【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第109話 男は基本馬鹿である
「———ぶわははははははっ! お前看護師のねーちゃんに負けてんのかよ! 英雄とか大層な名前付けられてんのにだせぇ!」
「ま、まぁ……そんなこともある」
腹を抱えて目に涙を溜めながら大爆笑する記憶喪失前の友達、フェイ。
ザーグも擁護しているようで、必死に笑いを堪えていた。
ここまでされると此方も黙っていられない。
「う、うるせーよ! だってあの人『自分の命はゼロ様の腹痛より優先度低い』とか言ってくるんだぞ!? 俺記憶ないんですけど!? てか何で俺が英雄とか呼ばれてんの? こんな小市民が英雄なれるわけないじゃん」
「「それな」」
「お前ら1発ぶん殴ってやろうかおい」
「アンタ達、仲の修復早すぎるでしょ……」
眉を吊り上げる俺と笑うフェイとザーグの姿を見て、呆れというか驚きに似た表情を浮かべるエレスディア。
だが、彼女は間違っている。
「今のが仲良さそうだったか? どう考えても俺が弄られてる側じゃん。寧ろイジメでしょ」
「ゼロが昔やってたことが返って来ただけに見えるのだけれど……」
そんな馬鹿な。
俺がそんな誰かを弄るようなことをするとは思えないんですけど。
「なぁ、俺ってそんな悪戯好きな奴だったの? そんなわけない———おいコラ、全員揃って顔を逸らすんじゃねーよ」
俺の言葉を待たずにふいっと顔を明後日の方向に逸らす3人。
しかも綺麗に動きやタイミングが揃っており、作為を感じる。
「……分かってるぞ。皆んなが皆んな、俺を不安にさせようって魂胆だろ? 見え見えな嘘つかなくても良いからな」
「「「…………」」」
別に怒ってるわけじゃないと分かるくらい優しい声色で言ったのに、いざ返ってくるのは気まずそうな表情と沈黙。
明らかに何かを隠しており、それが俺の悪戯好きだったという事実に結びつくのは誰が見ても明白であった。
「……俺、悪戯好きだったの?」
「……悪戯好き、というか……うん、まぁだいぶ好き勝手やってたな」
細心の注意を払って言葉を選ぶフェイの様子に、俺はいよいよ記憶喪失前の自分が何者なのか分からなくなる。
というか、もう思い出したくない気持ちの方が大きいのだが。
なんて内心げんなりしているのが表にも思いっ切りでて、自分でも目が死んでいくのが分かった。
表情筋もピクリとも動いてない。
「……俺、一生記憶なくて良いかもしんない。今なら片田舎で静かな生活を送れそうじゃない?」
「無理ね」
「無理だろ」
「無理だな!」
「なんでだよ」
自慢じゃないけど、今の俺は弱いぞ?
多分新兵と一騎打ちしてもギリ負けるぞ?
こんなんが英雄はダメでしょ。
「そもそも、堅実がモットーの俺が英雄なんて大それた称号貰っても困るんだよ」
「誰のことを言ってるの?」
「え、もちろん俺だけど」
「…………」
「あのさ、『え、コイツマジで言ってんの? ネタじゃなく? 嘘ぉ……』みたいな目で見ないでくれない?」
信じれないモノを見るかのような表情のエレスディアに思わずツッコんでしまう。
しかし、フェイやザーグの姿を見る限り……記憶喪失前の俺は、堅実がモットーではないらしい。行動方針まで記憶と共に変わっちゃたのかよ……。
なんてちょっと今の自分と過去の自分との差異に凹んでいると。
「———し、失礼致します! ドンナート副団長、フェイさん、ザーグさん。団長がお呼びです。今直ぐ騎士団本部にお越し下さい」
おっかなびっくり、といった様子の騎士がノックと共に病室に入ってくる。
脇には格好いいヘルム、腰には長剣を携えていた。
おお……騎士じゃん、かっけぇ。
THE騎士といった風貌の青年の姿に目を輝かせる俺を他所に。
「? 招集? しかもカエラム団長からの?」
「は、はいっ! 至急、とのことでして……」
「それって俺等も?」
「そう聞き及んでおりますが……」
そう遠慮がちに青年が言った途端、フェイとザーグがお互いにキョトンとした顔を見合わせる。
しかし、直ぐに口角がニヤァァァと上がり、瞳に喜色が浮かんだ。
「おいおいザーグ、団長から直々に招集されたぞ俺等! これはアレだな、遂に俺達の時代が来たってことか……!」
「ガハハハハッ、ガハハハハハハ!!」
「駄目だコイツ、嬉しすぎて会話できねぇ。……まぁそんなことはどうでも良くて、おいエレスディア、早く行こうぜ! 団長が俺達を待っている……!!」
意気揚々と椅子から立ち上がり、病室の外を目指して青年と肩を組むフェイ。
その横で未だにガハガハ笑っているザーグ。正直コイツが1番怖い。
なんて露骨にテンションの上がる男性陣にドン引きする俺に、2人を一瞥したエレスディアが柔らかな笑みを浮かべて言った。
「……また、来るからね」
「おう、待ってる」
「…………頭、撫でてくれる?」
2人が青年を連れて部屋を出たのを良いことに。
一瞬の逡巡ののち、僅かに頬を上気させつつ物欲しげな上目遣いで此方を見つめたエレスディアがねだってくる。
……あの、それはズルではないでしょうか。
なんて思いながらも、こんな俺に付き合ってくれるエレスディアの健気さにやられてそっと腕を上げた。
決して彼女の顔にやられたんじゃない、と誰かに言い訳しつつエレスディアの頭に手を乗せ、そっと彼女のサラサラな髪を撫でる。
「……これでいいか?」
「うん……」
「……思い出せなくて、悪いな」
「……良いのよ」
罪悪感の籠もった俺の言葉に少し儚い笑みを零したエレスディアは、じゃあね、とフェイ達を追い掛けて病室を出て行った。
いきなりシンと静まり返る部屋に、俺がなんとも言えぬ思いをしていると。
「———随分と仲良くなっているじゃないか、なんだか妬けるな」
そんな言葉と共に、窓から1人の女性が入ってくる。
その女性———カエラム団長は俺と同じ漆黒の髪を靡かせ、豊満な胸を押し上げるように腕を組み、妖艶な笑みを浮かべて告げた。
「———私と、デートしようか」
…………あの、フェイとザーグの喜びを返してやってください。
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