【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第111話 奇しくもそれは、あの時と同じで
「———どうだった?」
空も茜色から黒に塗り替えられ、辺りが闇に包まれた時間帯。
俺を連れ回しに連れ回したカーラさんが少し前を歩きながら、此方を振り返った。
漆黒の瞳が真っ直ぐ俺を見つめていた。
「そう、ですね……楽しかった、と思います」
「ん? 楽しかったと思います?」
「楽しかったです! ええ、物凄く!」
「うんうん、そうだよな」
凄まれて反射的にビシッと敬礼して言う俺の姿に、笑みと共にうんうん頷きながら気を良くするカーラさん。
恐らく記憶喪失前の俺も彼女にはこんな感じで接していたのではないか、と今の一連を体感して思った。
「……カーラさんって、不思議な人ですね」
「? どこがだ?」
小さく口元に笑みを浮かべた俺がポツリと呟いた言葉に、前を歩くカーラさんが足を止めて不思議そうな表情を俺に向けつつ首を傾げる。
その全く無自覚そうな彼女の姿に、俺は更に笑みを零した。
「いえ、こんな強引で自己中心的———おっと、その拳はなんですか? せめて話は最後まで聞いてもらえませんか!?」
「なら私はこのままでいるから、ゼロが続ければ良い」
そういう所が自己中というか強引って俺が思う所以なんだけどなぁ……。
てかアンタに殴られたら、余裕で俺死んじゃうよ?
記憶喪失前の化け物再生力も今あるのかさっぱりだし。
なんて内心苦笑を零しつつ、普通に怖いし命の危険も感じるので、キリキリと眉を上げるカーラさんから少し距離を置いて言葉を続ける。
「ほ、ほら、今みたいな直ぐに拳をちらつかせたりする所が色んな人に勘違いされる要因ですからね? 貴女の部下達だって『団長? ああ、普段デレデレなゼロにも訓練の時は鬼畜———あっ、これって言っちゃいけないんだったっけ?」
「…………ゼロ、怒らないから、その私の部下とやらを教えてくれないか? 最近ゼロのことが心配だからか少し訓練を緩くしておけば……ふふっ、ゼロに要らんことを吹き込んだ奴は後で……」
俺がポロッと零した暴露を聞いて、怪しげな黒い笑みと、抑えきれていない怒りが白銀のオーラとなってゆらゆら揺らめいているカーラさんの姿を眺め……居た堪れなくなって心の中で教えてくれた先輩———バードン先輩に土下座する。
ごめんなさい、バードン先輩。
先輩からカーラさんだけには絶対言うなって言われたのを、つい自分の命が惜しくなって口走ってしまいました。
でも、世渡り上手のバードン先輩ならきっとなんとかしてくれると思っています。
…………誠に申し訳ありませんでした。
「はぁ……ゼロは私をそんな風に思っていたのか……」
「まぁ……否定は出来ませんね」
「…………」
俺がスッと目を逸らしつつ言えば……カーラさん自身も何個かは心当たりがあるらしく、うっと言葉が詰まった様子で目を右往左往と泳がせた。
しかし直ぐにワタワタしながら捲し立てるように弁明の言葉を並べ始める。
「だ、だがな、私だってちゃんと相手のことを考えて———」
「知ってますよ。貴女が実は自己中なんかじゃなくて、相手をしっかり見て、その人の心を汲み取っているのくらい。こうして特にしたいこともない俺を連れ回して、気を紛らわせようとしてくれたのがいい例ですよね。だから俺は、貴女を不思議な人って言ったんです。———本当にありがとうございます、カーラさん。貴女のお陰で少し気が楽になりました」
「…………君は、やっぱり何も変わってない」
カーラさんが暗い中でも分かるくらいに頬を赤くして、スッと俺から目を逸らしながら口を尖らせる。
「……君は、どうしていつも私のことを見透かすんだ」
「それは貴女もでしょうに。バッチリ言い当てられた時は肝が冷えましたよ」
「……君は、どうしていつも私の心を舞い上がらせるんだ」
「いや、そんなこと言われても……っ」
潤んだ漆黒の瞳でジトーっと此方を睨んでくるカーラさんの言葉に、俺はなんと答えて良いのか分からず苦笑を零すも……俺の知る大人っぽくてお茶目な彼女が、まるで乙女のようにいじらしげにムッとしている姿にドキッとする。
彼女の瞳に吸い込まれ、ただぼーっと眺めることしか出来なかったが……ふと言葉が口を衝いて出た。
「……相変わらず押しには弱いんですね———っ!?」
「……っ、ゼロ……?」
驚きに目を見開いて俺を見つめてくるカーラさん。
だが、何より俺自身が彼女よりも驚いていた。
……どうして俺は彼女が押しに弱いって知っているんだ……?
分からない。
まるで頭にモヤが掛かっているような……記憶にノイズが掛かっているような。
でも、あと少し……あと少しで何かが———。
「———き、騎士様!!」
突然、そんな叫びが静かな夜を斬り裂くように響く。
これには俺もカーラさんも驚いて声のした方を向けば。
「た、助けてください! も、森に———森に化け物が現れたんですッ!!」
焦燥に顔を引き攣らせた数人の村人が駆け寄ってきていた。
「———へぇ……こんな近場に森なんかあったんですね。建物とかに隠れてて全然見えませんでしたよ」
俺とカーラさんは村人達が言っていた化け物を探して、星明かりも届かぬ真っ暗な森の中を歩いていた。
もちろん来たこともない俺は、キョロキョロと辺りを見回して情報を手に入れる。
「随分と陰湿とした場所ですね……こっちまでテンション下がりそうです」
「ああ、そうだな。とっとと終わらせて……私達も帰るとしよう」
「それもそうですね」
なんて会話をするも、何かを感じているのか、カーラさんは心此処にあらずといった様子で一直線に森の奥を見据えていた。
周りに薄っすらと白銀のオーラを纏っていることから、何処の誰に聞いても口を揃えて『団長に勝てる人間は存在しない』と言わしめる彼女でさえ警戒しなければならないことでもあるのかもしれない。
「それにしても、化け物ってなんなんですかね? あの人達の怯えようってったら相当のものでしたよ?」
「…………」
「てか俺って来ても良かったんです? 言っちゃ悪いですけど、今戦ったらさっきの人達と大差ない戦力にしかならないと思うんですけど」
「…………」
「カーラさん?」
「…………」
俺は先程から全く話もしなければ、眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべているカーラさんを呼んでみるも……まるで俺の声が聞こえていないかのように無視して、視線辺りに向けていた。
……え、こんなタイミングで俺が見えないドッキリ?
いやいやいや……カーラさんに限ってそんなことするわけないか。
……じゃあ何よ?
なんて不思議に思っていたその時、カーラさんがポツリと呟いた。
「———ゼロ、何処に行ったんだ……?」
瞬間———彼女の姿が消えた。
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お久しぶりです。
更新が遅くなり本当に申し訳ありません。
別作品を見てくださっている方ならご存知かもしれませんが、つい先日まで書籍の原稿の締切に追われており、中々書く時間がありませんでした。
これからまた1週間に1、2回の頻度での更新を再開させていただきますので、どうぞよろしくおねがいします。
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