【書籍化】一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた
第128話 最初に立ちはだかった頂きを越えた者へ(途中から三人称)
「——なぁアシュエリ……どうやったらエレスディアって許してくれるかな? 土下座したらいける? やっぱ殴られる? エレスディアのパンチって死ぬほど痛いから嫌なんだけど……」
「……ゼロ、ダサい」
焦る俺の姿にジトーっとした目で俺を見てくるアシュエリに、俺はやれやれと首を横に振る。
「いーや分かってないな、アシュエリ。アイツがブチギレたら世界で一番怖いんだぞ。……ううっ、想像するだけで鳥肌立ってきた。つーか痛いのは嫌。アイツのパンチって心身同時にダメージ与えてくるんだもん」
「ん、情けない」
「なんとでも言え、これが俺だ」
「ん、そんなところも好き」
…………不意打ちはズルいと思うんだが。
自然な会話の中でぶっ込まれた甘い言葉に、俺は熱に浮かされた頬を見られないように顔を背ける。
そんな俺の姿にアシュエリはクスクスと笑っていた。
叶うならば。
もしも叶うならばこの時間がずっと続けば良いと思うが……現状を考えればそうも言っていられない。
「さて、と……それじゃあ行こうか」
俺はアシュエリに手を差し伸べる。
アシュエリは一瞬キョトンとした様子で俺の手を見つめていたものの、直ぐに俺の意図を察したらしく……微笑みと共にギュッと手を握った。
「ん、何処までだって行く。何処までも連れてって————ゼロ」
「それはまた責任重大だな。でも、分かったよ————アシュエリ」
——場所は移り、王都の城門近く。
既に数十分が経とうとしているが……二人の猛者による一騎打ちは、依然として膠着状態が続いていた。
しかし——それもつい先程までのこと。
「——ギャハハハハハッッ!! そろそろ終わりなんじゃねぇのかぁ!? 幾ら強くても老いぼれは体力がねぇもんなぁ!!」
ロウの長らく前線から離れ、肉体の全盛期を遠に過ぎているという弊害により、戦況の天秤は徐々に破天へと傾き始めていた。
ところが、全身に傷が増えて軽い息切れに陥っているはずのロウからは、一切の焦りが見られなかった。
「フッ、最近の若人は誰も彼も良く吠える。あまりに吠えすぎると、返って弱く見えるぞ?」
「……っ、この老いぼれのクソジジイがッッ!!」
口の端から血を垂らしながらも一向に不敵な笑みを消さないロウの姿に、破天は苛立ちを隠そうともせず荒々しく拳を振るう。
だが——それは愚策。
ロウは膨大な魔力の籠もった大振りな拳を器用に大剣でいなすと。
「むぅぅんッッ!!」
「ゴハッ!?」
隙の出来た破天の胴体に、鋭く重い蹴りを叩き込む。
——ドゴンッ!!
まるで高速で走るトラックが衝突したかのような空気を揺らす轟音と共に破天の身体が弾かれ、城壁に激突する。
そんな砂埃の舞う城壁を眺めながら、ロウは気難しい顔でふぅ……と息を吐いた。
「……全く、歳のせいだけには出来んな。私も平和に慣れすぎたか」
そう言った次の瞬間——ガラガラガラと瓦礫が動く音が彼の耳朶を揺らす。
次にゴウッと漆黒の魔力が砂埃を吹き飛ばし、ピンピンした破天が気分良さげに高らかな笑い声を上げた。
「ギャハハハハハ、効かねぇ……全然効かねぇ! どうしたジジイ、最初の勢いはどこに行ったんだろうなぁ!!」
「フッ、爺の最後の気概ってヤツだ。だが……ガハハッ、ゴホッゴホッ——ゴフッ。ガハハハハハハッ!!」
ロウは大きな笑い声を上げながら盛大に血を吐く。
受け皿にしたゴツゴツした大きな手から血がボタボタと地面に垂れ、少なくない量の血を吐いたことが端から見ても分かった。
しかし、ロウはなお止まらず笑い声を上げる。
「ガハハハハハハ、ガハハハハハハ!!」
「ど、どうしたこのジジイ……遂にイカれちまったか……?」
今まで冷静で威厳に満ちていた姿とは似ても似つかぬロウの姿には、彼の破天も驚いた様子を見せ、顔を引き攣らせる。
そんな破天を他所に、ロウは歓喜を覚えていた。
(ああ……死に損ないのわたしがこの歳まで生きてきたのは、これを見るためだったのかも知れんな)
ロウは歓喜と希望、感慨と敬意を持って——ゆっくりと振り返った。
「——久しいな、ゼロよ」
「——お久しぶりです、ロウ教官」
背後に目を向けたロウの視線の先には、金色の髪と瞳の少女——アシュエリを抱き抱えた、灰色の髪と瞳の青年——ゼロが立っていた。
ゼロもロウも柔らかな微笑みをたたえている。
「すみません、老体に鞭を打たせてしまって」
「ガハハハッ、気にするな。私が好きでやったことだ。どれだけ歳を重ね、前線から離れていようと……いつでも心は騎士のままよ」
「ははっ、ロウ教官って俺が出会った中で一番騎士してますね」
「お主が少々騎士っぽくなさ過ぎるだけだと思うが……」
ロウはアシュエリをそっと降ろすゼロを眺め、嬉しそうに笑みを深めた。
「フッ、見ない内に立派な騎士になっているではないか」
「俺はなりたくなかったんですけどね」
「……ゼロ?」
「いや待って? 別にアシュエリの騎士になりたくなかったわけじゃ……いや最初は面倒とか思ってたけど、今は違うくて……!」
ムッ、と小さく頬を膨らませて眉を顰めるアシュエリに、焦ったゼロが必死の形相で言い繕っていると。
「——ごちゃごちゃうるせぇ!!」
——ズガンッッ!!
蚊帳の外にされた破天が我慢の限界に達し、城壁に拳を打ち付ける。
それにより、三人の視線は否応なしに、怒り心頭といった様子の破天に向いた。
「テメェら、良くもこのオレを無視しやがったな……ぜってぇぶっ潰すッッ!!」
「やってみろよ——やれるもんなら」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべたゼロが歩みを進め、ロウの前に立つ。
「……ゼロ」
「ロウ教官、これからは俺がやります。このために、俺が来たんですから」
当然とばかりに宣うゼロの言葉に、ロウは——。
(……そうか。……フッ、時の進みは速いものだな。あの時、私と対峙した時に涙目でエレスディアに文句を言っていたあの少年が——)
自身の前に一切の怯えも文句もなく堂々たる姿で佇むゼロを見て。
自身の全盛期をも越える荒々しくも静かな魔力と気迫を纏ったゼロを見て。
(——今では、こんなにも頼もしい騎士と成ったのか)
——眩しそうに目を細めた。
「……ゼロよ」
「はい」
ゼロの圧倒的な実力に目を剥く破天から視線を離すことなく、ロウの問い掛けに応じるゼロに。
「——私からの最後の試験だ。お主を採用した私の目に狂いはなかったことを、今ここで証明してみろ」
面接に来た時のゼロの姿を想起したロウが告げる。
そんな彼の言葉に、ゼロはニヤッと笑みを浮かべて言い放った。
「——証明してみせますよ、この再生力と一緒に」
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どうも、最近ゼロがカッコ良すぎて首を捻らせているあおぞらです。
遂に書籍発売1週間前となりました。
この作品は、これまで読んでくださった全ての読者様方のお陰でここまで続けられました。
本当にありがとうございます。
完結に向けてこれからも更新頑張っていきますので、GA文庫さんより発売される書籍を買う買わない何方にしろ、この作品をよろしくお願い致します。
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