鉱石屋で魔石なんかの必要な材料を購入し、支部に戻る。
そして、レンガを作っていると、昼になった。
「今日中には余裕で終わりそうだな」
やっぱり4人でやれば早いわ。
エーリカとレオノーラもさすがにこれだけの数をやっていれば錬成の時間もかなり短くなっている。
「ジークさん、昼食はどうされるの?」
アデーレが立ち上がり、聞いてくる。
「弁当」
「え? あなた、自炊するの? 意外……」
「イメージで人を語るのは良くないぞ」
俺は飲食店でバイトしまくっているし、料理は得意だ。
「それは申し訳ありません……」
「はい、ジークさんの分です」
エーリカが弁当を渡してくれる。
「いつもすまないな」
「妻に感謝」
レオノーラも弁当を受け取った。
「いや、結局作ってないじゃないの」
アデーレが呆れた顔になる。
「エーリカが作ってくれるんだよ」
「掃除もしてくれるー」
いや、それは自分でしろ。
「いや、それは自分でしなさい」
アデーレが思ったことを代弁してくれる。
「やってるんだけど、すぐに本が散らかるんだよー」
読んだ本をしまわないからじゃないかな?
「アデーレさんも良かったら食べませんか?」
エーリカがさらにもう一つの弁当を取り出した。
「え? もしかして、私の分?」
「はい。アデーレさんは引っ越して間もないですし、準備ができないでしょう? もしよかったらどうぞ。あ、いらないならいいです。晩に食べるんで」
「あ、じゃあ、もらう……」
「どうぞー」
エーリカがアデーレに弁当を渡した。
「良いんですかね?」
アデーレが俺の相談役であるヘレンを見る。
「良いんじゃないです? 皆で食べましょうよ」
「そうですか……」
アデーレは席につき、弁当箱を開けた。
なお、俺とレオノーラはすでに食べている。
「美味しそう……」
「頑張りましたー。ジークさんに色々とレシピを教わったんです」
うん、美味い。
「へー……ジークさんって博識なのねー……あ、美味しい」
「良かったですー」
俺達は4人で弁当を食べていくが、俺が先に食べ終わったのでさっき出かけた際に買った本を読むことにした。
「何を読んでいるんです?」
エーリカが聞いてきたので表紙を見せる。
「【仲良くなれる 男性とのしゃべり方】……あのナンパ本の男性バージョンですね」
「シリーズなんだと」
「へー……何て書いてあります?」
「男性はプライドが高い生き物だから否定しちゃダメって書いてあるな。肯定しつつ、正すのが良いらしい…………むずっ」
どうやんだよ……
「ジークさんは物事をはっきり言いますからねー。良いところだとは思います。もう少し言葉を選べば完璧ですよ」
おー……
「エーリカ、すごいな。実践できてる」
「そんなつもりはなかったんですけど……」
天性か?
さすが聖人エーリカ。
「あと、座る位置が大事らしいぞ」
「座る位置ですか?」
「なるべく隣に座れって書いてある」
「ほうほう。なんでです?」
えーっと……
「座る位置で人の心理が変わるらしい。隣は愛情、正面が対立、斜めが親愛らしい」
なお、俺は全方向が対立。
「え? ジークさん、私と対立しているの?」
「エーリカ……ひどい」
話を聞いていた正面にいるアデーレとレオノーラがショックを受けたような表情になった。
「仕事場は関係ないだろ」
「というか、その席が良いって言ったのはレオノーラさんじゃないですか」
エーリカが呆れる。
「うーん……ジーク君、見せて、見せて」
興味を持ったレオノーラが立ち上がって手を伸ばしてきたので本を渡すと、読みだした。
「面白いの?」
アデーレがレオノーラに聞く。
「勉強になるでしょ」
「何の勉強よ……」
「えーっと……このお茶、美味しー。私、普段は飲めないんですけど、今日はどんどん飲めちゃいます」
レオノーラがお茶を飲んだ後に変な声を作ってそう言うと、アデーレの裾をちょっとだけ摘まんだ。
「何それ? お茶がお酒なんでしょうけど」
「うーんっと……普段は飲めないということでお酒に弱いアピールをしつつ、あなたと一緒に飲んでいると楽しいですって暗に伝えている。そして、トドメのボディータッチ。服装をちょっと緩めるとなお良し」
しょうもねー。
「これがいいの?」
アデーレが怪訝な顔で俺を見てきた。
「さあ? レオノーラがやってもまた冗談かって思うだけだし、アデーレやエーリカがやったら心配になるな」
飲みすぎたかって思う。
「いや、私達じゃなくて一般的に」
「知らん。俺はお前らや支部長としか飲みに行ったことがないし」
前世では取引先との会食なんかはあったが、その場に女性はいなかった。
「うーん…ジークさんは特殊ね……じゃあ、さっきのような女性に良い印象はないわけ?」
「俺はバカが嫌いだからな。でも、お持ち帰りできそうな雰囲気はあるな。まあ、お持ち帰り待ちの女性のための本なんだろうからそうなんだろうけど」
こんなハニトラみたいなことを仕掛けてくる女は嫌だわ。
「へー……」
アデーレが納得すると、レオノーラが立ち上がり、こちらにやってくる。
「ヘレンちゃん、可愛いね」
レオノーラが当たり前のことを言ってきた。
「見りゃわかんだろ」
「ちょっと抱いてもいいかな?」
「ヘレンに聞け」
「ヘレンちゃん、いい?」
レオノーラが首を傾げながら聞くと、丸まっていたヘレンが起き上がり、身体を伸ばしながらあくびをする。
そして、ぴょんっと飛び上がり、レオノーラの腕の中に収まった。
「おー、可愛い! 私、猫が好きなんだー」
そうだったのか……
しかし、また声を作ってるな……
「確かに似合うな」
ヘレンを抱いたレオノーラは実に絵になる。
「そうかい?」
「その格好って魔女みたいだし、黒猫が似合うわ」
「ありがとう。ヘレンちゃん、ウチの子にならない?」
おい……
「すみませんが、私はジーク様の使い魔ですので」
「いいなー。ジーク君は幸せ者だ」
「まあな。ヘレンの存在こそが俺の生きる目的と言っても過言じゃない」
「ジーク様ぁ……」
ヘレンの目が潤んでいる。
なんでこんなに可愛いのだろうか?
「で? これは何だ?」
「何ですか?」
俺とヘレンが同時に顔を上げて、レオノーラの顔を見る。
「男の好きなものを全力で肯定しろって書いてあった。どう?」
うーん……
「それは効果があったな。親近感と信頼度の上昇がすごかった」
今思えば、最初にエーリカが良い奴と思ったのはヘレンを可愛いと言ってたからな気がする。
「ふーん……あ、ヘレンちゃん、寝てたのにごめんね」
レオノーラがヘレンをデスクの上に置く。
「いえいえー。褒めてもらえて嬉しかったです」
レオノーラはそう言うヘレンを撫でると、自分の席に戻っていった。
「これとこのナンパ本を読んだら男性にも女性にも好かれる良い人になれるんじゃない?」
レオノーラが2冊の本を見せてくる。
「そう思って買った」
「ジークさん、悪いことは言わないからよしなさい」
アデーレが止めてきた。
「そうですね。少なくとも、良い人ではないと思いますよ」
エーリカもそう思うのか……
うーん、ナンパ男と肉食系女子のハイブリッドって考えると良いイメージはないかもなー…
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