クリスとの話を終え、アトリエを出ると、そのまま本部を出た。
そして、ホテルの部屋に戻ると、ベッドに横たわる。
「ふう……結構やることがあるな」
「試験問題作成に杖作りですもんね。でも、凱旋門とチョコレートケーキと楽器のお店に行くのも忘れてはなりません」
遊びだな。
まあ、気分転換にはなるだろう。
「わかってるよ。まあ、半分は休暇なんだ。適当にやる」
「それが良いと思います……んー? ん? んん?」
ヘレンが扉の方を見て何回も首を傾げた。
何故ならノックが3回も聞こえてきたから。
「クイズだな。アデーレ、レオノーラ、エーリカだ」
「1番と3番がわかりづらいんですよねー……」
アデーレとエーリカのノックの音はちょっと似ているからな。
「開いてるぞー」
そう声をかけると、扉が開き、3人娘が入ってきた。
しかも、レオノーラを先頭にするという姑息さ。
「やあやあ、ジーク君。お疲れ様だね」
「お休み中でしたー?」
「本部はどうだった?」
3人娘が矢継ぎ早に聞いてくる。
「今日は話だけだ。さっき帰ってきたばかりでベッドに寝転んでいただけだ。いつも通りだった」
ちゃんと3人に答える。
「機械みたいだよー。それよりさ、誰がノックしたと思う?」
ほら、クイズだ。
「アデーレ、レオノーラ、エーリカだ。そして、誤魔化すために入ってくる順番を変えた」
「おー! すごーい!」
「本当にわかるんですね。なんでわかるんですか?」
エーリカが聞いてくる。
「お前らもよく聞けばわかると思うぞ。結構わかるもんだ」
しょうもない能力だわ。
「へー……今度よく聞いてみます」
「コツは愛だよ、愛」
「愛ですかー。良いですねー。私もよく考えたらレオノーラさんはわかる気がします。愛ですかね?」
「愛だよー」
お前はわかりやすいんだよ。
「買い物は済んだのか?」
謎のやり取りを始めた2人を放っておき、アデーレに聞く。
「今日は見て回っただけ。買うのは後ね。そっちは?」
「本部長に仕事の話を聞いてきた。それとクリスと少し話したな。あ、受付でサシャとマルタに会ったわ」
「へー、元気そうだった? 手紙のやり取りはしているんだけど、マルタは忙しそうなのよね」
アデーレって本当に手紙が好きだよな。
電話でいいじゃん。
「忙しそうではあったな。でも、元気そうだったぞ。サシャも含めて食事に行きたいって言ってたし、時間を見て、行ってこいよ」
「そうしようかな……」
「その辺は明後日にでも話せよ。あ、そうだ。お前ら、仕事はどうする? 俺は明日から試験作成と杖作りに入るが、別に王都を回るなり、買い物に行くなりして遊んでてもいいぞ。できたらテレーゼのアトリエを奪いたいからついてきてほしいけど」
あいつは絶対に3人娘がいてくれないと、アトリエを貸してくれない。
「一応、仕事の名目で来てますから行きますよー」
「うん。行く。マルティナちゃんに魚を持っていかないといけないしね」
「それもあったわね。となると、薬品生成チームに行くのか……」
そうなるな。
「アデーレ、頼んだぞ。真っ先にエルヴィーラに話しかけるんだ」
「いや、ハイデマリーさんが絶対に覚えてないって言うと思うけどね」
言いそうだ。
「とにかく、頼むわ」
「わかったわ」
その後、少しゆっくりと過ごし、夕食の時間となったので俺の部屋で食べる。
そして、この日は明日のことがあるので早めに就寝した。
翌朝は例によってバイキングでテンション高めの3人娘に呆れながら朝食を食べる。
「あー、お腹いっぱいです」
「まさか追加でフルーツが出てくるのは予想外だったね」
「歩こ……」
満喫してんなー。
「じゃあ、俺は本部に行ってくるから頑張れよ」
そう言って立ち上がった。
鑑定士の試験は午後からのため、こいつらはホテルで待機なのだ。
「はい。終わったらホテルでいいですか?」
エーリカが聞いてくる。
「そうだな。多分、お前らの方が早いと思うから帰ったら声をかけるわ。それから夕食に行こう」
「わかりました!」
「いってらっしゃーい」
「サシャによろしく……あ、休み、かしら?」
俺はお腹をポッコリさせ、一言も発せずに倒れているヘレンを抱えると、席を立ち、ホテルを出る。
「ヘレン、大丈夫か?」
「苦しいですー。これが幸福の苦しみってやつですかー?」
ただの食べすぎだ。
「明日からは自重するんだな」
「そうしまーす」
そう言いつつ、食べるのが食い意地が張ったウチの猫なんだよな。
あまり振動しないようにゆっくりと歩き、本部にやってきた。
そして、本部に入ると、受付にはサシャがいたので近づく。
「よう。お前は休みじゃないのか?」
「おはようございます、ジークさん。私は一昨日休んだので今日は出勤です」
受付って休みも安定してないんだよな。
大変だわ。
「お疲れさん。仕事なんで本部長のところに行くわ」
「あ、それなんですけど、本部長は急遽、大臣に呼び出されたとかで王宮に行かれました」
あー、休みだというのに大変だな。
権力を手に入れるとこういうこともあるか。
「わかった。そういうこともあるだろう」
「ですね……それで伝言なんですが、『部屋は貸してやるからもう一つの方の仕事でもしてくれ』だそうです」
杖の方ではなく、試験問題の作成か。
「じゃあ、そうするわ。本部長の部屋にいるが、余計な電話は回すなよ」
「わかってます」
サシャが頷いたので階段を昇り、本部長室に向かった。
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