【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第88話 聖光国にいたおもしれー男
「ん〜〜っっはぁ……アシュエリ様、早く起き———あぁ、ここ違うやん」
普段通りベッドにもなるソファーから起き上がり、寝坊助筆頭であるアシュエリ様を起こそうとして……自分がキングより大きなベッドで寝ていること、俺の真上をバル、左隣をヘルが占領しているのに気付く。
同時に言い知れない郷愁感が俺の胸を襲った。
……えぇ俺ってたった1日皆んなに会わなかっただけで寂しいとか思う人間なん?
これが俗に言う犬系彼氏……まぁ彼氏でもないし俺が犬系とか絶対キモいからそうは信じたくないけど。
何て自分が寂しがり屋とかいう絶対信じたくない事実に直面して即座に目を逸らそうと右手に力を……入れると共に俺の右手が不思議な温もりに包まれていることに違和感を憶える。
「んん? 何だこ———何してるんですか、アウレリアさん」
「おはようございます、ゼロ様」
俺が右手側に視線を向ければ———眠気など欠片もなさそうなパッチリお目々で此方を眺めるアウレリアさんの顔がドアップで現れた。
そんな彼女からちょっと視線を下に移せば……動かそうと懸命に藻掻く俺の右手を両手で握りつつ胸に抱いているではないか。
そのくせ全く動揺した様子も慌てた様子もなく、堂々と挨拶までしてくる始末。
これには流石の俺も何からツッコめば良いのか分からず、何秒か思考を停止させてしまう。
ただこのままでは埒が明かないので、一旦動揺を心の奥底に封じ込めて口を開く。
「いやおはようじゃなくてですね……どうして俺の手を?」
「逃げるような気配がしましたので」
「何をしてたんです? てか何で俺のベッドに居るんですか?」
「この部屋にベッドは1つしかございませんので、借りさせていただきました。そして御三方の可愛らしい寝顔を眺めておりました、3時間ほど」
一切表情を変えることなく告げられた言葉に俺はギョッと目を見開く。
「3時間!? この状態で3時間!? ちゃんと寝ました!?」
「はい、3時間ほど」
「睡眠の半分を無駄に使い過ぎでは??」
「いえ、睡眠より疲れがとれますので」
「どういう身体してんすか……」
真顔でさも当たり前かのように言ってくるアウレリアさんの姿に俺は早々に匙を投げて、上に乗っているバル(7歳、寝相クソ悪い)を引き剥がすべく右手を……右手を……っ!!
「だぁあああああ離してくれません!? 俺は起きたいんですよ! 上にバルが乗ってるから重いし!」
やろうと思えば左手だけで持ち上げられるのは持ち上げられるが……その左手は現在ヘルの抱き枕と化しているので使用できない。
しかも面倒なことに結構キツめに抱き締められているので、右手を使って引き剥がすしかないのだ。
そのため俺が小声で懇願してみるも……アウレリアさんは眉を八の字にして悲しそうにするばかり。
「ですが癒しが……あと1時間ほど我慢は出来ませんか?」
「1時間ガン見されながら寝ろと?」
「はい」
「「…………」」
交渉は決裂。
俺は必死に右手を彼女の束縛から抜け出させるべく力を籠め、アウレリアさんはそんな俺の動きをさらなる束縛で対抗する。
傍から見れば、良い年した女性と青年が朝っぱらから超絶真剣な表情で火花を散らしながら格闘をしている不可思議な光景が広がっていることだろう。
しかしながら、当の本人である俺達……特に俺からすればそんな周りの目など気にしている余裕はない。
「早く離れてくださいよ……! こんな姿を見られたら結構ヤバいって知ってます!? 俺って一応もう大人なんですけど!?」
何て建前を述べているが……もちろん本音は別にある。
朝イチから非常に下の話で申し訳ないが———もう俺のゼロ君がマズイことになっているのだ。
いや言い訳というか、今回ばっかりは仕方ないと思うんだよ。
だって俺の右手が常時アウレリアさんの大変素晴らしい至福のおっぱいに埋まってるんだぜ?
しかも身体の線が出るくらいにキツそうな寝間着だから、その分谷間っていう魅惑の領域が見えて目に毒だし、感触も……多分この人ブラしてないんだもん。
この状態で『この国に残ってください』何て切実に言われた日には、思わず頷いてしまいそう。
しかしアウレリアさんは、そんな俺の心配というか窮地を一切気付いた様子なく俺の本音を字面通りに捉えたらしい。
彼女は普段の少し垂れ目でぼーっとした様子から一変し、何処かキリッとした目付きになると。
「安心してください、此処は代行者以外の人間が立ち入ることは出来ませんので」
「…………あ、そうすか」
などと的外れなことを宣いつつ、なので安心して寝れますよと言わんばかりに手に力を籠めてくるので……何か色々と面倒になった俺は抜け出すのを諦める。
何ならヘルとバルが起きるのを待つべく、天井のシミでも数えていようと覚悟した時だった。
「———ミス・アウレぇぇぇぇリアっっ!! 僕という者が居ながら、何故別の男の部屋で寝てる……………ほわっ……?」
もう何度目かになるかも覚えてないくらいに頻繁に起きる唐突な扉の開放と共に、青髪の美青年がとんでもなく五月蝿い大声量で現れた。
ただ無の表情で視線だけを美青年に向ける俺と、そんな俺の腕を抱き込むアウレリアさんの姿を見たらしいく、先程までの声量は何処に行ったのかと思うほどに震えた困惑の声を漏らすではないか。
「…………アウレリアさん、俺は貴女を恨みますからね」
「……御安心を。私が今直ぐ処理させていただきます」
「ま、待ってくれないかっ、ミス・アウレリア!! 僕は決してごみなどでは———ぐぺっ!?」
アウレリアさんに顔面を陥没させられた美青年の姿を見て、俺は大きな……本当に大きなため息を吐くと。
「…………寝るか」
こんなにも五月蝿いにも関わらず全く起きる気配のないバルとヘルと共に睡眠へ移行するのだった。
「———それで……彼は何方さんですか?」
俺は流石に五月蝿すぎて起床したバルとヘルを片方ずつの手で抱えつつ、一頻り説教(物理)が終わったらしいアウレリアさんに尋ねる。
そんな俺の視線の先には、もはや先程までの美青年の姿は何処に行ったと言わんばかりに顔面をボコボコにされた元美青年が正座で座っており……アウレリアさんが仕方ないとばかりにため息を吐いて口を開く。
「彼は———」
「———僕の名はクライス! 序列8位、『万剣』クライス・エデュバンスとはこの僕のことさっ!!」
アウレリアさんの言葉を遮って、元気に立ち上がった元美青年……もといクライスがツヤツヤな青髪をファサァァァァと靡かせて宣う。
…………キャラ濃いやつ来たなぁ……大人になるまでこのキャラを貫けるのは一種の才能だよなぁ……。
アニメとか漫画でしか見たこと無いキャラが目の前に現れると、驚くとかより先に感心が来るらしい。
嫌とか五月蝿いとか凄いとかより、何歳かは知らないが……十何年から二十年ちょいの間をずっとこのキャラで駆け抜けてきたことに素直に称賛を送りたい。
「どもども初めまして、クライス。俺の名はゼロ。アズベルト王国の救国の英雄にして『不滅者』ゼロとは俺のことです」
俺が挨拶を兼ねて手を差し出せば……俺の手を握ると同時に身体を舐め回すように見つめたかと思えば満足げに頷く。
「おおおおお……君がゼロか! ふむふむ……うん、素晴らしいっ! 素晴らしい肉体美だねっ! それに君は大切な女性を助けるために悪魔と契約したと言うじゃないかっ! 僕は滂沱の涙を流して感動したよ。だからこそ、この僕のライバルに相応しいっ!」
「ライバルはもう他にいるんで遠慮します」
「なら第2のライバルにどうかなっ!?」
キラッキラな笑みを浮かべて詰め寄ってくるのだが……クライスには悪いけど顔面がパンパンに腫れててギリ怖いが勝つ。
「ライバルはヤだけど、友達なら良いっすよ」
「そうかそうか……なら僕と君は友達———ってちがぁぁぁぁぁうっ!! ゼロ、君はミス・アウレリアと一夜を過ごしたみたいだなっ!? つい先程僕はこの目で確かに見たぞっ!」
綺麗なノリツッコミと共に俺をビシィィィィと指差して糾弾するクライス。
多分俺と同等かそれ以上にその場のテンションで生きてる馬鹿と見た。
そして馬鹿にはすっとぼけるのが1番なのも、俺で実習済みだ。
「何のことですかね? あと一夜を過ごしたは卑猥に聞こえるので止めてください」
「え、何もシてないのかっ?」
「え、何もシてないっすけど」
キョトンとした様子で首を傾げるクライスに、俺もキョトンとした様子で首を傾げ返せば———彼はうんうんと何かを察した様に頷いて告げた。
「なるほど、君は童て———ぶきゃっ!?」
「口を慎みなさい、クライス。バル様とヘル様の教育によくありませんし、ゼロ様に失礼でしょう?」
「待って、何か飛び火食らったんですけど」
言葉の途中で、今までとは比べ物にならないくらいにキレッキレのアウレリアさんによってバルコニーを突き抜けお外までふっ飛ばされるクライスと、何故か外角からの急カーブで飛び火を食らう俺。
ひっそりと心の中で泣きながら、クライスに付いて冷めた目で見つめる2人に尋ねてみた。
「……クライスっていつもあんなの?」
「そーだよ。クライスはいつもアウレリアにきゅーこんしてなぐられてる」
「ゼロ兄、アイツは気にしちゃ駄目だよ。そういう人間なんだ」
「そ、そうか……」
俺は2人の非常にドライな評価に顔を引き攣らせつつ、俺とかフェイとは気が合いそうだなぁ……とか思ったことは一生心に封印しておこうと誓った。
ん、普段の俺に似てるって?
うわー何か外野がやかましいな、ぶん殴るぞ。
それとアウレリアさん、教育は既に失敗してると思います。
今後からの行動を気を付けようと思った朝だった。
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作者が書きやすくて好きな奴
↓
ゼロ、フェイ、ザーグ、クライス(NEW!)
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