【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第93話 禁忌の薬
「———悪魔に支配された大罪人よ! 貴様は我ら神官騎士が断罪する!!」
「「「「「「「「大罪人を断罪せよ!!」」」」」」」」
俺達が隠し通路から袋小路に出た瞬間———全身を純白一色に染め上げた鎧に身を包んだ何十もの騎士達が待ち構えている光景が視界に飛び込んできた。
しかも全身を無駄に神々しいオーラで包み込んでいるものの、何処か正気を失っているように見える。
「……なるほどな、簡単には向かわせないってわけだ」
『ケケケッ、しかも魔法で扇動されてるみたいだぜェ?』
「……クズ野郎が」
目の前の騎士達に罪はない。
どうせ彼らには教皇の悪行なんざ1つも知らされてないことだろう。
自分の意志で向かってくるならいざ知らず、こうして半ば洗脳に近い状態で来られるのは、此方としても心に来るし躊躇いもする。
ただ———あくまでそれは通常時の話だ。
「———悪いな、こんな所で止まってられねぇんだわ」
俺は意識を切り替えつつ駆け出すと同時に【極限強化】を発動。
俺の身体から無秩序に噴き出した白銀のオーラが疾走する俺の全身の線を沿うように包み込み、あるタイミングを境に飛躍的に身体能力が向上する。
すっかりこの魔法も身体に馴染んだモンだ、と昔の激痛に耐えていた頃を思い出して1度鼻を鳴らした後、腰に差した鞘に収まった剣を鞘ごと腰から引き抜きながら1番前に居た隊長みたいな男に肉薄し———
「わざわざ真正面から来るとは愚かな奴め! 我が破邪の剣の前にひれ伏———」
「なげぇ」
———斬ッッ!!
身体の前で勢い良く剣を鞘から引き抜くと共に、馬鹿みたいにハルバードに魔力を溜め始めた男の首を一瞬で刈り取る。
あまりの速度に名も知らぬ男の首が宙を舞い、支えるものがなくなった首から大量の鮮血が噴水のように噴き出して血の雨を降らせるのだった。
誰もが視線を数瞬前まで生きていた男に向ける。
宙に舞う頭を呆然と眺めている。
その間に———俺は顔色を一切変えることなく淡々と歩を進める。
1人、2人、3人、4人……数など直ぐに両手を超えた。
俺が駆け抜けた後に残るのは、頭を未だ宙に飛ばしている男と同じ首無しの死体と死を象徴するかのような真っ赤な血。
そして、力を失って崩れ落ちる金属と死体の生々しい音。
「な、何だ……何なんだッッ!? 神の御加護を得た我ら神官騎士を殺せ———ギャッ!?」
「お、落ち着け! しっかり見てれば動きは追え———ルッッ!?」
斬って。
斬って。
斬って。
斬って。
どんな攻撃をされても避けないし、避ける必要もない。
全て身体1つで受け止めてやる。
———アイツは今までずっと受け止めて耐えてきたのだから。
これは今まで気付かなかった俺への罰でもある。
彼女の心の傷を知らずにのうのうと生きていた俺なりの罪滅ぼしでもある。
「……何が相棒だよ、何も知らねぇくせに……」
ギリッと唇を噛む。
自分の馬鹿さ加減に嫌気が差す。
だが、反省も自己嫌悪も全部終わった後だ。
今はただ単純作業のように剣を振るうだけ。
そこに感情は要らない。
この燃え上がる憤怒の感情をぶつけるのは、コイツらじゃない。
だからそれまでは———少しだけ、昔の仮面を被らせて貰おう。
そう俺は再び次の騎士へ剣を振るう———
「———一撃、ですか」
突如後ろから声がした。
誰に向けられた言葉か分からないが……誰が発した言葉なのかは分かった。
俺は剣を握る手に力が籠もるのを自覚しつつ、迫りくる騎士を斬り伏せてゆっくりと振り返ると。
「……ノーマン」
俺を宴会会場へ案内し、教皇と共に姿を消した唯一の代行者であり———漆黒の長髪を後ろで纏めた中性的な顔立ちの青年が俺が斬り捨てた死体に触れていた。
青年は俺から呼ばれると、死体に触れるのを止めて立ち上がり、頭を下げる。
「これはゼロ様、先程振りでございます」
「嘘つけ。テメェは最初から俺と会ってねぇだろ」
「流石猊下がお目にかける御方。気付いておりましたか」
バレていたと告げたと言うのに一切驚いた姿を見せないどころか余裕綽々な彼の様子に俺は眉を潜めるが……直ぐに考えを放棄した。
彼が教皇の味方であることは明白だ。
ならば俺がすることは、殺すことのみ。
これ以上の会話は不要と判断し、刹那の内に両者の間に空いた距離を詰め———剣を首目掛けて薙ぐ。
———ガキンッッ!!
「なッ……!?」
俺が薙いだ剣はノーマンに到達することなく、横から割り込まれたハルバードによって食い止められてしまった。
これに思わず目を見開く俺だったが、俺の剣を止めた者を見て更に瞠目した。
なぜなら———。
「お、お前……」
「大罪人如きがノーマン様に触れルコトハ許サンゾォオオオオオオ!!」
———俺が1番最初に首を斬ったはずの隊長のような男だったからだ。
しかも斬り飛ばしたはずの首はしっかり首に繋がっているではないか。
まるでそう———。
「……生き返った……?」
「その通りです。これが1度限りの蘇生が可能となる神薬———【灰蘇】の効能です」
そう言ってノーマンがどこからとも無く取り出したのは、何やら綺羅びやかな装飾がなされた小瓶に入った真っ赤な液体。
一見するとただの液体だが、その液体からは膨大な魔力が感じられた。
「……嘘じゃないみたいだな」
「もちろんです。これも———彼女を調べる上で出来た副産物ですね」
…………。
———ガキンッッ!!
無言で斬り掛かった俺だったが、又もやハルバードに阻まれる。
最初に殺したより速く力強い一撃だったにも関わらず簡単に止められたのを鑑みるに……どうやらただ蘇っただけでなく身体能力が向上しているみたいだ。
俺は一先ず騎士の居ない隠し通路の入口まで飛び退く。
「チッ……」
「ゼロ様、危ないではないですか。そんなにお気に障りましたか?」
「テメェ……よく俺の前でそんな自慢げに話せるな。そんなにぶっ殺されたいならぶっ殺してやる」
「その前に彼らが相手をしてくださいますよ」
薄ら笑みを浮かべたノーマンが宣うと同時。
隊長らしき男が飛び掛かってきて、その後ろでまるで操り人形のように不気味な動きで起き上がる、俺が殺したはずの騎士達。
そして起き上がった騎士達も同じように遥かに向上した身体能力を駆使して逃げ場のない俺へと襲い掛かってくる。
俺は苦々しく顔を歪めながら【極限強化】の出力を上げて応戦しつつ、俺の中にいる悪魔へと問い掛けた。
『クソッ……おいスラング、これはどうなってんだ? あの薬って何なんだよ』
『ケケケッ、とんでもねェ失敗作だ。アレは生物に使って良いモンじゃねェ』
『失敗作?』
『ああ。アレは確かに蘇るが……魂が燃え尽きるまで暴れ回るバケモンに変身させるバケモン製造薬だなァ。本来魂が消滅して生き返れるのは不死鳥と神、後は悪魔くらいだから……人間程度の魂で耐えきれねェんだよ。ケケケッ、よく見てみろ———』
「———ガアアアアアアアアアアアッ!!?!」
スラングが言うと時を同じくして、絶叫が耳に響く。
チラッと見れば、吹き飛ばした男の全身から炎が巻き上がっていた。
『魂が暴走を起こしてんだよ。アイツの命は持って数時間だなァ』
……なんつー薬を開発したんだよ。
こんなの神薬でもなんでもないじゃねぇか。
何て俺が胸糞悪さに顔を顰めていると。
「———シネェエエエエエタイザイニンンンンンッッ!!」
「!?」
片言の言葉が気にならないほどの速度で炎上した男が俺の懐に入ってきた。
しかもハルバードが既に俺の心臓目掛けて撃ち出されている。
俺は流石にマズイと回避を取ろうとして———自分の身体が動かないことに気付いて大きく目を見開くと共に、ノーマンが相変わらずの薄ら笑みを浮かべたままボソッと呟くのが聞こえた。
「———【影の呪縛】」
「……くそったれ」
今抜け出しても逃げられないと悟った俺は、迫りくるハルバードの切っ先が心臓を貫くのを想像して痛みに耐える準備に入———
「【破壊の刺突】」
———ズドンッッ!!
ポツリと呟かれた言葉と共に三叉の槍が目の前を通り過ぎる。
同時に鳴り響く大地を揺らす轟音と、縛られていなければ吹き飛ばされていたくらいの一陣の風の猛威。
目の前にあったはずのハルバードと炎上した男が一瞬でかき消えたかと思えば……。
真紅の髪をたなびかせ、髪と同じ色の瞳と額の第3の目に憤怒を宿しつつ全身から紅蓮の神気を燃え上がらせた美女———姉御が現れる。
「大丈夫か?」
「まぁ……何とか。助かりました」
「フンッ、礼なんか要らねぇ」
姉御は無傷な俺を一瞥すると。
「———よくもアタシの部下を捨て駒にしやがって……殺られる覚悟は出来てんだろうなぁッ!!」
何処からともなく現れた三叉槍を握り、切っ先をノーマンへ向けた。
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