【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第104話 本当に君は……(途中まで女神side)
———時間は少し遡り。
「…………し、死んだ方がマシだろガチで……」
「なら死んでみる?」
「……出来ることなら、ね」
私の前で死人より顔を真っ青にしたゼロが、大の字に倒れたまま掠れ気味に呟く。
普段から飄々としている彼にしては珍しく、冗談抜きで言ってそうだった。
「がぁぁぁ……しんど……」
だが、数多の人間を見てきた私からすれば……ここまで持っていることが奇跡としか言いようがない。
確かに【無限再生】の副次効果で多少精神面が強くなるのだが、その効果もゼロの前世の世界で例えるなら……総資産数十億の大富豪が1000円を拾ったレベルでしかない。
正しく気休め程度の効果しかないはずなのだが……。
「なぁ……俺って何回ミスった?」
「どうだろうね? 仮に教えたら君が病んでしまいそうだけど……大丈夫かな?」
「遠慮しておきます」
私の脅しに即座に前言を撤回させたゼロは、のそっと上半身だけ起こし、地面に胡座をかいて座ると。
「いやぁ……【高次元化】ってあんなに難しいんだな。もちろん嘗めてた覚えはないんだけどさ、普通に意味分からんわ。カーラさんってあんなの常時使ってたのマジか」
そう何処か達観したように、はたまた羨望するように言葉を吐くが、それには私も激しく同意する。
「彼女は神の私からしても異常な存在だよ。今後数百年経っても、彼女以上の才能の者は現れない———はずなんだけどね……」
まぁ私からすれば、ゼロ以上に不気味で意味が分からなくて面白い人間はこの世に存在しないが、それは彼には言わないでおこう。
「え、カーラさん並の才能のヤツが他にもいんの? ……あー、もしかしてエレスディアとか?」
「そうだよ、君の彼女さん」
「…………お前、あれ見てたの?」
私が揶揄うように言えば、幾ばくかの時間を置いたのちに顔を背けながら問い掛けてくる。
彼の頬は過去類を見ないくらい真っ赤に染まっていた。
「もちろん見ていたに決まってるよ。見てないと君の呼び掛けに応じてこの空間に送ることは出来なかっただろう?」
「……そりゃそうよな……まぁ分かってたけど」
何て年相応に恥ずかしがるゼロだったが……スッと顔付きが変わる。
「さて、と……休憩はこんくらいにして、そろそろ行くか。外の状況は?」
「殆ど変わっていないよ。あの悪魔が一方的な戦闘を繰り広げてるね」
「よし、何とか間に合ったか」
「間に合ったんじゃなくて、私が間に合うようにしたんだよ。少しは感謝してくれても良いんだよ?」
別に肉体はないのに身体をほぐすゼロに、私がいたずらっぽい笑みを浮かべて冗談半分に言ってみると。
「めちゃくちゃ感謝してるよ、ありがとう」
そう穏やかな笑みと共に言ってきたではないか。
これには神である私にも想定外で、思わず呆気に取られてしまうが……彼に情けない姿を見せるのも癪なので直ぐに笑みを浮かべ直した。
「……まぁ、分かってるなら良いよ。神は寛大だからね」
「……寛大? ちょっと寛大の意味を辞書で引いた方が良いと思うぞ。俺のオススメは日本で売られてる———」
「もしかしなくても君って私のことを尊敬していないよね」
私が魂を肉体に戻す準備をしながらジト目を向ければ、彼は何も言うことなかったが、何のことやらと言わんばかりに肩を竦めた。
……本当にこの人間は分からないな。
というか、恐怖を克服したせいで余計に私への態度が悪くなっているような……いやそれ以上は考えないでおこう。
私はゆるく頭を振って思考を飛ばすと、魂を返すためのゲートを空間に現出させて彼に声を掛ける。
「ほら、準備は終わったからさっさと行きなよ。もうここに来ちゃダメだよ?」
「りょーかい。これが終わったら、今度こそ適当に遊んで暮らすわ」
その願望が叶うといいね。
「それじゃあ行ってくる。精々頑張るとするよ」
「まぁ私がこれだけ付き合ってあげたんだから頑張って貰わないと困るよ」
「最後くらい素直に送り出せよな……だから性悪女神って言われるんだよ」
何て毒づいていたゼロはゲートの前で私の方を向くと。
「ほんとありがとう———ヘレン」
それだけ言い残してゲートの中に消えていった。
「…………全く……君は最後まで分からない人間だよ」
私は上がりそうになる口角を抑えつつそう呟くと、崩壊していく空間を眺めながら考えに耽る。
きっと彼はあの世界に戻り、無事やるべきことを成し遂げるだろう。
そして愛する人と結ばれ……色々な修羅場にも巻き込まれるだろう。
誰もが彼の行いを称賛し、世界中が彼を褒め称えるだろう。
しかし、誰もその過程を知ることはない。
誰も彼の努力を知ることはない。
なぜならゼロ———彼自身すら過程を詳しく話せないから。
だから、私だけが彼の努力を知っていることになる。
才能はこれっぽっちもない彼が、名だたる天才ですら到達できなかった肉体強化の最高地点———【高次元化】を習得する過程。
「…………凄い人間だね、ゼロは……。本当に、恐れ入ったよ……」
———この空間にいた25年の間に、計1万8405回死にかけた君へ祝福があらんことを。
「———ごめん、今起きた」
「全く……いつもいつも遅いのよ……。まぁでも———」
俺が魔力切れによって地面に倒れそうになったエレスディアをそっと抱き抱えて言えば、真っ青な顔色のエレスディアが少し力なくも何処か呆れたような表情で文句を言ってくる。
だが、直ぐに安堵にふっと顔を綻ばせると。
「———またいつもみたいに無茶してきたんでしょ? 色々と言いたいことはあるけれど……本当に良く頑張ったわね、ゼロ」
そう言って、何も知らないはずなのに、まるですべて知っているかのように、俺を労うかの如く俺の背中に手を回してくる。
まさかの言葉に俺は一瞬驚くものの……一気に気が抜けてへらりと笑みを零した。
「へへっ、ありがとうな。お前に言われると嬉しいわ」
「……後で幾らでも言ってあげるわよ」
「おっ、めっちゃ楽しみにしとく」
だから今は寝とけ、と俺が優しく言えば……エレスディアは少し葛藤したのち。
「今は貴方の足手まといだから、大人しく寝ててあげるわ。じゃあ、また後でね」
「おうよ、また後でな」
悔しさの孕んだ声色で告げながらもゆっくり瞼を閉じた。
直ぐに規則正しい寝息が聞こえてくる辺り、相当な無茶をして剣技を発動してくれたらしい。
更には、不死鳥の力を持っているにも関わらず、彼女は非常に弱々しい様子を晒しているので、恐らくほんの一瞬だけ【高次元化】の世界に指先を突っ込んだのかもしれない。
「……天才はやっぱりレベルが違うんだなぁ……」
俺が物凄い時間を掛けて辿り着いた場所に、僅かな時間で手が届いてしまう。
これこそ才能の差と言わんばかりに。
何て、歴然な才能の差に俺はそう小さく呟きつつ、慌てて駆け寄ってきた姉御にエレスディアを預ける。
「姉御、エレスディアを頼みます」
「あ、あぁ……」
何処か心ここにあらずと言った感じで生返事をした姉御が、俺の姿を見て呆然と。
「———お、お前……その姿は……?」
そう零した姉御に、俺は苦笑交じりに答えた。
「まぁ……一言で言えば、努力の結晶ってヤツですよ」
「努力……? だが、今のお前は……」
姉御が明らかに動揺した様子で何かを言おうとしたその時。
「———貴様……今、何をした……?」
ドロリと纏わり付く、非常に気持ちの悪い殺気の籠もった言葉が投げ掛けられる。
もちろん相手は1人しか居ない。
「全く……人との話には割り込まないって教わらなかったのかよ。何百年も生きてんのにマナーがなって無さ過ぎじゃね?」
そう、教皇だ。
身体こそ無傷だが、背後にある機械仕掛けの時計には至る所にヒビが入り、当初の余裕を張り付けた仮面は剥がれ、その人間離れした美貌は濃密な憎悪や殺気によって歪んでいた。
だが、不思議なことに既に彼女からは何の恐怖も湧かない。
寧ろ湧いてくるのは———
「……こんな奴に、今まで良い様にされてたんだな、俺。……なっさけねー」
———良い様に扱われていた自分への怒りだった。
しかし、彼女にはそれが酷く癪だったのだろう。
ギリッと奥歯が潰れるほどに歯噛みして顔を歪めると、全身から膨大な神力を放出させた。
それだけで地面が揺れ、空気が揺れ、空間が揺れる。
「ふ、巫山戯るな……!! 貴様、あの悪魔ではないであろう……!? だが、不滅者にしては強すぎる……。———貴様は一体何者なのだ……ッッ!!」
何者か……ね。
俺は小さく息を吐くと———彼女を真似るように全身から白銀の神力と漆黒の魔力を放出させた。
地面が揺れると共にヒビ割れて巻き上げられ、神力と魔力の衝突に耐えきれないとばかりに空間が軋む。
そんな中、驚愕に目を見開く教皇に告げる。
「別に何者なんて聞かれるほど大層なもんじゃないって。俺は俺、名前はゼロで、色んな人に心配かけながら生きてる、ただの人間だよ。……でも強いて言うなら———」
……そうだな、今の俺に似合う言葉はきっとこれしかない。
「———テメェに最後をくれてやる者だ」
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