エーリカと話をしながら歩き、役所に到着すると、奥の受付にいるルーベルトのもとに向かう。
「ルーベルトさん」
今日は俺の用事なため俺が声をかけた。
「やあ、ジークさん、こんにちは。エーリカちゃんも来たんだね」
ルーベルトがいつもの笑顔で対応する。
「はい。ついてきました」
「華やかなエーリカちゃんがいた方が良いかもね」
ん?
「ルーベルトさん、どういう意味だ?」
「実は新聞記者さんが来ているんだよ」
マジかい……
「新聞に載るのか?」
「だと思うよ。町長から感謝状をもらった後に取材したいって言ってる。どうする?」
どうする……
拒否したいが……
「ルーベルトさん、ちょっと待ってくれ…………ヘレン、エーリカ、どう思う?」
緊急会議だ。
「いいんじゃないですか? 新聞に載った方が評判は上がりますよ」
「私もそう思います。ジークさんは嫌なんだろうなーと思いますけど」
嫌だね。
「俺の言葉が新聞に載ったらマズいだろ。使えねー魔術師協会の奴らの代わりにやってやったって言うぞ」
そう思ってるし。
「エーリカさんがしゃべるのはどうでしょうか? ジーク様はしゃべるのが得意じゃないということにして」
なるほど。
人当たりAランクのエーリカにスポークスマンをさせるわけだ。
「それだ。エーリカ、頼む」
「私がしゃべるんですか? 火を消したのはジークさんですよ?」
「これは俺個人じゃなくてウチの支部の功績ということにしたいんだ。そっちの方が良い。エーリカとレオノーラも現場にいたわけだし、あの場にいた野次馬連中にはわからんことだ」
あいつら、魔法を使えねーし。
「いいんですか?」
「そっちが良い。頼むぞ、弟子」
「弟子というより秘書の気分ですが、わかりました」
よしよし。
「ルーベルトさん、取材を受けるわ」
「悪いねー。ウチとしても助かるよ。じゃあ、内線で話を通しておくから3階の奥にある町長室に行ってくれ。取材は昨日の応接室を使ってくれていいから」
アドルフと打ち合わせをした部屋ね。
「わかった」
俺達は受付をあとにすると、すぐ近くにある階段を昇っていく。
そして、3階まで昇ってきたので奥にある部屋に向かい、扉をノックした。
「町長、錬金術師協会のジークヴァルトです」
『どうぞ』
扉越しに許可を得られたので扉を開け、部屋に入る。
部屋は質素な作りとなっており、本棚がある程度だ。
そして、応接用の対面式のソファーが置いてあり、片方には40代くらいの男性、もう片方には若い女性とカメラを持った30代くらいの男性が座っていた。
「あ、どうぞ」
「どうぞ、どうぞ」
おそらく新聞記者とカメラマンであろう男女が立ち上がり、座るように勧めてきたのでエーリカと共にソファーまで向かう。
すると、町長らしき男性が立ち上がった。
「私がこの町の町長を務めるオスカー・フォン・ライゼンハイマーだ」
当然、貴族……やはり領主だな。
町によっては町長イコール領主とは限らないのだが、この町は領主が町長を務めているようだ。
「錬金術師協会リート支部のジークヴァルト・アレクサンダーです」
「同じくエーリカ・リントナーです」
俺、エーリカの順に自己紹介をし、町長と握手する。
「まあ、かけてくれ」
町長に勧められたのでエーリカと並んで座った。
町長も座ると、新聞記者達はカメラやメモの準備を始める。
「ジークヴァルト君、軍から話を聞いたが、先日の火事を消してくれたそうだね? 非常に助かったと軍の者が言ってたよ。町を治める私としても大変ありがたいことだ。礼を言う」
えーっと……俺は正義の善人っと……
「町に住む者として当然のことをしたまでです」
「うむ、素晴らしい。さすがは若くして5級の国家魔術師と3級の国家錬金術師の資格を取る人物だ」
町長がそう言うと、記者がサラサラとメモをしていく。
「それは師のおかげです」
「師か……確か錬金術師協会のクラウディア・ツェッテル本部長だったかな?」
知ってるんだな。
まあ、領主ともなれば情報は仕入れるか。
本部長って悪名も高いし。
「はい。尊敬すべき師です」
尊敬(笑)。
俺の方が絶対に錬金術の腕は上だ。
「そんな人物がこの町に来ただけでも喜ばしいことなのにさらには消火活動にも参加するとはな……私にも子供がいるが、君のような人物になってもらいたいものだ」
やめとけ。
凡人はどんな努力をしようと天才にはなれないのだ。
そして、こんなことを思っているから確実に嫌われるぞ。
「もったいないお言葉です。ですが、私だけでなく、支部の者達と協力したのです」
「ほう……錬金術師協会は素晴らしいな」
そうそう。
俺以外は素晴らしいよ。
「ありがとうございます。これからも皆と協力し、町のため、国家のため、そして何より人のために尽くしたいと思います」
いやー、俺ってすらすらと嘘がつけるんだなー。
嘘しか言ってないわ。
「うむ、さすがだ。エーリカ君、君も成長著しいと担当の者から聞いている」
ルーベルトさんかな?
「ありがとうございます。ジークさんに師事をし、色々と教えてもらったおかげです」
「ほう! 君はジークヴァルト君の弟子なのかね?」
「はい。私達は経験も浅く、実力もないのでジークさんに教えてもらっています」
実力はあるがな。
まあ、謙遜か。
「ふーむ……今のリート支部に所属している錬金術師は君達を含めて4人だったかな?」
「はい。少ないですが、少ないなりに頑張っています」
ホントだわ。
「他の2人の錬金術師もジークヴァルト君の弟子かい?」
「えっと……あの、アデーレさんって結局、弟子なんですかね?」
エーリカが小声で聞いてくる。
「……さあ? 微妙な感じになってるな……お前らと同様に教えてはいるが、あいつって同級生だからあんまり弟子感がない」
「……レオノーラさんも同い年じゃないですか」
「……あいつは子供っぽいしなー」
背も低いし、なんならエーリカよりも年下に見える。
「……じゃあ、弟子じゃないんです?」
「……説明が面倒だから弟子ってことにしとけ」
別に弟子だからといって何かが変わるわけでもない。
俺は今の理不尽な師弟制度に異を唱えるのだ。
「3人共、ジークさんに師事していますね」
相談が終わったエーリカが町長に答える。
「そうかね……まあ、良いことだと思うし、頑張って良い錬金術師になってくれ。ジーク君も言ってたが、それが町や国家、そして、人々のためになる。君達には期待している」
「ありがとうございます。頑張ります」
エーリカが頭を下げた。
「うむ……さて、そろそろ感謝状の授与といこう……写真を撮るかね?」
町長が記者達を見る。
「お願いします」
女性記者が頷くと、町長が立ち上がったので俺達も立ち上がった。
そして、町長がデスクから賞状を取り出したので横に行く。
「エーリカ、ちょっと来い」
そう言うと、端に避けていたエーリカがやってくる。
「どうしました?」
「ヘレンを抱えて、端に写るような位置で嬉しそうな顔で立ってろ。好感度が上がる」
「あ、はい」
エーリカがヘレンを受け取ってちょっと端に寄ったのでカメラマンの位置に行き、確認する。
「もうちょい左だ……そう、そこ。どう思う?」
カメラマンに聞いてみる。
「もうちょっと猫さんをアピールした方が良い気がしますね」
なるほど。
可愛いもんな。
「ヘレン、エーリカの頭に乗れ」
「こうですかー?」
ヘレンがエーリカの頭の上に登っていった。
「そうそう。エーリカ、拍手している感じで手を合わせろ」
「はーい」
よしよし。
「町長は?」
もう一度カメラマンに確認する。
「威厳があって良い感じですね」
まあ、貴族だしな。
「よし、あとは俺が謙虚にいけばいいな」
それで好感度はバッチリ。
「できたらジークヴァルトさんは自信たっぷりでお願いしてもいいですか?」
ん?
「なんでだ? 謙虚な方が好感度が高いだろ」
「王都から来たエリートみたいな感じの記事を書くんで……王都の魔女の一番弟子がリートに来たみたいな感じです」
そっちでいくのか……
まあ、そっちの方が事実に近いか。
「じゃあ、それでいく」
そう言って、町長の横に立った。
「いいかね?」
町長がカメラマンに確認すると、頷いたため、町長が感謝状を授与してくる。
そして、俺がそれを堂々と受け取ると、カメラマンがパシャパシャと何枚か写真を撮った。
「はい、オッケーです! ありがとうございました」
終わったので受け取った感謝状を空間魔法にしまうと、エーリカのもとに行き、ヘレンを返してもらう。
「なんかすごい作ってましたね……」
エーリカが苦笑いを浮かべた。
「それがマスメディアだ。俺達や町長は評判が上がる。こいつらは新聞が売れる。こういうのは持ちつ持たれつだし、そのためにはいかに民衆を騙すかだ」
「へ、へー……」
エーリカがかなり引いている。
「ウチは真実を伝えるのがモットーですよ」
「私も政治の透明性を売りにしている」
はいはい。
皆、そう言うわ。
どうせ新聞記者も町長が呼んだんだろ。
「まあ、なんでもいいわ……町長、ありがとうございました。私達は下で取材らしいのでこの辺りで失礼します」
「うむ。また仕事を頼むこともあるだろうがその時は頼む」
仕事を頼む?
もうもらっているけどまだあるのか?
「わかりました。その時はお願いします」
俺達は部屋を出ると、記者連中と共に1階に降りていった。
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