【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第87話 疑問
「……………………え、何なんあの女? 気ぃ悪いんですけど」
俺は、あの人間離れした作り物のような美女である教皇から告げられた言葉を思い返しては永遠にキレるという半永久機関を創り上げていた。
一瞬でも『えっ、こんな美女が俺のこと好きとかマジテンションアゲなんですけどー』とか思って、俺の心の中のギャルがやっほーって顔出すくらいに上がったテンションを返して欲しい。
詳しく聞いてみれば何だ?
———最近1番乗りに乗ってる俺を引き抜きたい?
馬鹿言ってんじゃないよ、年齢不詳の人形女が。
乗りに乗ってるっての事実だしまぁ気は良いが……あの言い方で、要は俺の名声を借りたいがためにアズベルト王国裏切って聖光国に入れって言いたいわけだ。
打算しか無い提案をさも告白の様に伝えてきたわけだ。
———1度ぶっ殺してやろうかな。
非モテな男に偽告白とか1番してはならないことだからな。
それに自分の美貌なら俺が簡単に頷くと思ってるその傲慢さが嫌いだね。
まぁ色仕掛けでもされたらぽっくり言ってしまいそうだけど……正直教皇じゃ相手にならないな。
仮に人形に発情するかと問われれば、一部の変態紳士以外はノーと答えるだろう。
つまり、人形みたいな教皇には絶対に靡かないというわけである。
それに加えて俺を殺すように指示したことも視野に入れ———
『———誰がテメェの誘いに乗るか、人間になって出直してこい』
ってキレ気味に中指立てて言ったら……。
「———何で追い出されたんだ……?」
「当たり前に決まってんだろうが」
「いてっ」
真剣に考えを巡らせていた俺の頭にチョップを入れてくる姉御。
その顔には呆れや一周回った尊敬みたいな感情が乗っている気がした。
しかしながら、叩かれた俺としては不満の一言であり、頭を押さえつつ姉御をキッと睨んだ。
「何するんですか、姉御。今真剣に理由を考えてたんですよ?」
「ガキのテメェに煽られてみろ。寧ろ追い出されるだけで済んだ猊下の御心の広さに感謝しやがれってんだ……」
「常人じゃなくても死んでる一撃を受けさせられて、それが意味ないと告げられながらもぶん殴ってない俺の方が心が広いと思います」
「……ま、まぁ確かに……」
自分でも完璧だと諸手を挙げて褒め称えるくらいの返しを受け、痛い所を突かれたとばかりに姉御が渋い顔をして言葉を詰まらせながら、ガシガシと真紅の髪がボサボサになるのも気にせず頭を掻いたかと思えば。
「……悪かった。猊下の命とは言え、ゼロの命を奪おうとしたことは変わらねぇ。謝っても許されないと思うが……この通りだ」
まるであの教皇の分まで謝ろうとしているのかと感じるほどに頭を下げてきた。
こんな生意気しか言ってないガキに、だ。
…………やっぱりこの人姉御だわ。
「や、ああは言ってますけど、別に気にしてないですよ? 初っ端で俺を顔面を陥没させたエレスディアって言う女がいますから」
俺がしみったれた空気を吹き飛ばそうと戯けながら言えば……頭を下げたままだった姉御が顔だけ上げて尋ねてくる。
「………………そのエレスディアってのは喧嘩っ早い性格なのか?」
「そうですね……基本俺が馬鹿した時のストッパー的な? 普通に良い奴ですよ、俺への毒舌はすんげぇ切れ味っすけど。まぁ何が言いたいかと言えば……別に俺は気にしてないってことっす、はい」
「……そうか、ありがとう」
途中で自分でもに何が言いたいのか分からなくなるという頭の悪い奴特有の行動に陥り、半ば強制的にブチ切って話を纏めると……姉御は何処か嬉しそうに笑うのだった。
「———此処が、残りの滞在時間を過ごすお前の部屋だ」
「へぇ……広っ」
姉御に案内されてやって来たのは、アズベルト王国に帰れるまでの2週間を過ごすこととなる俺の部屋だった。
そして今俺が言ったように、ドチャクソ広い。
大凡ほぼ全ての生活の行動がこの部屋1つで収まると言っても全然過言じゃない。
ただ1つ言うとしたら……。
「……キッチンというか厨房っているんです? 俺はもちろんバッチリ料理できるんでアレですけど……偉い人って料理できないんじゃないですか?」
「お前の中の偉い人がどんな印象なのか1度じっくり聞いてみてぇ言葉だな」
「聞きます? 多分理由まで含めたら10分やそこらじゃ終わりませんよ? ついでに言えば途中で必ず話が脱線します」
「なら遠慮する」
「懸命な判断です」
何て本当に意味も中身もないスッカスカな会話をしつつ、丁度良いので気になっていたことを尋ねてみる。
「話は変わるんですけど……教皇の奴が俺を欲する意味って何なんですか?」
正直俺なんか要らないくらいにこの国は強い。
姉御を始め、アウレリアさんとかもめちゃくちゃ強そうな気配がするし……そんな2人より上の存在が居て、更にその上にチート騎士たるカーラさんと同等のバケモノである教皇がいると来た。
だから何度考えても辿り着くのは———『俺、要らんくね?』という疑問。
自分で言うのも何だけど……言うこと聞かないよ?
多分めちゃくちゃなことして迷惑かける気しかしないよ?
何ならおたくらの国どころか世界でも禁忌らしい悪魔と契約しちゃってるよ?
何てソファーの心地良さに酔いしれながら思っていると。
「———あぁ、アタシとアウレリアで推薦したんだ」
「まさかの元凶が目の前にいた……!!」
姉御がなんてこと無い風に暴露した事実に俺は思わず仰け反り、ソファーの裏に身体を隠して頭だけ出す。
ついでに威嚇でもしておこう。フシャーッ!
「……何をしてんだ?」
「威嚇」
「フッ、可愛いな」
「めっちゃ馬鹿にされた気がする」
何処か微笑ましげに見られて気を削がれた俺は大人しくソファーに座り直しながらも責めるように姉御へとジト目を向ける。
こんなことになったせめてもの抵抗だ。
「……何で俺を推薦したんですか」
「この国の利に繋がると思っただけだ」
俺の目から逃れるようにスーッと目をスライドさせつつ端的に述べる姉御。
しかし俺の不満はこの程度じゃ収まらない。
「お陰で大罪人になったんですけど。履歴書とかどうするんですか。出した瞬間一発アウトっすよ」
「テメェは元々大罪を犯しているのは自覚しろ。ただまぁ安心しろ、民達へはお前が来ていることすら知らされていない。仮に噂が流れているっつーなら……ソイツはアタシの手で消してやる」
「こっわ」
笑みでも怒りでもなく真顔というガチ感を憶える表情で自らの拳を握り締める姉御の姿に思わず声が出る。
一瞬ちびるかと思った。
やっぱこの人は姉御って言葉がピッタリだわ……てかやっぱり悪魔と契約するのってアウトなんだね。
『ケケケッ、当たり前だろォが。オレはまだ優しい方だぜェ? 憤怒とか強欲なんかがこの世界に現れた日にァ……一夜で幾つかの国が滅ぶだろうよォ』
『怖いなんてもんじゃねーやん。無差別テロじゃん、予期できないテロとか地震より質悪いって』
中々にえげつないことをスラングから聞いて更にゾッとしていると……バンッと扉が開く音が響き渡ると同時———俺の視界がブレ、頭に衝撃が伝わると共に子供特有の高いキャンキャンとした声が耳朶を揺らした。
「———ゼロ兄! 今日はここで寝て良いだろ!?」
「何で!?」
「えー、だめー? ヘルはゼロ兄とねたーい!」
「ガキ共何回ノックしろっつったら分かんだゴラァ!!」
「「ベアトリックス怖いっ!!」」
元気良く登場したかと思えば対面に居た姉御に結構ガチでブチギレられ、涙目にされながら俺の両脇に抱き着くバルとヘル。
遅れてアウレリアさんが今までのプリーストみたいな服じゃなくて、身体の線が分かる少しキツそうな寝間着と頭に可愛らしいドラゴンが火を吹くイラストが刺繍されたナイトキャップを被って入ってきた。
普通に頭とそれ以外のギャップが凄い。
「申し訳ございません、ゼロ様。御二人がどうしてもと仰るので……それならと私もやって参りました」
「「何がそれならなんだ!?」」
顔を合わせれば合わせるほど駄目な部分が浮き彫りになってくるアウレリアさんに俺達が渾身のツッコミをする中、礼儀を知ったことかと言わんばかりのガキンチョ達がキングサイズを越えるベッドではしゃいでいた。
「うわーっ、俺のベッドよりフカフカ!」
「ヘル、ここすみたーいっ! ゼロ兄、いーい?」
「……お前ら、寝相は?」
「「いい!!」」
「なら良し!」
「「やったーっ!!」」
「おいコラドッタンバッタンすんな! ほこりが舞うだろうが!」
俺は一向にやめようとしない2人を止めるべくベッドに駆け出した。
「———おい、アウレリア」
「本当に可愛いですね、御三方は」
「……あぁ、そうだな」
「ですが止めた方が良いでしょうか?そろそろ彼が———あっ、お怒りになりましたよ」
「…………テメェは見てないで助けてやれよ」
「それは……可愛いので却下、ということで」
訝しげなベアトリックスに、アウレリアはパチっとウィンクをした。
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