【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第117話 例え
マジでごめんなさい。
忙し過ぎて投稿できませんでした。
次からは〜に投稿します、なんて軽率に言わないようにします。
本当にお待たせして申し訳ありません。
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「——なるほどね……これは、とんでもないわね」
私——エレスディア・フォン・ドンナートは、【身体進化】によって生み出された炎の翼を駆使し、一足早く戦地に赴いていた。
しかし、目の前には———戦地……というより殺戮現場と言ったほうが正しいと感じるほどの悲惨な光景が広がっていた。
圧倒的な数の暴力に我が軍の騎士や魔法使いは次々と倒れ、逆に敵軍は此方の者が死ねば死ぬほど勢い付いていく。
……これを、戦争と呼んで良いのかしらね。
こんなの、集団リンチと変わらないじゃない。
もはや戦いとはいえない凄惨な光景を前に、湧き上がる怒りを必死に抑え付けながら、何とか顔を顰めるまでに留めると。
「……ああ、これは酷いな」
「——なんで貴女まで来ているのです?」
隣で私より幾分か平静とした表情で見下ろすカエラム団長に疑惑の目を向けた。
だが団長は、まるで自分の言葉が1文字も……なんなら文字数すら違う言葉で聞き返された時のように、心底意味の分からないといった様子で首を傾げる。
「ん? 何か問題でもあるか?」
いや、問題だらけですけど。
騎士団の長がなんで勝手な行動を取っているのよ。
「良い加減大人しくしていないと、またアルフレートさんに怒られますよ」
「……今回は、隊の編成を待つより、先に私が現地に行った方が———」
「それ、アルフレートさんに言いましたか?」
「…………」
私の追及に、口の中で『ん〜〜ッ』と悲鳴を上げつつ思いっ切り目を逸らす団長。
その反応から、やっぱり無断で付いて来ていたことが分かる。
しかも私が到着まで気が付かないように一定の距離を保って付いて来ていたのを考えると、紛うことなき確信犯である。
……私が、連絡しておこうかしら……。
今頃、団長が居なくなったとの先輩の報告に、怒りと呆れで笑みを引き攣らせているであろうアルフレートさんの姿が容易に目に浮かぶ。
やっぱり私が連絡魔導具で話しておいた方が良さそう———
———眼前に、矢が飛んでくる。
しかも普通の矢じゃない。
速度は言わずもがな、その矢は新緑の魔力で出来ており……私と団長、2人同時に無数に飛んできていた。
とはいえ———
「———はっ!!」
「———ふんっ、こんなモノ」
この程度の攻撃に遅れを取ることはない。
私は剣で斬り飛ばし、団長は白銀の魔力を纏った拳で消し飛ばす。
これが至近距離ならいざ知らず、最低でも数百メートル離れた場所から放たれた物に不覚を取るはずもなかった。
しかし、無視できるほどの物ではなかったのも事実。
「……今のは、なんでしょうね」
「恐らく『天弓』だろうな。まぁ遠くからチクチク攻撃することしか能が無い雑魚だよ」
なんて下らなそうに吐き捨てる団長には、残念ながら賛同できない。
というのも、『天弓』という者は、帝国の中で最上位の強さを意味する『天』を冠した者なのだ。
まぁ団長や今は亡き教皇に比べれば大分劣るので、団長にとっては本当に詰まらない相手なのだろう。
頑張って小国級の強さを手に入れたのに雑魚と評されるのには、流石に同情を禁じ得ない。
「……だが、我が軍にとっては厄介だな。——殺るか」
「そんなピクニックに行くか、みたいな感覚で行こうとしないでください!?」
「いや、感覚的には同じだが? ああ、お前は援軍に向かえ。アルフレート達が来たら下がっても良いが……それまで耐えれるか? もちろん私もあのチクチク野郎を殺したら加勢する」
「それくらい出来ますけど……」
貴女が単独行動を取るのは如何なものかと思うのだけれど……もう行っちゃったわね。
私は意見を聞くことなく一瞬で見えなくなる団長の姿を探すのを諦め、小さくため息を吐く。
でも、結局団長が『天弓』を相手取るのが1番確実で速いんでしょうね。
実際、彼女ほど頼りになる存在はいな———
『———お前が好きだから。それだけじゃ……ダメか?』
いや、1人いる。
全てを賭けても守りたい私の最愛の人。
いつか隣に立ちたいと希った危なっかしい人。
いつも私を、数多の人々を助けてきた———最強の人。
でも、今、彼はいない。
私のせいで、彼は記憶を失った。
それに———。
「———いつも守られてばかりじゃ、いられないもの」
今度は、私が彼を守る番。
帝国軍の侵攻を止め、彼の眠りを邪魔する者を片っ端から薙ぎ払うのだ。
「———何千でも何万でも、幾らでもかかって来なさいよ……!!」
私は真紅の剣の柄をグッと握り———敵軍へと急降下したのだった。
———今頃、彼は、消えてしまった自身の足跡を辿っているはずだ。
もしかしたら、丁度、私———アシュエリ・フォン・デュヴァル・アズベルトの護衛騎士になったくらいかもしれない。
私の人生を変えたあの時から、既に1年近くが経とうとしている。
でも、あの日のことは、つい昨日のことのように思い出せる。
忘れるはずもない。
あの日から———私の世界は色付いたのだから。
私は、ベッドで眠るゼロに、久し振りに間近で見たゼロに、熱っぽい視線を向ける。
その少し大人びた顔に見惚れてしまう。
そして、僅かに痩せこけた頬を見て、悲しい気持ちになってしまう。
『ケケケッ、それにしても、この国が危ねェってのに呑気なモンだなァ?』
「…………」
私は、視覚を共有したスラングのデリカシーのない言葉に責めるような意図を込めて、自らの胸を殴る。
すると、スラングが驚いたように声を上げた。
『お、おい、なんだ? 急にどうしたァ?』
「……ゼロは、頑張ってる。呑気に、寝てなんかない」
『……チッ、分かってるっつーの。洒落の通じねェ奴だ』
アイツは軽口で返してくれんのによォ、とつまらなそうにぼやくスラング。
良い加減ゼロが恋しくなっているらしい。
だが———それは私も同じ。
私は、また彼に会いたい。
私を地獄の未来から救い出してくれた英雄に会いたい。
会いたくて、逢いたくて堪らない。
だって———彼を愛しているから。
彼を救えるなら、私はどんなことでもする。
彼にまた逢えるなら、私はどんな試練だって乗り越えられる。
彼が再び笑顔を取り戻せるなら、私はどんな代償だって払える。
彼の声が聞けるなら、どんな結末が待っていようと———怖くない。
「……ゼロ、がんばれ」
例え———この金色の瞳が色を失い、彼を映さなくなったとしても。
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