飛空艇から降りると、空港を見渡す。
空港と言っても屋外だし、平野だ。
とはいえ、あちこちに飛空艇が置いてあり、その数はリートの空港とは比にならない。
ここはかつて、アデーレに見送られ、自己紹介をされたところでもある。
「すごいですねー。飛空艇がいっぱいです」
エーリカがキョロキョロと見渡す。
「ここから国内外のあちこちに行くからな」
「へー……さすがに国外は行ったことないですね」
俺もないな。
まあ、用もないんだが、よく考えたら前世でも日本から出たことがないわ。
俺達は空港を出ると、街中を歩いていく。
「人が多いですね」
確かに多い。
ここに住んでいた時は何も思わなかったが、リートと比べるとやはり多く感じる。
「単純に人口が3倍だからな」
「すごいです。よく王都は華やかと聞きますし、学生時代には王都志望の人が多かった理由もわかりますね」
若い人間は田舎よりも都会の方が良いんだろうな。
そのおかげでリート支部に人がおらんのだがな。
「俺はリートの方が良いわ」
「私も。それに場所よりも人だよ。私はあそこで君達と楽しく生きたいね」
レオノーラが何か良いことを言っている。
「レオノーラさん……」
感動したエーリカがレオノーラを抱きしめた。
「ジークさん、これからどうするの? ホテルに行く?」
アデーレが2人をスルーして聞いてくる。
「いや、先に明日の会場を見に行こう。錬金術師協会の会館だよな?」
「そうね。私はそこで受けたから知ってるけど、2人は初めてだから先に場所を確認した方がいいでしょう」
国家錬金術師試験の会場は基本的にはその会館で行われる。
ただし、エーリカやレオノーラが受けた10級は各地の町でも受験できる。
理由は受験者の数であり、10級を受ける受験者は多く、とてもではないが、王都の会館だけでは対応できないからだ。
だから各地に試験官を派遣して、資格試験が開催される。
逆に9級以降になると、受験者の数が一気に十分の一以下になるので王都の会館で行われるのだ。
まあ、それほどまでに難しい試験なので仕方がない。
「2人共、友情の確認は済んだだろ。行くぞ」
「あ、はい」
「友情じゃなくて愛情だよー」
どっちみち、天下の往来で何してんだ。
俺達は大通りを歩いていき、会館を目指す。
そのまましばらく歩いていると、大きな5階建ての建物が見えてきた。
「あれが試験会場となる会館だ」
「大きいねー。ウチの支部よりも大きいじゃないか」
「本当ですね。でも、あれって何の建物なんです? 本部は別にあるんですよね?」
え?
「確かに本部はこの先にあるんだが……アデーレ、会館って何だっけ?」
「さあ? 試験会場だったり、年に一回ある各地の支部長が集まる会合に使われるくらいしか知らないわね」
うーん、箱物の匂いが……
まあ、いいか。
「よくわからんが、あれが試験会場だ。明日の9時からだからちゃんと遅刻せずに行けよ」
「はい!」
「3人で行くから大丈夫だけどね」
「場所を知っていれば、たとえ、はぐれても大丈夫でしょ」
まあ、さすがに子供じゃないから人に聞くなりすればいいからどうとでもなるだろうが、試験当日に余計なトラブルを招くべきではないのだ。
「じゃあ、場所はわかったな。今日は観光せずにホテルで休め。そういうわけでチェックインしに行こう……セントラルホテルってどこだ?」
予約してくれたのもレオノーラだし、3人娘についていけばいいと思って、調べてすらいない。
「あなたって王都出身なのに知らないのね……」
「王都にいるのにホテルなんて泊まらないだろ」
「いや、セントラルホテルは繁華街にあるから…………こっちよ」
アデーレが空気を読んで案内してくれる。
俺は飲み会に一切、参加していないので繁華街なんて行ったことないのだ。
「ジーク君ってどの辺に住んでたの?」
レオノーラが聞いてくる。
「この辺りだな。ここは王都の西側でさっきの会館や本部があるんだ」
なお、繁華街は中央辺りにあり、今はそこに向かっていると思われる。
「へー……結構立地の良いところに住んでたんだね」
「立地は良かったな。でも、その分、家賃は高いし、部屋は狭かった。リートの寮の方が何倍も良いぞ」
立地は最高でそこそこ広いのに安い。
しかも、三食付きで言うことないな。
まあ、三食はエーリカのおかげだけど。
「やっぱり家賃は高いんだ」
「ワンルームのくせに7万エルもした」
リートの2LDKのアパートは半額の補助が付くから2.5万エルだ。
「高いねー……アデーレも?」
「ウチは9万エルしたわね。本部の方が給料は良かったけど、断然、リートの方が手取りは多いわ」
9万……リートの寮の3倍強だ。
「華やかな王都の現実だね」
「しかも、人が多いからうるさいぞ。夜中に騒ぐ奴とかもいる」
「すごいね……よく我慢したね?」
「防音の魔道具を作った。今の寮は防音もしっかりしているから使ってないがな」
あれは結構便利だった。
でも、今となっては火事が起きた時に怖いがな。
「相変わらず、色々作るねー」
「残業して帰ってうるさかったら本当にきついからな」
イライラ度が半端ない。
「なんか話を聞いていると、王都も嫌なことが多いんだなーって思いますね」
生粋のリート娘がしみじみとつぶやく。
「良いことも多いと思うがな。でも、俺はあそこでいいわ」
「はい! 頑張りましょー」
エーリカが嬉しそうに頷く。
「そうそう。リートで楽しく過ごそうよ」
「でも、ジークさんは王都志望でしょ」
いやー、毎日のようにこれからのことを考えるんだが、どう考えてもお前らを弟子にした時点で王都には帰れんわ。
しかも、一回挫折しているから王都で頑張ろうという気力が微妙に湧かない。
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