおっちょこちょいなのかよ……。
まぁ俺からすればギャップがあって最高なんですけどね。
もう可愛いとか綺麗とかいう異性としての感情すら湧かない見た目と違って、妙に人間味のある教皇様とギャップ萌えのアウレリアさんのやり取りに俺がポカンとしていると。
「———して、お主が噂に聞く『不滅者』であるか?」
気を取り直したかのように表情を戻した教皇様の純白の瞳が、スッと3人から少し後ろでぼーっとしていた俺へと向けられる。
突然話し掛けられた俺はもちろん動揺するが……これでも何度も威厳の固まりである国王陛下と相対し、最恐で最強の騎士と過ごしてきた男。
この程度でヘマをする俺ではない。
「一応巷ではそう呼ばれているらしいです。あ、本名はゼロと申します」
俺は特に緊張することなくスラスラと名乗れば……教皇様の隣でこれまで終始無言を貫いて控えていた、西洋の僧侶服姿ながらヤンキーみたいな女性がギンッと鋭い眼光を俺に突き刺して怒鳴る。モーニングスター使ってそう。
「無礼者がッ!! 猊下を前に地に頭を付けないとは何事だッッ!!」
「あ、はい」
「「「「「えっ?」」」」」
「えっ?」
女性でも余裕で男性に腕力で勝てるこの世界で調子に乗って逆らったりはしない。
それがモットーの俺が何のためらいもなく素直に磨き上げられた完璧な土下座をして見せれば、何故かこの場にいる全員が気の抜けたような声を漏らした。
そして俺はその予想外の反応に混乱して同じく気の抜けた声を漏らす。
え、何でこんな空気になってるの……?
俺別に言われた通り土下座しただけだけど?
「お主……た、躊躇いというものは無いのか……?」
「あるわけないでしょう? 俺は大罪人として連れて来られたんですよ? 土下座しろと言われたらしますよ、死にたくないですし」
相変わらず頭を地に付けて話しているので彼女達がどんな顔をしているのか分からないが……気配とか雰囲気的にドン引きしているのが手に取るように分かる。
あ、あれっ、おかしいな……。
騎士団なら一種の風物詩として先輩方が『お、またゼロが土下座してんぞ。それじゃ毎度恒例、今日はどんなことで土下座してんのか当てようゲームするぞ!』とか言って賭けを始めてたんだけど。
アシュエリ様とかセラも土下座見ても何も言わないし……エレスディアとカーラさんは面白そうに見てくるし、国王陛下でも苦笑するだけだぞ。
俺が地面に額を当てて意味が分からないと頭に疑問符を浮かべていると……頭上から戸惑ったような声が掛けられた。
「お、おい……アタシが悪かったから頭を上げろよ……」
「え、もう終わりでいいんですか? 俺、最長3時間はこの体勢でいれますよ?」
「絶対やめろッ!! アタシが罪悪感を感じるだろうがッ!!」
「大罪人に罪悪感を感じる必要は無いと思いますけど……」
俺がやっとこさ頭を上げてキョトンとした様子で首を傾げれば、ヤンキーみたいな女性はイライラした様子で真っ赤な髪をガシガシとかいて再び怒鳴ってきた。
「良いから頭を上げろ! もういい! クソッ……コイツのプライドは一体どうなってんだッ!! 大抵英雄ってのはプライドが高いはずなんだ……ッッ!!」
「や、プライドで飯が食えますか? プライドで命拾いしますか? ———答えは否ですよね? ならプライドなんてドブにでも投げ捨てちまえばいいんです」
「おかしいッ……コイツはどこかおかしい……ッッ!!」
親切丁寧に説明してあげたはずなのに、何故か俺に恐怖すら感じているかのようなドン引きした目を向けてくるヤンキー女性に俺は首を傾げるしかない。
すると、俺の下に生意気兄妹がやって来て足にギュッと抱き着いたかと思えば、何故かオセロの時以上にキラキラとした瞳を送られる。
「すごいねゼロ兄っ! いちばんこわいべあとりっくすにかったっ! ゼロ兄さいきょー!」
「ゼロ兄、俺にもベアトリックスに勝つ方法を教えてよ! いつも怖い目で俺達を睨んでくるベアトリックスに俺も勝ちたいっ!」
「お、おいガキンチョ共……後ろ……」
「「へっ?」」
「クソガキ共……覚悟は出来てんだろうな?」
「「ぜ、ゼロ兄ーっ!!」」
無邪気な声を上げて振り返るバルとヘルだったが……鬼の形相をしたベアトリックスと呼ばれたヤンキー女性に首根っこを鷲掴みにされて、だらーんと宙に浮いたまま教皇様の横に連れて行かれた。
お前らの犠牲は忘れない。
「全く……こういうのはアタシじゃなくてテメェの仕事だろうが、アウレリア」
「申し訳ございません。あまりにも微笑ましい光景でしたので」
「テメェも大概狂ってやがるな……」
そう言って大きなため息を吐くベアトリックス。
俺の中で常識人の称号がアウレリアからベアトリックスに移動した瞬間だった。
「———もう、私が話してもよいか?」
ピクリとも表情を変えていないはずの教皇様の身から圧倒的な覇気というか威圧感が迸り、五月蝿かった全員が一斉に黙る。
俺もその威圧感にあてられ……納得した。
———……そりゃカーラさんと同格として扱われるわな。
思わず納得してしまうほどの底知れぬ強大さを目の前の女性から感じた。
しかし彼女は直ぐに威圧感を霧散させると。
「不滅者よ」
「あ、はい」
「時間がないゆえ色々と省かせてもらうが……」
そう前置きを置いたのち、何を言われるのかと身構える俺に告げた。
「———今から私の部下である代行者と手合わせしてもらうが……よいな?」
…………絶対省いたらいけないやつー……。
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