やることもないので話をしながら本を読んでいると、終業時間5分前にアデーレがやってきた。
「よう。荷解きは終わったのか?」
「ええ。まだですが、最低限のことは終えました。しかし、ジークさん、仕事中に何を読んでいるんですか?」
アデーレが呆れた顔で本を見る。
「人と上手くいくための参考になるかと思って買った本だな。あまり参考にはならん」
「結構、楽しいんだよ? アデーレも読むといい」
レオノーラがそう言うのでアデーレにナンパ本を渡した。
すると、アデーレが本をパラパラと流し読みする。
「ふーん……ジークさん、道を聞くふりをして、食事に誘うんですか?」
ナンパだなー……
「そんな生産性皆無なことをすると思うか?」
「生産性? いや……まあ、しそうにないですね。でも、そういえば、あなたに食事には誘われてましたね」
「そりゃ歓迎会はしないとマズいだろ」
「いや、そうではなく……というか、あなた、本部の歓迎会にも来なかったじゃないですか」
同じ職場だったな……
「騒ぐのは嫌いなんだ。でも、この支部だと静かだから別にいい」
パワハラも一発芸の強要もないなら飯屋で飲み食いするだけだし。
「……私が誘った歓迎会は嫌がってたよね?」
「……最初もですよ」
レオノーラとエーリカがコソコソする。
「――おーい、そろそろ行くぞー」
階段の方から支部長が声をかけてきたので時計を見ると、すでに終業時間を過ぎていた。
「行くか」
俺が本を本棚にしまうと、エーリカとレオノーラが片付けをする。
そして、準備ができたので皆で支部を出て、前にも使った飲み屋にやってきた。
「アデーレは何を飲む?」
支部長が本日の主役に聞く。
「皆さんは何を飲まれるんです?」
「んー? 俺は禁酒中だからお茶だな」
支部長は本当に禁酒してるんだな。
見た目は酒豪っぽいのに。
「私はお酒に弱いのでジュースです」
エーリカはこの前のお疲れ会でアルコール度数の低いワインをちょっと飲んだだけなのに頬が赤くなっていた。
「私はワインをもらうよ」
レオノーラもそこまで強いわけではないが、ワインが好きらしい。
「ジークさんはどうされるんです?」
「俺はウィスキーのロック」
「いきなり強いお酒ですね」
「強い酒をちびちび飲むのが好きなんだ。アデーレも気にせずに好きなのを頼めよ。支部長の奢りだぞ……ですよね?」
え? 割り勘じゃないよな?
「ああ。俺が出すから気にせずに頼め。まあ、高い店ではないけどな」
「そうですか……では、私もワインを」
アデーレもワインか。
「……貴族ってワインが好きなのかな?」
小声でエーリカに聞いてみる。
「……そんなイメージはありますね。絶対にエールは飲まない気がします」
やっぱりエーリカもそう思うかー。
俺達は頼むものを決めると、飲み物や食べ物を注文した。
そして、飲み物がやってきたのでウィスキーに手を伸ばす。
「ジーク様、ちょっとだけ待ちましょう」
「わ、わかってるよ」
アデーレが挨拶するんだろ?
「アデーレ、簡潔に頼むぞ」
俺はもう飲みたい。
「わかりました。もう自己紹介はしていますしね。ジークさんに誘われて転属してきましたアデーレです。錬金術師としては日が浅く、皆様にご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「はい、よろしく。乾杯」
グラスを掲げる。
「乾杯」
「「かんぱーい」」
俺達は乾杯をすると、それぞれの飲み物を飲み、食事を始めた。
「アデーレさんは王都にいたんですよね? やっぱり王都って大きいんですか?」
人間性Aランクのエーリカがアデーレに話を振る。
「ええ。そうですね。大きいですし、やはり人が多いです。私も王都出身ではないので最初に王都に行った時はびっくりしました」
「へー、すごいですね! あのー、アデーレさんって、ジークさんやレオノーラさんと同い年ですよね?」
「そうですね。22歳です」
「敬語じゃなくていいですよ。私は年下ですし」
エーリカは20歳だから俺達より年下だ。
家事も完璧で一番しっかりしてるけど……
「そう……では、普通にしゃべるわ」
え? 俺は?
まあ、どうでもいいけど。
「はい! ジークさんとお友達なんですよね?」
おい……
「そうですね。良き友人です」
うん……
「私は? 私は?」
真の友人のレオノーラが主張する。
「はいはい……とても素晴らしい友人よ」
アデーレ、長年の友人なだけあってレオノーラの扱いに慣れてるな。
「ジークさんと同じ学校だったんですよね? どんな感じだったんですか?」
こら、エーリカ。
笑顔で地雷を踏むんじゃない。
「ジークさんは優れた人だったわ。何しろ、ずっとトップの成績だったからね」
「ジークさん、すごーい!」
「さすがは我が師」
当たり前だろ。
あんなアホ共と一緒にするな。
「まあな」
俺は本当に成長した。
以前なら思っていたことをそのまましゃべり、アデーレが眉をひそめていたと思う。
何しろ、アデーレも同じ学校の人間だし。
「あとは地味に使い魔の猫が可愛いという評判もあったわ」
ヘレンか。
「確かに可愛いですもんね」
「賢いしね」
エーリカとレオノーラがうんうんと頷いた。
「お前、人気だったんだな」
ヘレンを撫でる。
「にゃー」
ヘレンがわざとらしく俺の手にすり寄ってきた。
「あー、あざとい。よしよし、この豚肉をやろう」
「それ、牛肉ですよ?」
あれ?
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