【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第118話 『天』最強(エレスディアside)
「——なんなのよアイツら……っ!!」
蒼と赤、2つの炎に身を包んだ私——エレスディアは、無数に飛来する矢を捌きながら毒づく。
こんなポンポン撃たれているが、1つ1つが上級魔法レベルの威力を誇っており……私が捌かず避けでもしたら、後ろで戦っている兵士達が死ぬことは間違いなかった。
「ほんと、性格悪いわね……!!」
キッと睨み付けた私の視線の先には。
「また撃ち落とされましたか……些か私では火力不足でしょうか」
1人目に———十字の輝きが浮かび上がった瞳と鋭い青い目が特徴的な、藍色の髪を後ろで1つに結んだ女。
カエラム団長と同程度の身長に見合った弦の部分が魔力で出来た弓を構えていた。
そしてもう1人。
「カハハハハハハ!! 温い、温いぞぉ!! 貴様の炎はこの程度かぁ!?」
鍛え上げられた身体を持つ人間をそれなりに見てきた私でさえ、反射的に目を見張るほどに筋肉隆々とした肉体に、心底楽しそうな笑みを浮かべた巨漢。
奴は、奴をも裕に越える大きさを誇る巨大な漆黒の盾を自由自在に操っていた。
あと、物凄くうるさいしウザい。
「温いって……身体じゃなくて盾で守ってるくせに何言ってんのよ……」
「その通りです、ゲボル。温いのは貴方の力ではなく、陛下より頂いた盾のお陰です。そもそも貴方では彼女は殺せないのですから、一々煽ることはしないでください、鬱陶しいです」
「お主はどっちの味方なのだ!? 我、これでも頑張ってるぞ!?」
……なんだろう、既視感が凄いんですけど。
まるで私とゼロのやり取りを第三者視点から見てるみたいだわ……当事者じゃないと物凄く腹立つのね、中々良い戦法じゃない。
とはいえ、感傷や感心に浸るのは程々して、此方から攻めるとしよう。
「———【飛べ】!」
舌打ち1つ、私は背に広がる翼を羽ばたかせて幾百もの羽根を飛ばす。
1つ1つが人など一瞬で消し炭にする火力を内包する真紅の羽根であり、それらが超スピードで全方位から降ってくるとすれば、幾ら盾が護ろうと意味はない。
———が、相手も強者だ。
「———【護れ、天の盾】!!」
男が吠えると同時、盾が唐突に増殖、寸分の隙間もなく、まるでシェルターの如く半円状に彼らを覆って護る。
幾つもの火柱が上がるが……どれも彼らにダメージなどてんで与えていない見せ掛けのモノとなってしまった———
「———【穿て、天の弓】」
「っっ!?!?」
火柱に風穴を開け、膨大な風の魔法を孕んだ矢が飛来する。
その速度は私の羽根の速度を容易に上回り、その威力は私のどの飛び道具より遥かに強大。
だが、ここで避ければ背後の兵士達に甚大な被害が及ぶ。
故に、私が取るべき行動は1つ。
「———【一刀両断】」
自身の頭上に創り出した真紅の剣を握り、上段から渾身の力を以て振り下ろす。
———ズガァァアアアアアアア!!
耳を劈く轟音と共に、風を纏った矢が真っ二つに斬り裂かれ———空中で爆発した。
「「「「うぁああああああああ!?」」」」
「な、なんだ!? 今のはぁああああ!!」
敵味方問わず、数多の兵士を吹き飛ばして。
いや威力高すぎないかしら!?
爆風だけで何十キロもある鎧を身に付けた兵士達を吹き飛ばしたんですけど!?
オマケにこっちの攻撃はあのウザったい盾に弾かれて効かないとか、あまりにも卑怯じゃない!
「ゼロ風に言うなら、無理ゲーってヤツね……本当に面倒な組み合わせじゃない」
「カハハハハハッ! 中々に良い攻撃だった! だが、我の守りを、この程度で突破出来るとは思わないことだ!」
なんて大っぴらげに高笑いをする男は、明らかに私のことを危険視しているとは思えなかった。
私はグッと唇を噛む。
それと言うのも、戦いが始まってからずっとこんな調子なのだ。
どれだけ攻撃しようと、反則級の能力を持つあの盾に私の攻撃は弾かれ、そこからこれまた反則級の弓によって放たれた矢が飛来してくる。
まさに攻防一体、2つで1つ、並大抵では会得できない凄まじい連携だ。
もちろん、1人1人なら正直言って格下、やりようは幾らでもある。
……そうね。
2人を相手にするのが無理なら、その連携、ぶっ壊してやりましょうか。
私は身に纏う不死鳥の炎を霧散させる。
同時に真紅の剣は消失、自らの身体を支配していた溢れんばかりの生命力が鳴りを潜めた代わりに、全身から力が抜ける感覚に苛まれた。
ただ、決して顔色は1つも変えず、懐疑的な目でこちらを見る『天』達を見据えていると。
「……なんのつもりですか? 貴女ほどの強者がこの程度で降伏なんてあり得ません」
「当たり前よ、私がアンタ達に降伏なんてするわけないじゃない。ただ———興醒めってだけ」
「———……何?」
女の言葉に対して、2人を順に目で追い……憐れみや嘲りの孕んだ笑みを浮かべる。
すれば、予想通りゲボルとかいう脳筋単細胞っぽい男が怒気を孕ませて声を荒げた。
「今、貴様は何を言ったぁ———ッ!?」
「あら、首から下だけじゃなく、耳と脳まで筋肉に侵されたの? 人間は思案する生き物なのにそれが出来ないって可哀想に……一度病院に行くことをオススメするわ」
「貴様ぁぁぁぁ……我らが手を抜いてやっているというのに……!!」
「手を抜く? 面白い冗談ね、貴方達に手を抜かれるほど私は弱くないわよ? 寧ろ感謝してほしいくらいね。私には後ろに大切な兵士達がいるの。でも、私の本領は魔法にも勝る広範囲攻撃と圧倒的火力……あとは言うまでもないわよね?」
まぁ実際は言葉ほど圧倒的ではないのだけれど……ハッタリも大事ってゼロも言ってたし、このまま通させてもらうわ。
というかあの脳筋単細胞、些か煽りに耐性なさすぎじゃないかしら?
まぁ小娘に言われたら仕方ないのかもしれないわね。
私は真っ赤な顔でプルプル震える男から視線を切り、その奥で弓を構えた女に目を向ける。
「貴女もよ、弓の人」
「…………」
「あれだけ『陛下のおかげで』とか言ってるくせに、その弓を使っても私に傷一つ付けられてないわよ? 防御はあの男に任せっきりだっていうのにね? アンタ達の陛下も可哀想ね。アンタ達みたいな無能に大切な武器を預けたりして」
「———殺す」
明確に女の気配が変わった———と同時に地面を踏み抜く轟音が辺りに響き、青筋を立てた女が急接近。
数メートル先で弓を構えた女は、爛々と輝く十字の瞳で睨み付け。
「陛下を侮辱した貴女を殺します」
「やってみなさい、出来るものならね」
「ま、待てフレイサー! お主1人では———」
男の静止の言葉を無視して私の眉間目掛けて矢を番え、魔力で出来た弦を放した。
どうやら意外にも男の方が私達の戦力差を客観視でき、冷静だったらしい。
とはいえ———もう遅いけれど。
「———終わりよ」
「なっ———!?」
矢は『パァァァァン!!』と強度の増した私の眉間を撃ち抜くが、不死鳥が起源の私には死など存在しない。
吹き飛ばされた顔面は直ぐ様再生、生み出した真紅の剣で驚愕一色に染まった女の首を———
「———おやおや、それはやめて貰いたいね」
突如女を見据えていた視界がブレたかと思えば暗転。
次の瞬間、自身が地面に打ち付けられたことに気付く。
な、何が……私は何をされたの……?
「あれ、元に戻ってる? 身体の半分を消し飛ばしたはずなんだけど……というかその炎嫌だなぁ」
「くっ……!」
私は攻撃の気配を感じ取り、即座に【身体進化】を発動してその場を飛び退く。
そして直ぐ様視線を向ければ———
「全く……君達の団長、流石にバケモノ過ぎないかな? 僕、これでも世界で五本指に入るくらい強いはずなんだけど……ちょっと自信なくしちゃうよ」
1人の金髪の青年が立っている。
しかしそれより意識を吸い寄せられるのは———教皇や団長をも越える、指先1つで災害すら引き起こせそうな膨大な魔力量と、人間離れした神の気配。
そう、彼の者は———
「———僕はエン。『天』の第1席———『堕天』さ。生憎一時的に陛下にイレギュラーをお任せしてるんだ、早めに終わらさせて貰うよ」
この世で知らない者はいない———ゼロと同じ神の一柱を殺した神殺者だった。
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皆様長らくお待たせして申し訳ありません。
もう言い訳も出来ないくらい遅くなりましたが、書籍周りの仕事も一段落してある程度話の道筋も立てられたので、これから週に1、2回投稿に戻ります。
書籍化も順調に進んでおりますので、今後ともこの作品を宜しくお願いしたします。
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