【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第103話 ゼロ(途中からエレスディアside)
「———それは無理だよ」
そう、俺の願いをにべもなく断る性悪女神。
一瞬ネタかと思ったが、その真剣な表情から嘘でも冗談でもないことを悟った。
「……何で無理なんだ? 相手は神で、俺は悪魔に体を乗っ取られてんだぞ?」
「相手は厳密に言えば神じゃないよ。ただ、神の力を使う常人だね。それに、悪魔に身体を乗っ取られるなんて……契約した時から覚悟はしていたんだろう?」
ぐうの音も出ないド正論だ。
幾ら神の力を使うとは言え、その力を扱う教皇が人間なのは、教皇が不死を望んでいる節から見て取れる。
そして悪魔に関しては、契約の時に必死に耐えてみろ的なことをスラングに言われたことは覚えているので、更に何も言えない。
だが———。
「……ケチクサッ」
「け、ケチくさい!? き、君は話を聞いていたのかな!? その話を聞いてケチくさいなんて言葉がよく出てくるね!?」
「や、どう考えてもケチくさいだろ。どうせ俺がこんな人生を歩んでるのだって、大まかにはお前が操作してそうじゃん。それで俺1人に全任せにしてるくせに、いざ頼ってみれば断るとかどう考えてもケチくさいだろ。流石性悪女神、スラングより屑ですね」
「き、君は誰に向かって言っているのか分かっているのかな……?」
何て、ピクピクと顔を痙攣させつつ、苛立ちを必死に抑えようとしている声色で尋ねてくる性悪女神に、俺はキッパリと告げた。
「———性悪鬼畜女神」
「君には天罰を与えようかな」
怒りの頂点に達したのか、幼女の見た目ながら恐ろしい黒い笑みを浮かべつつ、神力を手に纏わせる性悪鬼畜女神。
その姿に俺が咄嗟に距離を取ると、彼女は小さくため息を吐いた。
「はぁ……君には分からないかもしれないけど、私はこの世界で結構重要な位に就いているんだよ。それに神と悪魔はある契約の下に下手に下界に接触しないように定められているんだ。だから、幾ら私が目に掛ける君であっても、契約することは絶対に出来ない。これは誰であろうと、私は同じ答えを告げるだろうね。まぁ君以外にこの場所に来たことのある人間は居ないんだけど」
何て少し困った表情で苦笑する性悪女神。
長くて全部聞くのがちょっと億劫になったものの、纏めれば、何だか神は神で色々と面倒なしがらみがあるらしい。
———だが、それはスラングの話を聞いていて何となく分かっていた。
先程の提案だって、駄目元で聞いてみたに過ぎない。
「……なぁ」
「ん? 何度言われても答えはノーだからね?」
「や、それはもうどうでもいいや。てかお前と契約はしたくない」
「き、君は本当に私に対して失礼が過ぎるんじゃないかな……!?」
俺が真顔で言えば、心底驚いた様子で面食らった性悪女神が何か宣っているが、それはお前の自業自得だと声を大にして言いたい。
今までの言動からお前と契約したいと思う奴はこの世に中々居ないと思う。
何て冗談を最後に、ストレス発散のはけ口にするのはそろそろやめるとしよう。
「いやさ、お前って俺よりも強いのかなって思ってさ。だってその姿だぞ?」
そう俺がジトーっと胡散臭げな目を向ければ……お子様体型というか完全に見た目お子様な性悪女神がフッと俺の言葉を鼻で笑った。
「そりゃ強いよ。だって私はこの世界の神様だよ? この世の全ての魔法、武術を高レベルでマスターしているに決まって———」
「———なら、俺が【高次元化】を習得できるまで、俺を鍛えてくれ」
「———…………は?」
ポカン、と口を半開きにして俺を見つめる性悪女神。
どうやらよっぽど俺の頼みが想定外だったらしく、何とも無様な間抜け面を晒している。
そんな彼女に畳み掛けるように俺は捲し立てる。
「だってこの空間はお前が自由に時間を操作できるんだろ? 精◯と時の部屋をリアルに出来る……いやそれ以上の物を創るのだって不可能じゃないはずだよな? それこそ何分、何時間、何日、何年居ようと……俺の魂がこの空間に来た数瞬後に戻れる空間とかさ。最初に言っとくと俺は天才じゃないから習得が遅い。特にこういった行き当たりばったりで解決出来ない魔法となったら尚更な。よって膨大な時間を注ぎ込まないと習得できないと見てる」
「…………本気なのかな? 君が高次元化を使えば……」
一通り言い終えた俺に、性悪女神が尋ねてくる。
だが、その表情は普段の俺を煽ったり馬鹿にしたりするようなモノではなく、何処か俺を心配するような、俺の身を案じるような……そんな表情だった。
そんな彼女の珍しい姿に俺もびっくりしてしまう。
「え、珍しっ。お前にも人を案じるって感情があったんだな。いや神にそもそも感情があるのか知らんけど」
「私が折角……っ、はぁぁぁぁぁ……もう良いよ、君はそんな奴だもんね。そんなだから、私は君を目に掛けてるんだ」
何て女神がクソでかため息と共に小さく笑みを零したのち———スッと表情を消したかと思えば、同時にズンッ……と俺の全身に圧力が掛かる。
耐え難い、魂が軋む音が俺の耳に聞こえた気がした。
「ぐっ……」
「【高次元化】は、一種の魂の覚醒のことを言うんだ。だから高次元化を使いたいなら、魂を極限までいじめてやれば良いんだよ」
「……そのイジメるって表現やめれるか? 何か俺がドMになったみたいで嫌なんですけど……」
俺が冷や汗が終始流れる中そう言えば、性悪女神がコテンと首を傾げた。
「君は既にドMだから手遅れだと思うよ? 何度も死にかけて心が折れないなんて生粋のドMだよ。ほら、そんなのどうでもいいから動いてみるといい」
「……い、言い方悪いな、おい……く、クソッ、全然動かねぇ……」
必死に身体を動かそうと力を籠めるも、ピクリとも動いてくれない。
だが、その様子を見て女神が何故かホッと安堵の息を吐いた。
「ふぅ……危ない危ない。魂が剥き出しの君に1発で動かれたら、私のメンツが丸潰れになるだったよ……流石の君でもまだ動けないみたいだね。これが、魂の格の差という概念。下位の者が上位の者にあてられて本能的に恐怖を抱く1番の理由。まずはこれを克服するところからやろう」
そう言って更に圧力を倍増させる性悪女神へ。
「———一瞬で克服してやんよ……!!」
俺は、底知れぬ恐怖を飲み込み———ニヤッと気丈な笑みを浮かべた。
———私の目の前では、もはや戦いとは呼べないナニカが広がっていた。
「……つまんねェなァ。テメェはウチの契約者の足元にも及ばねェ」
全身が漆黒に染まった悪魔が、教皇の数々の攻撃を完封しつつ、心底つまらなさそうに漆黒の剣を振るう。
それだけで辺りの音をかき消し、地面を抉り取り、空気を斬り裂き、確実に教皇の命を刈り取る。
だが、教皇はどれだけ斬られようと、まるで何もなかったかのように復活して殺気の籠もった充血した目で悪魔を睨みながら攻撃を続ける。
「っ、巫山戯るな……!! 所詮人の身体を借りている分際で調子に乗るでない……ッッ!!」
「ケケケッ、どの口がいってんだか。奪った力でしか調子に乗れねェ奴に言われたくねェなァ」
片や、ゼロの身体をまるで自分の物かのように自由自在に使い熟して教皇を弄び。
片や、数々の人間の魂を食らって手に入れた強力な力を持ちながら振り回されて。
実力差は、誰が見ても明らかだった。
私達をまるで赤子の手をひねるかの如く翻弄していた教皇が、今や悪魔に良いように弄ばれて感情を剥き出しにしている。
だが、私にはそんなことはどうでも良かった。
「……ゼロ……」
私の最愛の人。
私がこの命を賭しても護ると決めた人。
彼が今、彼の身体に閉じ込められている。
ここに居るのに、居ない。
何も出来なくて、もどかしい。
何も出来なくて、情けない。
いつもいつも口だけの自分が心底嫌になる。
あんな啖呵を切っておきながら、傍観しか出来ない自分に嫌悪感が湧き上がる。
現実は———私の力不足を無情に突き付けてくる。
あの戦いの中に入れば、私は何も出来ず死ぬだけ。
手助けどころか足手まといにしかならない。
強くなったと思っても、いつも越えられ———。
「……!?」
私はほんの一瞬、ほんの一瞬だが、確かに見た。
———漆黒に染まり切った身体に光った白銀の輝きを。
その輝きを見た瞬間、私の中で何かが燃え上がった。
力の差?
死の恐怖?
足手まとい?
———知ったことか。
例えどれだけ力の差があっても。
例えどれだけ死の恐怖に身体が竦んでも。
例えどれだけ足手まといになろうとも。
———絶対諦めたりなんかしてやるものか。
「え、エレスディア……!? お、お前……」
姉さんが私を驚愕に染まった表情で見つめてくる。
嘗て私を救ってくれた私のもう1人の英雄。
私のためにこの国に居残り続けた最愛の家族。
彼女が居なければ、今の私は居ない。
そんな、私のために自らの人生を賭けてくれた姉さんは、私の表情を見て、何かを悟ったかのように小さくため息を吐いた。
「……ハッ、お前がそうしたいなら勝手にしろ。アタシは止めねぇよ」
「ありがとう、姉さん」
私はグッと真紅の剣を握る。
同時———眩い光を放ち、灼熱の、生命を司る炎が燃え滾る。
「……ふぅ……」
私は小さく息を吐き、剣を上段に構えると。
「いつまで寝てるのよ——————ゼロ」
全身全霊、残った全魔力を使って【一刀両断】を発動した。
時間にして一瞬。
刹那にも満たぬ時間の中で。
轟音が鳴り響き、炎の奔流を伴う斬撃が一直線に教皇と悪魔の間を割り、誰もが呆気に取られる中。
「———【高次元化】」
そんな、私が何よりも聞きたかった声が聞こえた———。
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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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