【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第84話 強者から見たゼロは(途中からアウレリアside)
「———……マジでやるんですか……?」
「あ? まじって何だ?」
「本当にって意味です」
「ああ、なるほど———って何回同じことを聞きやがる!? 最初は本当、次はホント、3回目はガチ、4回目はマジと来た……テメェ諦め悪いな!?」
「それが俺の取り柄です」
俺がへっぴり腰でもう何度目か分からない同様の質問を繰り出せば、ヤンキー女性ことベアトリックスさんが苛立った様子で舌打ちをした。
多分彼女にはタバコを吸ってる姿が似合う気がする。
因みに今俺達が居るのは、ド真ん中に武舞台が設置された見世物としての意味合いが強そうな場所。
そんな場所で、周りを大量の全身純白のフルプレートアーマー&胸に翼がクロスした紋章を刻んだ『神官騎士』と喚ばれるこっちの国の騎士達に囲まれており……武舞台に立つ俺の前には代行者第3位———『滅生』ベアトリックスさん。
ちょっと待ってー、滅に生ってどういうことですか?
それにあまりにもアウェイ過ぎて心臓痛いんですけども。
しかも、元々俺へのプラスな感情は微塵も感じなかったのはもちろん、それにプラスで俺があまりにも戦いを渋るせいで『実はコイツクソ雑魚なんじゃね?』的な空気が神官騎士の間で流れて始めてきている。
「お前、自分から評価を下げに行くのが上手いな」
「『実際会ったら幻滅する英雄ナンバーワン』の名は伊達ではないですからね」
「……お前はあまりにもプライドがなさ過ぎる。流石にもう少し怒っても良いんだぞ……?」
どこか不憫なモノを見るような目で俺を労ってくるベアトリックスさん。
きっとこの人は見た目と口調に騙されるパターンで、根は全然悪い人ではない、寧ろ物凄く優しい人なのだろう。
思わず姉御って呼びたくなっちゃう系の人。
何て俺が思っていると。
「———準備はよいか、不滅者よ」
我らがチート騎士、カーラさんと同格と噂される白髮白目の教皇様が、自分だけ特別な椅子に座って俺を見下ろしながら尋ねてくる。
どうやらこの人の中では、俺がベアトリックスさんと戦うのは確定事項らしい。
「……もうほぼほぼ死刑みたいなもんじゃん。いやまぁやるけどさ……」
俺は何の説明もなしに戦わせようとしてくる教皇様を1度キッと睨んだのち、小さく息を吐いて意識を切り替えつつ、目の前で何の武器も持たずに佇むベアトリックスさんへと顔を向ければ……ベアトリックスさんが少し面白そうに口角を上げた。
「ほぅ……面白いじゃねぇか。お前もそんな顔が出来るんだな?」
「本当はしたくないです。でも……姉御の上司がやれって強制しますし」
「あ、姉御……? アタシはお前の姉じゃないが……?」
前世での意味は合っているものの、この世界にはそんな意味はないのでベアトリックスさん……もとい姉御が戸惑った様子を見せるが、ここはゴリ押しさせて貰う。
「俺の村では頼りになる男勝りな女性を畏怖と尊敬を籠めて『姉御』と呼ぶんです」
「そ、そうなのか……まぁアタシの呼称なんざ何でもいいが……」
「ならそう呼ばせて貰いますね」
そう言いつつ、俺はグッと腰を落として地面にしっかり足を付けると。
「姉御———やるからには負けません」
ニッと勝ち気な笑みを浮かべて宣言した。
「姉御———やるからには負けません」
近接戦闘においては私———アウレリアに迫る能力を持ったベアトリックス様を相手に、先程までのへっぴり腰は何処に行ったのかお聞きしたいほどに堂に入った姿で構えるゼロ様がお告げになった。
まずこの言葉だけで場の空気がガラッと変わる。
吹っ切れたと思う者。
蛮勇だと馬鹿にする者。
力を推し量ろうと値踏みする者。
ゼロ様の纏う雰囲気の変化に警戒を顕にする者。
概ね3対4対2対1といったところ。
私からすれば、ゼロ様を嘗めている者が7割もいる神官騎士の程度の低さを目の当たりにして頭が痛いと言わざるを得ない。
彼らの教育担当であるベアトリックス様は、後で猊下よりお叱りを受けるだろう。
それはそうと……。
「うわぁ……ゼロ兄かっこいー! なんかアウレリアとおんなじけはいがするっ!」
「……俺も、あんな風に格好いい男になりたい……っ!!」
私の足にひしっと掴まりながらキラキラと瞳を輝かせてゼロ様を見ているヘル様とバル様が可愛すぎる。
きっと普段からゼロ様と接するような態度を取っていれば、今頃我が国はこの御二人の可愛さの虜になっているだろう。
おっと、少し興奮してしまった。
情けないことにバル様とヘル様のこととなると感情の制御が出来ない。
しかし、確かに御二人の言う様に……今のゼロ様は先程とは比べ物にならない強者の雰囲気を醸し出している。
「ハッ、おもしれぇじゃねぇか。アタシにそんな大口を叩く奴は、ウチの部下にも居ないからな」
「まぁ仕方ないですよ。そこの奴らとは出来が……潜った死線の数が違いますから」
ニヤッと口元を三日月に歪めるベアトリックス様に、ゼロ様が感慨深げにしながらも事も無げに肩を竦めて宣う。
明らかに神官騎士全員を敵に回す言葉を迷いもなくお告げになるとは……随分と大胆なことをなさる御方だ。
だからこそ英雄と呼ばれるのだろうが……。
「さて、戦い前のお喋りはこのくらいにしましょう。さっきも言った通り……俺は全力でいきますから———どうか直ぐに終わらないでくださいよ?」
代行者の中でも上位の実力を誇る彼女を相手に煽るとは、本当に面白い御方だ。
ゼロ様は私の関心や神官騎士達からの殺気混じりの視線をまるで感じていないかのようにゆっくりと目を瞑ると。
「———【特殊身体進化:狂気の悪魔】」
ポツリと魔法名が紡がれる。
ソレは決して大きくないものの……この広い闘技場全体にハッキリと届いた。
同時に———ブワッァァァと彼の身体から漆黒と白銀のオーラが解き放たれる。
何処までも深くて底が見えない純粋な漆黒と、何処までも美しくて輝きに溢れる純粋な白銀。
それらがお互いに反発しているようで引き寄せ合いながら1つの光の柱となって混ざり合い……柱の中心にいるゼロ様へと収束し、漆黒と白銀が綯い交ぜとなった繭となってゼロ様の身体を覆い隠した。
そして———。
「———ふぅ……相変わらずこの感覚には慣れねぇな」
ヒビ割れた繭の中から———半身を悪魔に堕としたゼロ様が顕れる。
身体の輪郭に沿って漆黒のオーラに覆われた左半身は、伝承に伝え聞く悪魔と何1つ変わらず……輪郭と漆黒の中にポツリと灯る真っ赤な瞳が、ゆらゆらとゆらめいていることによって不気味さや異質さが増していた。
逆に右半身は、髪も、眉毛も、まつ毛も、瞳も、纏うオーラも……全てが白銀に光り輝き、英雄とはかくあるべきと言わんばかりに光に満ち溢れている。
今この場に彼を貶める声はない。
ゼロ様に殺意を向けていた大勢の神官騎士達も、彼が纏う凄まじい力の奔流に恐れ慄き、先程までの覇気のない姿との格差に戸惑いを隠せないでいる。
実力差のある彼らでさえこれなのだ。
実力が近い私達代行者からすれば……。
「う、嘘だろ……!? 主様の力を代行するアタシに匹敵……いやそれ以上の力を感じるぞ……ッ!?」
「……ゼロ兄すごい……でも、ちょっとこわい……」
「…………格好いい……俺もあんな風に……」
1人人間として感じてはいけないことを感じている気がするが……かくいう私もゼロ様の力に驚きを隠せないでいる。
私達代行者は———神の力を代行する者だ。
神の力は規格外で、それを多少劣化しつつも8割以上の状態で振るうことが出来る私達もまた、この世の生物からすれば天災となんら変わりない。
アズベルト王国の等級で言えば最低でも小国級中位、私やベアトリックス、序列1位の御方ともなれば———その内大国級にも手が届くだろう。
だからこそ、普通ならば一介の人間に負ける所以はないのだが……。
目の前の御方は、我らの領域に踏み込んでいる……いや、それどころかその先———猊下のいる場所にまであと数歩の所まで来ている。
凄まじいの一言では片付けられない。
しかもそれ以上に凄まじいのは———悪魔の力を身に宿しながらもこれほどまでに自我を保っているその圧倒的精神力。
悪魔を身に宿せば簡単などという戯言は悪魔という存在を知らないから言える言葉に過ぎない。
悪魔は、我らが行使する神々とは違って人間という種に興味はないがゆえに人間の魂を喰らって自らの力を自らが行使する。
だからこそ———ゼロ様が自らの意志で悪魔の力を制御している現状は何よりも異常事態なのだ。
「どうっすかね、姉御? これでも俺が相手にならないと思ってる?」
「……!?」
先程までとは一変して、ニヤァァァァと何処か得体の知れない薄気味悪さを感じる笑み共に肩を竦めるゼロ様と、自らの心境を当てられて驚愕に目を見開くベアトリックス様。
どうやらベアトリックス様がゼロ様を心配していることに御本人は気付いていたらしい。
「……ハッ、アタシを煽るなんざ良い度胸してんじゃねぇか。そこまで言うなら———アタシだって本気でやってやるよ」
ベアトリックス様の纏う空気が変わる。
全身からは無尽蔵にも思われる赤黒い魔力が溢れ出し、彼女の身体を膜のように包み込むと。
「———【神気解放:聖天】」
カッッッと魔力が眩い光を放ち、元々赤黒かった魔力が紅蓮の輝きに染め上げられ……ベアトリックス様の身体の包み込み、周りを炎が燃えるように神気が停滞している。
そんな彼女の額にはゆらゆらと揺れる第3の目が開眼し、手には3メートルは裕にある三叉の槍が握られている。
「うわぁ……素手の俺相手に武器ってズルくない?」
「本気でやれっつったのはどっちだ?」
「それもそっか。てか———俺も作れば良いし」
そう言うと同時、ゼロ様の右手からまるで立体パズルを組み立てるかのように白銀に輝く一振りの剣が創り上げられていく。
しかし———
「———え、ホントに出来たんだけど。……あ、手を離したら消えるのね」
何故か御本人が1番驚いているという摩訶不思議な状況になっているが。
これにはやる気満々だったベアトリックス様も出鼻を挫かれたかのようにガクッと肩を落としていた。
「お、お前なぁ……」
「ここカット出来ます? いや、もうこれ以上は墓穴掘りそうなんでやりましょう」
その言葉を皮切りに緩んだ空気が引き締まり、2人が真剣な表情で構え———。
「【飛燕斬】」
「【破壊の刺突】」
白銀の斬撃と紅蓮の刺突がぶつかりあった。
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