【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第106話 微睡みに導かれて俺は。
ッスーー、えー……いつも以上に遅くなって申し訳ありません。
普通に書籍作業が忙しすぎて、カクヨム自体が全然投稿出来てませんでした。
これからも忙しいので遅いと思いますが、どうぞ今後ともよろしくお願いします。
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「———フフフ、クフフフフハハハハハハ!!」
先程までとは一変して、危険ドラッグを使用したかのように高笑いをする教皇。
だが、前世の危険ドラッグが児戯に等しいと感じる程……それこそスラングが忌諱するくらいの失敗作たる神薬を飲んだのだから当たり前とも言えた。
「うわあ……こいつマジか……自分で死ににいったよ……」
『ケケケッ、無様な奴だ』
そうドン引きする俺の視線の先には、身体から炎が出ることはないものの、瞳は充血し、顔や腕などの見える部分の素肌には真っ赤に脈動する亀裂が入った教皇がいる。
背後の機械仕掛けの時計は真っ赤な怪しい光を放っており、時計の針は不規則に回っていた。
「お前それ使ってどうすんの? 自分で死にに行くとか馬鹿なんじゃないの?」
『間違いなく、全世界のどんな奴よりもテメェにだけは言われたくねェだろうなァ』
はて、一体何のことやら。
俺にはよく分かりませんね。
何て俺がスラングの言葉に惚けていると。
「フフフフフフ……わ、私には、全てを無かったことに出来る【運命の神々】の力がある……故にワタシハ無敵ナノダ!!」
絶対的自信で溢れた教皇の言葉がカタコトになったと思ったその時。
———グサッ。
突然胸に鋭い痛みを感じた。
何事かと下を向けば……。
「———……は?」
何の変哲もない短剣が俺の胸を貫いていた。
それも刀身が見えないくらい深く突き刺さっており……間違いなく心臓を刺し貫いている。
———が、それはおかしい。
今の俺の身体は、もはやただの武器では傷一つ入れられない強度を誇っている。
なんなら武器が触れたと瞬間に自らに掛かる力でぶっ壊れるほどだ。
更に言えば、俺が飛来する剣に気付かないわけがない。
背後からならまだしも、思いっきり前から突き刺さっているのだから。
にも関わらず、こうして身体に刺さっているということは……。
「……テメェ、俺の未来を弄りやがったな……?」
未来が書き換えられ、『俺の胸に短剣が突き刺さっている』という未来が実現したのだろう。
そんな俺の見立てを肯定するように、教皇は薄ら笑みを浮かべるのだった。
「フフフ……ドンドン行クゾ」
「ちっ……」
俺は胸の短剣を引き抜くと、オーラを籠めて即座に投擲。
短剣は一直線に、目にも止まらぬ速度で腕を広げた教皇へ飛翔するが。
———教皇の寸前で忽然と姿を消した。
ただ、次の瞬間には既に教皇の手の中に収まっており、俺のオーラが教皇の神力で消し飛ばされる所だった。
その短剣の切っ先を教皇が俺に向けた瞬間———直感で俺は横に飛んでいた。
同時に、俺が居た場所に青白い稲妻が落ち、眩い閃光と雷鳴が空間を揺らす。
「ホウ……騙サレナカッタカ」
「おいコラテメェ、俺で遊ぶんじゃねーよ」
喜色を灯して嗤う教皇の姿に俺は僅かな怒りを覚えつつ、一気に距離を詰める。
音が消え、視界が早送りで進む刹那にも満たない時の中で、俺はオーラから生み出した剣を振るった。
「……っ」
が、教皇の姿が俺の速度を越えるレベルで掻き消え、真横から短剣が突き出されたのが視界に映る。
もちろん避けられない速度ではないので、身体を仰け反らせて回避。
直ぐ様地面に手を着いて蹴りを撃ち込んだ。
———ブォンッ!
「フフフ……一体ドコヲ狙ッテイルンダ? 一ツモ当タッテナイゾ?」
「……チッ、めんどくせぇなおい」
再び空振りに終わったことに、俺は顔を顰めつつ小さく舌打ちと共に毒付く。
アウレリアさんの力を遥かに上回る力を得たのか、俺の未来を弄られるようになったことで剣が勝手に消されるだけに飽き足らず……神薬の影響で反射神経も上がったのか、先程までついてこれてなかったはずの俺の攻撃にも完璧に対応してきているときた。
……ほな無理ゲーですがな。
唯一の希望は神薬の効果が切れることなんだが……その前に俺がくたばりそうだ。
実際、今もなおゴリゴリに何かが削られている感覚がある。
『……なぁ、何か策ある?』
『……オレがやっとけばこんなことにはならなかったんだがなァ。テメェが一々拘るからこんなことになったてんだ』
『五月蝿いよ。ないならないって言えよ使えねーな』
『テメェ後で覚えてろよ?』
『はいはい後があったらなー』
俺は使えないスラングを適当に流し……。
『待て待て待て、オレの話を聞け! 誰も方法がないなんざ言ってねェだろがよォ!』
『何だ、あるならそう言えよな。んで、どんな方法?』
『…………奴の『運命の神々』の能力をオレが喰らえば良い。力の集合体として機能してんのが、奴の背後にある時計だ。アレを斬れ。【吸魂】はオレがやってやる。今のオレとテメェならやれる』
俺の問い掛けに、黒魔龍の時と同じようなことを言ってくるスラング。
ただ単に俺の身体を乗っ取るための魔力を入手しようとしているんじゃないか、なんて思わないこともないが……。
『———よし、それで行こうか』
『ケケケッ、乗ってくると思ったぜ』
どうせこの戦いが終われば———『✕✕✕✕』が待ち受けているのだ。
コイツに力を与えてやるのも悪くない。
それに、どうやら俺の身体を奪った時に多くの魔力を消費したみたいだし。
「さて、頑張りますか」
「フフフ、作戦会議ハ終ワッタカ?」
「ご丁寧に待ってくれてあんがとさん。でも———」
俺は教皇との距離を消すと。
「———お前、学習しないよな」
再び創造した灰色の剣で薙ぎ払った。
発動させるは、最速の剣技———【閃剣】。
剣閃が閃き……空間に、教皇の身体に一筋の光の線が走る。
———が、一切の手応えがなかった。
それどころか、逆に俺の全細胞が警鐘を鳴らし始めた。
「【飛燕乱舞】」
時を惜しむように、俺は考える前に即座に剣技を発動した。
同時に俺を中心として全方位に一切の規則性のない灰色の斬撃の嵐が轟く。
それらはあらゆる方向から迫り来る稲妻を尽く消し飛ばした。
「……何をしたのか聞いてもいいか?」
「フフフフ、タダ未来を書キ変エタニ過ギン」
「……くそったれ。俺のマックススピードにも反応できんのかよ……こんのクソチートババアめ……」
俺は少し離れた所に当たり前のように無傷で立っている教皇に吐き捨てつつ、再び教皇に肉薄する。
「速度でダメなら手数でどうよ!」
グッと全身に力を籠めると共に剣技———【牢剣】で、全方位からたった1つの対象物である教皇を剣の嵐で閉じ込める。
ほぼノータイムで教皇の身体を切断しようとする剣の檻の中で……教皇は血走った瞳を見開いてポツリと零した。
「———【雷神ノ猛攻】」
同時———世界が眩い光と炸裂音に包まれる。
光と音が消えた頃には……既に当初の形など1ミリも残っていない、まっさらな平地が広がっていた。
「…………」
アウレリアさん達は、何故か遠く離れた場所に移動しており、気配や魔力量から怪我はしていない様だ。
一先ず無事なことにホッとしながらも、 俺は再生する身体を無視して、苦々しく教皇を見据える。
「フフフフフフフ……フフフハハハハハハハ!! 素晴ラシイ!! 正シク最強ノ力ダ!!」
教皇からはもはや当初のような口調は一切感じられず、理性があるのかないのかすら分からないような状態になっていた。
全身の亀裂も広がり、着々と身体を崩壊へと導いている様だが……今の彼女の力を持ってすれば、神薬を飲む前の自分に戻れるという言葉も真実なのだと理解する。
「……ははっ、はぁ……なんで毎度こうもすんなりいかないのかね……。呪われてんのかな、俺の運命」
———【高次元化】の限界が来ていることも。
『ケケケッ、もう時間がねェぞ。どうする気だ?』
『どうするって……速さも手数も意味ないなら、他には1つしかないだろ?』
俺は問い掛けてくるスラングへの答えとばかりに、歩き始めたと共に笑みを浮かべると。
「———我慢比べってヤツだ」
そう言ったと同時———俺の身体を青白い稲妻が貫き、焼き飛ばす。
だが、教皇へ向かう歩みは止めない。
身体は時間を巻き戻しているかのように再生していく。
貫かれた心臓もすっかり完治してしまった。
「不滅者……トウトウ気デモ狂ッタカ?」
「おいおいいきなりディスってくんなよ、傷付くだろ」
俺の行動の意図が理解出来ないとばかりに眉を潜める教皇に、俺は肩を竦める。
そう言いつつも、自分でも気が狂っているとしか思えない方法だとは思う。
だが、結局俺に出来ることは———我慢の果てにある光明を掴み取ることだけしかないのだから、こうするしかない。
「てか剣しか消さなかったり、俺じゃなくて自分の未来を書き換えたのをみるに……お前、俺自身の運命は弄れないんだろ?」
「……っ、ダカラドウシタ?」
「お、図星か。それはラッキーだぜ。お陰で、ヒヤヒヤせずにお前の下に歩いていけるな」
「!?!?」
俺が清々しいほどの爽やかな笑みを浮かべると時を同じくして、教皇が何故か驚いたように目を見開いたではないか。
しかも、その瞳には狂気の他に焦りや恐怖が僅かに見え隠れしていた。
「ク、来ルナ……!!」
そう叫ぶと共に、どこから取り出したのか知らない数多の剣が俺の身体の至る所に突き刺さり、追撃とばかりに天より青白い雷が落ちてきた。
もちろん全身を剣で縛られた俺は避ける間もなく雷に当たり、無惨にも身体が消し飛ばされる。
———が。
「【劣化原初能力:再構築】」
俺の身体が現世へと再構築され、何もかもが無傷なままの俺が蘇る。
そして、再び足を前に出した。
「ッッッ!?」
思いっ切り顔を引き攣らせる教皇が、俺の足を止めようとあらゆる方法で斬り飛ばし、吹き飛ばし、消滅させる。
だが、俺はひたすらに己を再生させ、再構築しては……ただ歩を進め、嗤った。
「———どしたん? そんな俺を怖がってさ」
「ヒッ!? ク、来ルナ……来ルナ来ルナ来ルナ来ルナ来ルナアアアアアアアアアアアアアア———ッッ!!」
理性を手放したかのように咆哮を上げる教皇が膨大な神力の奔流を発生させて俺に両手を翳す。
両手に奔流を生み出していた神力が収束し、
「死ネェエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!」
俺に攻撃を加えようとした———その時だった。
「———娘の、敵です……ッッ!!」
「———妹をイジメてくれたお礼だッッ!!」
そんな声と共に……教皇の右手が消し飛び、左手が斬り落とされた。
これには教皇も目を見開き———俺の背後にいるのであろうアウレリアさんと姉御に怒号を上げる。
「キ、貴様ラァ……貴様ラアアアアアアアアアアアアアアアアッッ———アッ?」
空間を揺らすほどの絶叫を上げていた教皇が小さく、されど極度の困惑の詰まった声を漏らすと共に自らの胸を見て……真紅の剣が突き刺さっているのを目視して大きく目を見開いた。
「コ、コレ、ハ……」
そう混乱の極まった言葉を発する教皇を他所に、俺の耳朶を2つの声が揺らした。
「———ぶちかましなさい、ゼロ」
『———一瞬だけでいい。限界を超えろ契約者』
言われなくてもやってやるよ。
俺はエレスディアとスラングの言葉に小さく口角を上げると。
———«鋼鉄より硬く»
全ての力を籠め、地面を踏み込む。
———«ハヤブサより速く»
籠めた力に反発する足のバネを使って、地面を蹴る。
———«鬼より強い»
切り替わる視界の中で、教皇だけを見据える。
———«超常の力を我が身に授けよ»
真紅の剣が突き刺さった教皇に肉薄する。
ほんの僅かに遅れて、慌てて自らの未来を変えようとする教皇の背後の機械仕掛けの時計の針が動———
「———【身体強化】———」
時計の針が動く前。
教皇の認知の限界を越えた、僅かな時間で。
ほんの僅かに強化された身体で。
———斬ッッ!!!!
俺は、渾身の一撃を時計諸共教皇に浴びせた。
次に訪れるのは。
時計の針が動く音ではなく……教皇の身体が地面に落ちる音だった。
「バ、馬鹿ナ……私ノ……」
「テメェの力はもうねぇよ。そもそも、テメェの力でもないだろ」
俺が地面に崩れ落ちた教皇に冷たく告げれば———絶望に染まった表情の教皇の身体の亀裂から炎が燃え上がり、その身を焼き尽くして灰燼と化して宙に舞った。
———神と悪魔を翻弄した者にしては、あっけない最後だった。
「…………終わった、な」
『ああ、テメェの勝ちだ。流石オレの契約者だなァ』
「はははっ、お前に褒められるのも悪くないね」
俺はそう小さく零すと、此方に駆け寄ってくるエレスディア達の……涙に瞳を濡らしつつも微笑みを浮かべるエレスディアの姿を眺めながら。
「あの表情が見れるなら、この結末も悪くない、か……」
『———またな、契約者』
「———ああ、またな」
小さく笑みを浮かべ、沈み込むような柔らかくも優しく心地よい微睡みに身を任せるように———ゆっくりと目を瞑った。
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